ケモノの探偵屋

わんころ餅

第1話 プロローグ

「ほれ、注文のホットミルクだ。」


 ここは都会の喧騒から隔離された喫茶店。

 建物の外装は都内では一般的な鉄とコンクリートを使用した頑丈で無機質なデザインなのだが、内装は木材をふんだんに使用した味のある雰囲気である。

 机は円卓が四台、カウンターがあり、部屋の角や窓付近には観葉植物や、アンティークのようなものが置いてある。

 ホットミルクを受け取った男はコップを持ち上げミルクを口に流していく。


「ぶあ!?あっちぃ……!」


 男はホットミルクが熱くて舌を出して冷ます。

 喫茶店の店主はすました顔ではあるが、内心面白いと思っているのか小刻みに体が震えている。


「当たり前だ、ホットミルクを頼んだんだ。熱くなくてどうする。」


「そりゃそうだけんどよ……オレの見た目に配慮してくれよ。」

 

 男は室内でもかかわらず被っている帽子を取った。すると人間にはそこにあるはずのない耳が天に向かって生えている。

 彼は獣人でボーダーコリーのような特徴を持った犬型の獣人であった。この時代では珍しいトンビコートを羽織っておりうまく尻尾を隠してはいるのだが、さすがにマズルは隠すことができてはいなかった。

 店主は男の風貌を見ても特に驚いた様子はなくホットミルクに氷を三つ入れた。


「ああ!ホットミルクに氷を入れるなんて邪道だ!」


「うるせえ、とっとと飲め。おめえがいると俺たち一般の人間が怯えて入ってこれねえから商売あがったりなんだよ。」


 そう言われると男はしょんぼりしてぬるく味が薄くなったミルクを飲み干す。

 このまま居座っても迷惑なのだと思い、席を立ちカウンターに代金を置いていった。


「ごちそうさん。」

 

 店主は、それを見届けることもなくカウンターで何かを探していた。


「おかしいな。この前砂糖を買ったはずなんだけどな……。」

 

 男は店を出る前に「クン」と鼻を引くつかせる。

 カウンターの方に体を向き直し、一言声をかける。


「おやっさん。右の上の棚の中に置いてあって、買い物袋の中にあるよ。」


 男がそういうと疑心暗鬼になっていたが、今まで探しても見つかっていないので言う通りのところを開けていくと、未開封の砂糖が買い物袋に入った状態で収納されていた。

 開封済みならともかく、未開封で買い物袋の中に入っている状態で見つけた男の能力に驚いた。


「なんでおめえは分かったんだ……?気持ちわりい。」


「え、酷くない!?だっておやっさんズボラでしょ?シャツはみ出してるし、調理道具はきれいに並べていないし、今日買ったと思う自分の昼飯の食材も冷蔵庫に入れてないでしょ?」


 ズバリと行動と性格まで的中され店主は気分が悪そうな顔をする。男は得意げな顔になり、自分の鼻を人差し指でアピールする。


「それに……ニオイでわかるし、自分は探偵なんでね。」


 そういって店を出るのであった。

 季節は真冬だというのに雪も降らず、気温が高い。強い日差しに目を細めていると爆発音が街の中で響き渡る。

 帽子を深くかぶり、ポケットから小箱を取り出し、中から白い棒状のものを口の右端で咥える。


「さて……探偵の出番かね……!」


 男は爆発音のした方角へ歩みを進めていった。

 その後ろ姿はとても楽しそうな雰囲気であった。

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