第2話 恥ずかしデート

最初の事件を解決した日、僕は結局帰りが遅くなってしまった。


「やっと帰ってきた! 心配したんだぞ、本当に!」


家に着くと、叔父さんが心配していたらしく、僕を思いっきり抱きしめてきた。

自分は男だと思っていたのだが、抱きしめるときの力強さに僕は胸が苦しくなると同時にお腹のあたりが暖かくなるのを感じた。


「叔父さん! 僕は大丈夫だから。放して大丈夫だよ!」


その初めての感覚に、僕は戸惑って思わず大声を上げてしまう。

叔父さんも、そこで初めて気づいたらしく、気まずそうな様子で僕の体を放してくれた。


「ああ、すまん。思わず抱き着いてしまった……。女の子になったんだもんな」


叔父さんの言葉に、僕は改めて女の子になってしまったことを実感させられてしまう。

その事を否定したいと思う自分と、その事を受け入れようとする自分が心の中でせめぎあう。

昨日までは自分が女の子であることを否定する心ばかりだったことを思い出し、僕の心の中の女の子の部分が大きくなることに戸惑いを覚える。


今日は疲れているんだろう、そう思って叔父さんに今日はもう寝ることを伝えて寝室へと向かった。

しかし、布団の中に入ったところで、叔父さんのたくましい腕に抱かれた時の感触が忘れられず、なかなか寝付くことができなかった。


結局、叔父のことを考えながら自らを慰めることになった。

そんなことに叔父を使ったことに罪悪感を感じただけでなく、自分が女の子になったことを改めて実感させられ、その日はほとんど眠れなかった。


♪♪♪♪♪♪


それから5日ほど経って、悠李さんと約束したデートの日になった。

あの日以来、私は何度も自分が女の子になったことを実感させられたことで、次第に自分が男であったことに違和感すら感じるようになっていた。

今日着ていく服も女の子になってから購入したものであるが、こうして服を着た自分の姿を見てみると、可愛さが引き出されていないことに不満を覚えることが多くなった。


特に、今日は女の子同士(どっちも元は男だが)とはいえデートである。

今さらながら、何でもっと可愛い服を買わなかったのかと、過去の自分に文句を言いたい気持ちになった。

ともあれ無いものは仕方ないので、今持っている服の中で最大限に可愛い服を選んで待ち合わせ場所へと向かう。


待ち合わせ場所である駅前には約束の15分前ほどに到着した。

少し早かったためか、まだ悠李さんは来ていないようであった。


人通りの多い駅前ではチラチラと男の人が、何人も私のことを見ていた。

以前は、その視線をイヤらしくて気味が悪いと思っていたのだが、こうして可愛い服を着ている自分を見られることで、私の可愛さを認めてもらったような気になる。

そんな考えに至ると、逆にもっと見て欲しいという欲求が生まれ、より可愛い服、露出の多い服を着た方が良いんじゃないかと考えてしまう。


その一方で、いつの間にか心の片隅まで追いやられた男だった頃の自分が必死で警鐘を鳴らしていた。

『男に見られて喜ぶなんて、お前は男だろう?』という小さな声なんて、見られることによって得られる承認欲求の前では些末なことになっていた。


そんなことを考えていると待ち合わせ時間の5分前になっていた。

遠くの方から、悠李さんが速足で向かっているのが見えて、私は手を振る。


「遅くなってゴメン。待ったよね?」


「ううん。まだ、待ち合わせ時間になってないし。私もさっき来たばっかだから」


早めに来たので少し待ってはいたのだが、思わず嘘をついてしまった。


「そっか、それじゃあ……。最初に服を買いに行こうか。今日は私が出してあげる」


「えっ。そんな悪いよ……」


「気にしなくていいから。今日は私がカレシ役なんだから。それに玲奈も、もっと可愛い服が欲しいって思ってるでしょ?」


どうやら、服装が気に入らないと表情に出ていたらしい。

恥ずかしくて顔が熱くなり、俯き加減に頷いた。


「それじゃあ、まずは駅ビルのデパートにしようか!」


そう言って、私の手を取り誘導してくれる。

女の子同士のはずなのに、男の人と手をつないでいるように錯覚して、恥ずかしさと同時に幸せな気分に浸りながらデパートへと向かった。


デパートではいくつもの店を回り、服だけでなく、帽子や靴、果ては下着まで悠李と一緒に選んだ。

下着は試着できないが、それ以外は気に入るまで何着も試着したし、それで2,3時間使ったのだが、全く気にならなかった。


買い物を終えた私はさっそく購入した服に着替え、着てきた服は紙袋の中に入れておく。

ちょうど、昼過ぎくらいの時間になっていたので、近くにあるおしゃれなイタリアンレストランに入り昼食を取る。

私は買ったばかりの服が汚れるのがイヤだったのでカルボナーラを、悠李はミートソースを注文した。


「うふふ、玲奈の服、可愛いね」


「なっ、あ、ありがとう……」


不意打ちで可愛いと言われて、思わず顔が熱くなり俯いてしまった。


「それに料理も……。服が汚れたらとか、ニンニクで口の臭いがとか思ったんでしょ? もしかして、キスでもするつもりだった?」


「キッ、キスって……?! そんなわけないじゃない!」


思わず否定の言葉が出るが、頭の中では悠李とキスをする場面を想像してしまい、ますます顔が熱くなってしまう。


「ゴメンゴメン、揶揄うつもりじゃなかったんだけどね。あまりに玲奈が可愛すぎて。ふふふ」


「んん、もうっ! やめてよね!」


私は頬をふくらませて抗議した。

そんなやり取りをしているうちに料理がやってきて、私たちはおいしいパスタに舌鼓を打った。


「午後の予定なんだけど、今日から上映が始まる映画があるんだけど。それを見に行くってことでいいかな?」


食べながら悠李が提案する。

私も特に希望が無かったので、食べながら頷いた。

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