異世界に向って撃て!!~駆け出しガンマン、異世界で適当にやってます~

秋津 モトノブ

巻き込まれて異世界

第1話 巻き込まれ召喚、初手で詰んだ感。

「……一体何がどうなってんだ?」




 気が付いたら、真っ白な空間にいる。


夢かと思ったが、どうにも現実感がある。




 夢の中にありがちな、足元がふわふわするような感覚がない。


さっきまで普通に起きていた……はず、だよな?


とにかく状況を整理してみるか。




 オレの名前は『東森逸人ひがしもり・いつと』、当年とって25歳。


趣味は西部劇鑑賞にトイガン収集、と。


職場は、学校に教材や教科書なんかを卸している会社だ。


そこの、吹けば飛ぶような平社員である。


今日は嫌で嫌でしょうがない月曜日で、時刻は7時半くらいだった。


そして、いつものように通勤の途中だったはずなんだが……




 うん、しっかり自己が認識できている。


論理的な破綻も、記憶の齟齬もない。


ここから見える範囲でも、ちゃんとスーツは着ているし鞄も持っている。


いつも通りの通勤スタイルだ。




「……んん?」




 まっ白一色の空間かと思ったが、違うようだ。


目が慣れてきたのかな?


オレよりも正面に、何人かいるようだ。




 アレは……学生、か?


男が1人と、女が2人見える。


たしか、会社の近所にある高校の制服だな。


って、あいつら……!!






「―――つまり僕たちは、異世界の危機を救うために召喚されたっていうワケですね!!」






 3人の中で唯一の男。


そいつが声を上げて感動している。


女2人はそいつに左右からしがみ付いている形だ、いいねえ…両手に花か。


長身に、腹が立つほどいい声だ。


間違いない、アイツ……!!


通勤途中によく見かける、ある意味近隣の有名人!!




『西高のハーレム野郎』だ!!




いつもいつも、幼馴染だとか同級生だとか義妹だとか教師だとかとイチャコラしながら登校してるクソ野郎じゃねえか!?


別に親戚でもなんでもねえが、通勤途中に漏れ聞こえてくる会話ですっかり覚えちまってんだ!


同僚の間でも結構な有名人だぞ、どっちつかずのクソ野郎ってな。


女性陣から明らかに好意を寄せられてんのに、知ってか知らずかのらりくらりとハーレム生活を謳歌してるって話だ。


教科書の納入に行った時も、結構なレベルで陰口叩かれてたからな。


興味もねえのに覚えちまったぜ。


 


 うわー……それに召喚?異世界?


非現実的な空間に来ちまって、とうとうイカレちまったのか?


たしかに現状はわけわかんねえが、虚無に向かって受け答えする程じゃねえだろ。




 と、思ったがどうも違うようだ。


やつの見上げる先に、『何か』いる。


オレのポンコツ眼球がようやくこの謎空間にも適応してきたみたいだ。




『そうだ、お前たちの稀有な能力を我が世界の為に役立てて欲しい』




 ハーレム君の斜め上くらいに、ビックリするようないい女が浮かんでる。


浮いてるから正確な身長はわからんが、たぶん2メートル以上あんな。


髪が真っ赤で、高そうな飾りが全身に付いてる……一体いくらくらいすんだろな?


服は、なんかアレだ、トーガ?だっけ。


高そうな布を巻き付けてる感じ。


古代ローマだかなんだかの貴族っぽい。


っていうか、女神っぽいな。




『早速説明を……ん?なんだ、お前?』




 と、女神サマがこっちを見た。


うーわ、正面から見るとさらに美人だ。


胸が全然ない以外は完璧な女体だな、惜しい。


それにしても目が紫色ってなんだよ、やっぱりまっとうな人間じゃねえな。


浮いてる時点で今更なんだが。




『どうやってこの空間に入ってきた?私は招いた覚えはないぞ』




 いや、そう言われても。


こっちもチンプンカンプンなんだけど。




「いや、オ…私としても驚愕していると言いますか。さっきまで普通に街を歩いていたものですから、何もわからないのですよ」




 しかし、オレにもわかることはある。


この女神サマはヤバい、絶対的な強者ってやつだ。


深夜の繁華街でヤクザに囲まれた時より100倍…いや1000倍は怖ぇ。


なんかこう、オーラ?みたいな?


