サクラのしょうこ〜あやかし〜

京極 道真  

第1話 20XX年 4月B日

今年もこの季節か。社会人2年目。

あの日、サクラの瘴気にあたった。

『サクラ、この季節は君の毒気が恋しい。』

窓の外。やんわりとあたたかい風が入ってきた。

土曜。会社は休み。学生の時と変わらないジャージ。

僕は寝起きのジャージのまま、コンビニに行くことにした。

桜の木が連なる神田川。

まだ10時だというのに桜見物の人が多い。

「今日は天気がいいわね。」

「良かった。」

すれ違う女子の会話が聞こえた。

僕は、君がふといるようで。立ち止まる。振り返る。『いるはず、ないか。』

淡い桜の花達が咲きはじめている。

満開にはまだ時間がある。

サクラ、君を探している。春の陽気。あたたかい風。何もかも僕を通り抜けていく。

『どこだ。サクラ。』僕はコンビニへ入る。

ちょど一年前、僕はゼミの飲み会の帰り道、高田馬場から歩いていた。

ゼミの友人たちはみんな、名だたる会社への内定済み。僕だけが取り残されてしまった。

別れ際、友人たちに「坂田、がんばれよ。またな。」

「別にいいさ。」チグハグな答えを口にする僕。言い直し大きな声で「またな。」

僕はどちらかと言うと穏やかな性格だ。

たぶん。そう思い込んでいただけ、なのかもしれない。

小さいころから優等生。

親にも先生にも友達にも評価はよかった。

家族の中でも良い子だと特別扱いされ、うれしいがそれだけだ。僕に一歩踏み込んだ家族は誰もいない。

小学、中学、高校と順調。大学も同じだった。

が結局、僕には何も残らなかった。今、吹いている風のように何もかも僕を通り抜けていく。

そんなとき、あの日、サクラに会った。

夜風に揺れる桜の木々につらされた、ちょうちん。夜桜を楽しんでいる声も聞こえる。人通りもある。そんな中、空っぽの僕にサクラが声をかけてきた。

それもいきなり大声で。

「そこ。そこのゲッソリした、ネクラそうな君。」

僕は思わず反応した。キョロキョロ。「君、そう、キョロキョロしている君。」

「えっ、僕?」「そうだ。君だ。」怪しい女子には、かかわらない。これは常識だ。

「君、逃げようと思ったな。逃げるなよ。困っている女子を見捨てるとは非道な奴だな。」

僕はいきなりで言葉使いの悪さにプチンときた。

「君こそ、なんだい、いきなり話しかけてきて、命令口調で非常識なのはそっちだ。」

その女子は少し弱気になったようで「しかたないだろう。人間と話すのは、はじめてだ。」

「えっ?君、誰?」「サクラだ。桜の木。」

「えっー!」

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