第7話 狂戦士

 青年は一人、宛もなく彷徨っていた。


 一人でフラフラと、闇の中を彷徨っていた――。


 彼はある罪を犯した。


 それはこの世界を支えるという世界樹ユグドラシルを彼のその手で焼き尽くしたことだった。


 以来、彼は世界を追われる身となった。


 あれからどれくらいの時間が経っただろう。


 とにかく疲れた。


 狂戦士ベルセルク。それはかつての自分につけられたあだ名だ。


 しかし、およそそのあだ名からはかけ離れすぎている。優しすぎる性格だと言われたこともある。


 そんな自分がどうしてそのあだ名で呼ばれるようになったか?


 今となってはもうわからない……。


 しかし、これだけは確かだった。


 守りたいモノがこの手にはあった。


 変わり映えはなくても、かけがえのない大切な日々。そんな日々の中で笑う人々。


 しかし隣国はそれをいとも容易く握りつぶそうとした。


 守りたいモノのために、まるで悪魔のようにどこまでも残酷になれた。


 たとえ敵が必死で命乞いしてこようとも……。


 彼にも守りたい大切な何かがあったろうに……。


 けれどもどこまでもどこまでも俺は残忍になれた。


 そこから狂戦士というあだ名がついたのかもしれなかった。


 ある日、王より授かった指令。


 それはこの世界を支えるという世界樹を大毒蛇ヨルムンガンドから守り抜けというもの。


 だが結果は――。


 青年は一人、宛もなく彷徨っていた。


 一人でフラフラと、闇の中を彷徨っていた――。

 

 いつの間にか彼は力尽きその場に倒れた。


 身体中がひどく冷たい。水のような感触がする。実際、彼は水の中を漂っていた。


 水?


 もしや俺は海の近くで倒れたのか?そしてそのまま波に攫われたのか?


 だから今、冷たい水の中を漂っているのか?


 そんな彼の思考も次第に闇の中へ――。


 かつて狂戦士と謳われた青年。


 今もまだ暗い水の中を彷徨っているのだろうか?

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