第3話 事件現場は臭い!

 事件現場へ向かう道中、白目をむいていたアドラは意識を取り戻し、担がれたまま移動していた。

 しかし、担いでいたクインはそれに気づき、降りる気配のない彼を投げ飛ばして下ろした。

 投げられたアドラはごろごろと転がっていく。起き上がると投げたことに抗議をした。

 

「クイン!ひどいじゃないか!いきなり投げるなんて!あほぎつね!」


「起きているのにヒトに運ばせるなんて良いご身分だな!くそわんこ!」


 そんなやり取りをしていると投げられた際にアドラのポケットから落ちた箱を女性が拾う。

 その箱には『ラムネ棒』と書かれてあり、彼が咥えているのはただのラムネだったのだ。


「あの……これ落としましたよ?」


 できるだけアドラを刺激しないように、そぉっと箱を返す。


「あ……ど、どどどどうも……。」


「相変わらずお前は女の人が苦手だな。」


「に、苦手じゃねーしっ!」


 そんなことを言っているアドラに女性を引き寄せると情けない悲鳴を上げながら後ずさりした。

 さすがの彼女もそこまで引かれると心が少し痛く感じた。


「あの……アドラ……さんは人間にもあのような感じなのですか?」


「ああ、いつだったか。突然女性恐怖症になったんだよ。理由はアイツにもわからないんだがな。そういえば取り調べの時に聞いていなかったな、あなたの名前は?」


「わ、私の名前は『ノナ』と言います。近くの商社で事務員をしています。は!仕事が……ってクビですよね。」


 ノナは休憩時間中に逮捕されたこともあり仕事のことを忘れていたのだが、早々にクビを覚悟する。

 その反応にクインは申し訳ない気持でもあった。

 獣人には雇用契約法が充実していない。したがって、無断欠勤や仕事上のミスをすると即刻解雇なんて珍しくもない。

 また、犯罪などを起こした場合は厳しい処罰が直ちに執行されることもある。

 そんな彼らはもともと戦争用に作られた実験体であることから忌み嫌われている存在だったのである。

 逆に、その実験で成功と言われる『新人類』には一生裕福な暮らしが確約された存在となる。

 

「なんかすみません。もしこれで誤認逮捕となってしまえば、あなたにどのようなお詫びをすればいいのか……。」


「……。先ほども言いましたが私はやっていないんですから、責任を取ってくださいよ?」


「まあ、俺たちゃ獣人は何でもできるから大丈夫じゃないかね?」


「そうやってお前は無責任なことを言う。さて、そろそろ事件現場だな。」


 クインがそういって大通りの曲がり角を曲がるとビルの中階層のあたりが爆発で壁が吹き飛んでいる状態であった。

 人が近づかないように規制線が張られ、獣人である彼らが見えないようにマスコミたちの人払いも完了していた。

 アドラは外の状態から鼻を「クン」とひくつかせる。

 すると、とても嫌そうな顔で口を開く。


「くせえな……。」


「爆発しているんだ当然だろ?」


 クインにたしなめられながら、建物へと入っていくのであった。



 事件現場となるフロアまで階段で登り、現場を見る。

 柱と天井と床だけが残っている状態で壁などは軽量の石膏ボードを使用していたので吹き飛んでいた。

 外壁に面したところはガラス貼りであったのでもちろんなくなっている。

 外から風が流れ込む。

 ノナは昼休みの楽しかったはずのコーヒータイムと楽しいお店の雰囲気を思い出し、事件現場の人間が焼けたニオイが風に運ばれた影響でその場に座り込み嘔吐する。

 クインはその光景を見て彼女の犯人だという決めつけは完全に薄れていた。


「アドラ、少し【眼】を使う。下がっててくれないか。」


 そう言われて、アドラは素直に下がる。

 クインは目を閉じて深呼吸をする。

 ダウンしていたノナはクインからただならぬ気配を感じて彼の方へと向く。

 青白い光がクインを包み込むと、それは目に集約されていく。

 彼が目を開くと何かを見つけたようで、店の机などの残骸から黒くすすけたものを取り出した。


「これが、事件の引き金になったようだ……。ノナさんこれはあなたのものではありませんか?」


 ノナはクインが持っているものをよく見ても何なのか不明であった。

 

「あの、この焦げたものはなんなのですか?」


「これはライターだ。タバコを吸う時に使うことが多いのだが。」


「いえ、タバコは獣人なので吸うことはないですよ?それに、わたしが所属していた会社は持ち物に厳しかったので基本的には財布と通信端末とポーチしかありません。」


 クインはポーチには何が入っているか聞こうとするとアドラに止められた。

 そのことにクインはムッとした表情になっていたが、アドラの目から聞くべきではないと訴えられた。


「お、おおお嬢さんは……こ、ここここのお店のどどどどこに座ってましたか……?」


 アドラは頑張って彼女に質問をする。

 アドラには悪気はないのがわかるので、ノナは普段通り接する事にした。

 そして彼女は一番出入り口に近いところに立つ。


「わたしはここに座っていました。爆発した時に、この廊下の硬い壁に打ち付けられました。」


 ノナが指をさした先にはコンクリートの壁がありそこに亀裂が入っていた。

 クインはそれをよく調べてみると茶色の毛が幾つか挟まっていた。

 それを採取して、端末を取り出すとそれには建物の間取りが書いてあり、その採取した部分にマーキングを入れて写真を撮っていく。


「色的に貴女のもので間違いなさそうですが、鑑識に回させていただきます。」


 そう告げるとノナは頷く。

 アドラはノナに次の質問をする。彼の身体が恐怖から震えているのを見て、ノナは少し愛おしく感じていた。


「つ、つつ次に……ててて店員と客が、ここ口論になっていたところは、どどどどこですか?」


 ノナはゆっくりと歩き、カウンターがあったであろう所に立つ。


「この辺で店員さんと客が口論になっていました。あと、この辺に机があってここにニンゲンが座っていました。ライターが点かなかったのでしょうか火打石をなんどもギャリギャリしていました。」


「会話の内容は覚えていますか?ちょうど貴女の立っているところが爆心地にとても近いので。」


「あ……それじゃあ、力の行使を許可してもらえないでしょうか?」


 二人はノナの発言に首を傾げていたのであった。

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