第15話

 月曜日の夜八時、僕は緊張しながら池田さん宅にスマホから電話をした。すると電話に出たのは池田さんの母親だった。「突然申し訳ありません。私、山本興信所の田中井と申すものですが、実はいま矢早さんの自殺について調べているのですが」と言うと池田さんの母親のほうから「矢早君の件は本当に残念です。まだ若いのに」と言った。僕はあたりだと確信した。「それで真一さんに少しお話を聞かせてもらえないかと思いまして」そこまで言うと「真一はまだ帰ってきてないの。土日休みだから、またかけなおしてくれる」と池田さんの母親は答えた。「分かりました。では改めて連絡させてもらいます。それでは失礼いたします」と僕は電話を切った。僕はついている。池田さんはまだ実家に住んでいたのだ。すべてが僕の思い描いていた理想の形だ。僕はこれで真実を知ることができる。明日大学に行ってICレコーダーを買ってこようと決心した。それから土曜までがとても長く感じた。やっと土曜日になり夜の八時に再び池田さん宅に電話をしたら、出たのは男の人だった。「夜分遅くに失礼いたします。私、山本興信所の」と話しかけた途端、「田中井さんでしょ。話は母親から聞いているよ。矢早のことやね。このまま電話で話すのも話にくいから、直接会って話す?」思ってもみない提案に僕は喜んだ。「池田さんの都合がよければ、私としてもとてもありがたいのですが」「別にいいけど、最近仕事が忙しいからゴールデンウイーク明けでもいいかな?」「もちろんです」「それなら五月十四日の土曜日の十三時。場所は俺のうちの近所のピエロっていう喫茶店で。東○○駅下りたらすぐに見えるから迷わないと思うわ」「分かりました。ありがとうございます」「でも俺と田中井さん会ったことがないよね」「それは大丈夫です。スーツに黒縁眼鏡に黒いキャップをかぶっておきます」「それならわかるか。でも不審者感丸出しやね。職務質問されないように気を付けや」と軽い冗談を言って池田さんが笑う。僕もつられて笑うが「職場からそんな姿で行きませんから」と返すと、池田さんも「当たり前か」と言い「それなら五月十四日に」と再確認してきたので「ありがとうございます」と僕は答えて電話を切った。この電話のやり取りで池田さんはすごく聡明な人だなと感じた。こちらから何も言わずして相手の意図を感じ取ってくれる人だった。僕はそんな池田さんに好感を持った。

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