第7話

 僕は矢早さんと父と母との間にあった真実を知らなければいけない。なぜならそれは僕の罪の問題でもあるからだ。ここは今までみたいに現実から逃げることは出来ない。それ故に僕は絶対に矢早さんを知っているはずなのに知らない人だと言い張った父を疑った。あの写真を見ると母と矢早さんが高校時代に付き合っていたことは間違いない。きっと父が矢早さんから母を奪ったのだろうと僕は推測した。しかしいくら疑っても、父に直接聞くことはできない。ずっと無視されてきたので、父にどう話しかけたらよいのか分からない。そこで僕は父の部屋を疑った。鍵をかけてまでも守りたい秘密があるに違いない。そこにおそらく矢早さんとの関係を示す証拠があるのだ。だから僕は父の部屋の鍵を何とか入手できないか考えた。高校に入って買ってもらったスマホで鍵屋を検索すると、鍵の写真と鍵の番号でスペアキーを作ってくれるサービスを見つけた。すぐに僕はスペアキーを作ることを決めた。しかしどうやって? 父は家にいる時も部屋に鍵をかける。食事のときもお風呂のときも。僕はふと気が付く。父はトイレに行く時だけ鍵をかけない。そこで僕は意図的に父をトイレに行かす方法を考えた。うちの食事は基本的にみんなそろってから食べる。もちろん父の帰りが遅かったり、僕が遅くなったりなどの例外時はあるけども。そこで父に下剤入りのお茶を飲ますのだ。早速僕はドラックストアで錠剤の下剤薬を買ってきた。それを説明書より一錠多く砕いて粉状にすると、熱いお茶に混ぜて自分で飲んだ。自然な感じに溶けたし、変な味もにおいもしなかった。しばらくするとおなかが痛くなりトイレに駆け込んだ。これはいけると確信した僕は粉状にした下剤を小さな紙で包み、部屋の僕の机の引き出しにしまっておいた。ここまで準備をしたら、父がいつも通りの時間に帰ってきて食卓を囲むその時が実行の日だ。あとはただ待つだけだと思っていたが、チャンスは意外に早くやってきた。粉状の下剤を作った次の日。父は定時に帰ってきてから部屋に閉じ困っている。母は台所で食事の準備をしている。祖父と祖母も自分たちの部屋にいる。僕は思い切って台所に行き、それぞれの決まった湯飲みと急須をリビングに運んだ。いつもはしない行動だったが母は無視だった。いつもより茶葉を多めに入れて電動ポットでお茶を入れる。父の湯飲みに熱いお茶を注ぎポケットから小さな包みを取り出してお茶に下剤を混入した。そしてそこにあったボールペンでかき混ぜた。よし、と思ったら母が料理を盛り始めたので、僕は一旦部屋に戻ることにした。こんな時に祖父のそれぞれの立場で上座下座など座る場所が決まっているという考え方が役に立つなんて思ってもいなかった。七時半になるとみんながリビングに集まり出し、夕食になった。相変わらず父は部屋に鍵をかけ、その鍵は無造作にテーブルの上に置かれている。きっと部屋でも同じに違いないと僕は確信した。食事が終わり母は片付け、祖父と祖母はリビングでテレビを見ている。父はいつものように部屋に戻ってしまった。台所やリビングから父の部屋は死角になっていて都合がいい。僕は自分の部屋で父の部屋のドアが開くのを待っている。するととうとうその時が来た。父がトイレに向かったのだ。僕はスマホ片手に忍び足で父の部屋に向かう。時間がないと焦り、手が震える。ドアノブに手をかけるとやはりドアは開いていた。電気は付いたままだった。初めて入る父の部屋。昔は父の趣味の写真用の暗室だったが、今はそんな面影は全くない。机を見るとやはり鍵はそこにあった。僕は震える手で鍵を撮影する。鍵番号、メーカー名など分かるように十枚くらい写真に収めて部屋を出た。自分の部屋に帰ると手が汗でびしょびしょになっていた。心臓はバクバクしている。僕はスマホの写真を確認してみたが、そんな状態でもぶれずにきれいに撮れていた。鍵番号もはっきりわかる。そこまで確認すると、僕は膝から崩れていった。

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