春の感じ

星歩 一

第1話 誰も自分を知らない町へ

 今日はどこか遠くに行きたい。

 そう思って、最寄り駅まで足を運ぶ。その足音のタップリズムは遅くなったり、早くなったり。向ける視線は遠くを見たり、足元見たり。

 空には少しの雲がかかっているが、天気は晴れだ。駅に着いて、改札をくぐり、ホームへ進む。いつもの学校に行く工程と同じだが、作業感が全くない。足が重い。

 本当なら、階段を下って右側に寄り、南に進む電車に乗るところだったが、今日はあえてその逆、つまりは階段を下って左側へ歩いた。緩やかな小川に逆らうみたいに。

 まもなくして電車がホームに入ってくる。そしてスッと止まる。開く扉は優しく、無機質。人は出てこなかった。いつもの扉は結構人が出てくるのに、なんてことを頭の中でぼんやり思った。

 いつもなら車内では読書する。それがルーティーンで、落ち着く。しかし今日は本を開かなかった。読みたくないわけではなかった。ただただ読まなかった。なんだか今日はいつも通りに動かないな、俺。

 ドア横の壁に寄りかかり、自然と、ドア窓の向こうの景色に目を向ける。街のシンボルタワーが目に入った。ここからも見えるんだ、と心の中で呟く。あいつはいいよなぁ、皆から讃えられてさ。

 電車に乗ってから終点に着くのに、そんなに時間はかからなかった。なんせ三駅先が終点だったからだ。ん〜、駅と駅の間隔の距離は普通くらいだろう。都心と郊外、田舎などでそれぞれ距離が変わるのは当然分かっていたが、普通くらいだと感じた。なぜかは分からない。


 つづく

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