圧力がすげえ。


こうして立ってるだけでも足が震えてきやがる。


……できる限り下手に出ておこう。


召喚がマジなら、この状況を作り出したのは間違いなくこのお方だ。




「あれ、教科書のオジサンじゃん!」




 ハーレム君にしがみ付いていた女の片割れが、俺を見て目を丸くする。


あー……たしか幼馴染だな、アイツの。


いかにもギャルって感じで、スカート丈もむっちゃ短い。


毎回パンチラしてるんで、訴えられないようにアイツがいる時は目線を露骨に逸らしてたな。


もう片方は……あっちも幼馴染だな、逆に黒髪ロングの清楚系って感じ。


オレを見てちょっと驚いてる。


たまに教科書の陳列とか手伝ってくれたっけな、いい子だ。




 しかし教科書のオジサンねえ……愛想よくしといて助かったな。


少なくとも覚えてはいたらしい。


なんとかとりなしてくれねえかな。


オレ、完全に巻き込まれた側なんだし。




「あの、女神サマ!あのオジサンはさっきまで後ろを歩いていた人なんですけど……」




『ふむ、そうか』




 よっしゃ、ギャルいいぞ!その調子だ!




『……なるほど、どうやら召喚陣にひっかかっていたようだな。もう少し範囲を狭めればよかったか』




「さ、さようでしたか」




 完全にもらい事故じゃねえか。


つまりなんだ?この女神サマがあの3人を呼んだ時にオレまで引っ張ってきちまったってことか?


はー…神サマでもケアレスミスとかすんのな。


全知全能じゃねえのか。


 


 まあいい、どうにもオレはお呼びじゃないようだ。


それならとっとと帰してもらえそうだな。


今日は全体会議があんだから遅刻するわけにゃいかねえし、ありがたいね。


異世界だかそういうのは、前途ある若者に任せよう、そうしよう。




『さて、どうしたものか。送還はできぬし……』




 ……ん?


なんか今、聞き捨てならん言葉が聞こえたような気がするが。






『そこの男、運が悪かったと思って諦めよ』






 ……なにが?


え?とんでもないこと言ってないかこの女神。




「ええと、つまり、その……どういう、ことでしょうか?私はなにか、その、まずい事態を引き起こした、と?」




『召喚は一方通行よ。送還はできぬ』




 オレのしごく当然の疑問は、無慈悲な一言で一刀両断された。




『お前のいた世界からこちらへ召喚する際、魂と肉体も同時にここへ移動させた。向こうに戻すには色々制約があってだな、即座に戻すわけにはいかぬし……面倒だ』






 めん、どう?






 オイ、今コイツ面倒って言ったか!?


勝手に!呼んどいて!面倒ゥ!?


さ、さっすが神サマだ、傍若無人だなあ!




 完ッ全に理解した……コイツ、地球でいう所のギリシャとかアッチ系の神サマだわ!!


自由奔放で!人間のことなんざ暇つぶしのアプリくらいにしか考えてねえクズの集まりだ!!


畜生!!仏教的優しさを求めてぇよ……!!




