第5話 零の地点

 目を覚ますと少女は暗闇の中にいた。否、暗闇ではなかった。所々に粒状の無数の光が瞬いていた。


 少女はそれを、まるで満点の星々のようだと思った。


 ――ここは零の地点。


 声がどこかで響いた。


 後ろを振り向くと、そこには少年がいた。


 少女は問うた。


 ――貴方は誰?


 少年は答えた。


 ――君の過去。


 少女は少年を眺める。


 多少の違いはあれど、確かに少女と似たような面影がその少年にはあった。


 少年は言葉を紡いだ。


 ――一見何もないような場所でありながら全てが存在する場所。


 ――それが零の地点。


 ――偶然にも君はここへとたどり着いた。


 ――いや、偶然ではないのかもしれない。


 ――なぜなら俺は君にずっと呼びかけていたから。


 ――俺は君の過去。君は未来の俺。


 少女は問うた。


 ――どうして私に呼びかけていたの?


 少年は答えた。


 ――助けて欲しいからかもしれない。でも助けて欲しくない気持ちもある。


 ――揺れる心。でも君に呼びかければ。君と巡り合ったなら全てが明らかになるのかもしれない。


 ――もし、必要があるなら。


 歌うように言葉を紡ぎ続ける少年。


 次第に彼の姿が揺らめく。


 気がつくと少女はいつものように寝台に腰掛けていた。


 少年のことなど、すっかり少女の記憶から抜け落ちていた。


 

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