「つまり、私は、この先どうなる……のですか?ひょっとして異世界に送り出される、と?」




 冷や汗をかきつつなんとか絞り出したオレの一言は、またも粉砕される結果となった。






『……は?何故私がお前なんぞを遣わさねばならんのだ、なんの突出した技能もない、お前のような無能を。私の名のもとに?ふざけるのも大概にしろよ、人間』






 心外だ、とでも言うように。


女神は俺を蔑んだ……どころじゃねえ、虫けらでも見るような視線でそう吐き捨てた。




 マジか、マジか、こいつ。




 ふざけるな?一番ふざけてんのはテメエだろうがよ。


つまり、ええっと……やべえぞ、嫌な予感しかしねえがもう諦めて聞こう。




「……申し訳ありません、女神サマ。端的にお聞きしますが、私はこれから、どうなるのですか」




 女神はなんてことのないように言った。




『この空間はあと15分ほどで閉じる。あの3人は転移するが、お前は消滅する』




 へー、そうなんだあ。


オレ死んじゃう……いや、消えちゃうのかあ。


絶望的だなあ。




 もう泣きそうだわ、畜生め。


そして同時にはらわたがぐつぐつと煮えたぎり始めた。




 今まで生きて来て、こんな理不尽はさすがにねえぞ。


大学時代に、彼女に二股かけられて間男にぶん殴られた時よりひでえ。


あの時は死ぬ気で反撃したら何故かオレが警察に拘留される羽目になったが、今回は女神相手だ。


確実に、もっと最悪な状況だ。




 アパートのこと、会社のこと、給料のこと、それから最近通ってたオキニの風俗嬢のこと。


一瞬のうちに走馬灯めいた考えが脳裏に浮かんでは消えていく。




 ああ畜生…こんなことになるなら、ミキちゃんにアクセの1つでも贈っておくんだった。


そしたら1回くらいゴムなしでしてくれたかも……


それからクソ部長の残り少ない髪の毛を毟っておくんだった……


あと気になってたモデルガンも買っとくんだった……




「あー……そうっすか、ははは。勝手に巻き込んどいて、勝手に死ねって?はははは……はぁあ!?ふざけんじゃねえぞ!!」




 もう敬語はいらんよな、こんなアバズレに。


こんな芸当ができる奴だ、オレ程度が何をしても無駄だろう。


それにさっきの態度からして、懇願しようが泣き落とそうが何も変わらんだろう。


だって虫けら認定してるもん、オレを。




 ―――確信がある。


こいつ、性格、クソ悪い。


オレといい勝負かもしれん。




『貴様、不遜であるぞ』




 おっと、お前から貴様にランクアップしたぞ。


いや、ランクダウンかな?どうでもいいや。


どうせ消滅するんだ、言いたい放題言ってやるよ!




「うるせえよクソ貧乳が。どうせ消滅すんだから文句くらい言わせろ、間抜けぇえげっ!?」




 なんかクッソ吹き飛ばされた!?


かと思ったら今度は引き寄せられた!?


あー……なんか折れてる、肋骨辺りが絶対折れてる。


胸が超痛い、もう泣きそう。


なんか謎の力で女神付近まで引き寄せられたしよ、糞が。


殺すならとっとと殺せってんだ。




『随分な口をきくな、下郎』




「今度は下郎かよ、呼称のバリエーション、豊富だなァ。段取りの、一つもロクにできねえような、無能、女神モドキにだけは、言われたくねゥウ!?!?」




 がっああ!!畜生!!


肩外れた!絶対肩外れたぞ!!ゴキンって聞こえたし!!!


なんで今度は自前の手で引っ張るんだよ!そこは、衝撃波だろうがよ!!


情緒不安定かてめえ!!




『良くまわる口だな、気を付けよ。私は優しくはないぞ』




「今までの対応から!テメエを優しく感じる要素は!!どこにもねえんだよ!!自意識過剰、だなオイ!!原子からやり直せってんだァア!?」




 今度は逆の肩抜きやがったなコイツ!!


あーわかった、オレがギャン泣きで殺してくださいって言うまでこれ系の攻撃続ける気だよ。


はは、なーにが女神サマだ。


絶対邪神だろコイツ。




「おいおっさん!女神サマに謝れよ!!失礼だろ!!!」




「なんだこのクソハーレム野郎!!今までの状況見て聞いてその感想しか出ねえのか!?どう考えても失礼の権化はこの長身豪華クソ馬鹿邪神だろうッ!?っがあああああ!?!?」




 ハーレム君まで参戦してきやがった!


ぐうう……それにしても、足の指を1本ずつへし折るとか、この女神ホンットクズ!!


天罰ジャンルじゃないぞこの攻撃!絶対拷問官ジャンルの攻撃だろ!!




「それでも、こんな綺麗な人にそんな口きいちゃダメだろ!!」




「うるせえよ異世界転移組がよォ!?オレはここで完膚なきまでに消滅すんの!!最後っくらい好きにさせろよ!!」




 あーもうマジで腹立つ。


体中いてえし、小便漏れそうだし、失神しそう。


全てに腹が立つ。




 もういい、こうなったら。


そこら中に爪痕残して消滅してやらァ!!!


オレぁ、理不尽と性格の悪い屑が大嫌いなんだよ!!!!

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