苺色に染まるストロー

結局、返せなかったタオルは、俺のリュックに入ったまま。


部活終わりに、校内にある自動販売機で、いつも通り俺は、いちご牛乳のボタンを押した。

友達からは、よくそんな甘いヤツ飲めるな…なんて呆れられるけど、このドロッとして甘さが、ちょっと癖になるんだよなぁ。

疲れた身体に糖分が染み渡る。


「美味いのソレ?」

甘さを堪能していたら、不意に声を掛けられ、振り返るとそこには…

同じく部活が終わったばかりなのか、少し額に汗をかいている足立が立っていた。

俺は手に持った飲みかけのいちご牛乳を差し出す…

まるで、タオルを足立から差し出された時のように。


「甘いの平気…」

だったら飲む?と聞く前に、足立は俺のいちご牛乳に顔を近付けた。

ハラリと前髪が落ち、彼の綺麗な瞳を隠した。

俺はストローが苺色に染まるのを見ていた。


「好き?」

って聞いてみた。

いちご牛乳が甘すぎたんじゃないかって…心配で。


「…うん……好き」

少し間があったし、たっぷりと目を見つめられ言われた“好き”って台詞は、男の俺すらも、ドキドキさせられた。

美形の動きの全て、表情の全ては、破壊力が凄すぎて…思わず赤面してしまう。

赤面した顔を隠したくて、しゃがみこみ、リュックから借りっぱなしになっているタオルを取り出す。


「あっ、これ!ありがとう…ちゃんと洗ったから」

「あ…ああ」

足立が受け取ろうとした、その時、俺の腹の虫が盛大に鳴った…

めちゃくちゃ恥ずかしくて、言い訳したくて、言葉が飛び出した

「あのさっ、足立、お腹減ってない?マック…」

「行く!」

目の前のイケメンの返事が、あまりに即答で、心底びっくりした。

足立も、そんなにお腹減ってたのかなぁ…運動後は、腹が減る!これは俺だけじゃないよなって安心した。


それにしても、なんて事だろう…

学校でも、皆が知ってる程の美男子の足立。ほとんど話した事も無く、どちらかというと派手なグループに所属の足立とは、距離感を感じていて…気軽に話せるとは思ってなかったから…

まさか足立とマックに…しかも2人で行く日が来るなんてなぁ…と思いながら、学校から10分の距離にあるマックまで歩いた。

話題は夏休みの宿題の進行状況についてだった。

足立は、すでに進め始めていて…

まだ、1ページ目すら真っ白の俺とは違うようだ。イケメンは、勉強も出来るか…感心してしまう。

あっという間に着いた夕方のマックは、うちの高校の制服で溢れていた。


向かい合って座ると、俺は聞いてみたかった事を問いかける

「足立ってさ…もしかして、陸上してた?」

「ああ、中学の時な…あんまり向いて無くて、今のバスケ部の方が合ってるんだけどな。あのさ…実は…何度も陸上競技場で、決勝戦を走る七瀬を見て、知ってたんだけど…なんか、話しかけられなくて」

「え!?ウソ!」

予想して無かった答えに本当に驚いた。仰け反った程だ。


「スクリーンに映るのを見て、名前を知ったんだ…七瀬は短距離種目の上位入賞者の常連だったろ?」

確かにそうだけど…見られてたとか…全く思ってもみなくて。

まさか、中学の俺の事知ってたとか、足立の口から聞くなんて。


「なんか、恥ずいな…あんな走り見られてたとか…」

「なんで?めちゃくちゃカッコ良い走りだったよ!」

必死な感じで、前のめりに言われて、更に驚く

「かっこいいヤツにカッコイイとか言われると…余計に、ヤバい…めちゃ照れるんだけど…」

猛烈な照れに襲われ俯いた時、ふと目に止まった足立の手元に転がされた2つの物。

足立は、コーヒーにガムシロップを入れていない…

なんなら、ミルクも未開封。

あれ?さっき、甘いの好き…とか言わなかったっけ?

俺のいちご牛乳飲んだよなぁ…

考えが纏まらない。


「七瀬が居るなら、我慢して陸上部でも良かったかもな…走るのはヤダからマネージャーとかさ?」

なんて言われて、考えるのを止め、俺は顔を上げた。

微笑みながら、そんな…どう解釈したら良いのか分からない事を言われ、妙に慌てる俺を見て、足立がハハッて軽やかに笑った。

どうやら、俺の反応を見て楽しんでいるみたいだ。

あぁ、からかわれただけなのか…

「なんだよ!足立〜!俺、真に受けたさじゃんか!」

むくれる俺に、少しだけ真顔に戻る足立は

「まぁ、全くのウソじゃなくて、本当に七瀬の走りを見るのは好きだから…」

またしても、不意打ち。

これは無自覚なのか?こんなにも好きの安売りしてるけど、足立に取っては普通なのか?


眼力と言葉にやられた俺は、ついっと目を逸らすと、隣りの女の子と目が合った。

反対側を向いても、また違う女の子と目が合う。

ん?なんだこれ?

あー、足立を見ていたのか…って納得しつつ、イケメンは存在するだけで注目浴びて大変だな…とも思った。


「な〜足立って、いつもこんな視線まみれ…平気なん?」

俺は、熱視線を軽々と受け流している様子の目の前の美丈夫に聞く

「あー?慣れた…かな。別にオレは興味無いし、知らねぇ」

さすがは、イケメン様。

そのバッサリと斬った感じ、アッパレでございます。


俺は逆に、一緒に見られている事に落ち着かなくなって、ソワソワしてしまう。

ポテトを手に持ったまま、ブラブラさせていると、いきなり、端正な顔が目の前に迫り…

パクリと食べられてしまった俺の手の中のポテト。


「あ!俺のポテト!」

「じゃ、お返しに…ほら、アーン」

イケメンから差し出されたポテト。

これを食べろって?

この視線だらけの中で?!


「ん?」

首を傾け、余裕満面の足立を見ていたら、変な闘争心が湧いて、思い切り眼を閉じ、足立のポテトをパクリと奪ってやった。

隣の女の子からは、小さな悲鳴が上がった。


どーだ!と言ってやろうと、目を開いて、足立を見ると…

目頭を押さえている

「悪い、なんか…とんでもなく可愛かった」

「なんだよ、それぇ〜ペット扱いかよ〜俺。なぁ、コレって餌付け?」

まぁ、そういう事!って、俺の頭をワシワシと撫でてきた。


なんか、こそばゆい…

そして、変な優越感みたいなものが上がってくる…ヤバい。

クラスメイトと、しかも、男同士でマックってだけなのに!

デート感みたいなのを感じてしまって、反省しまくった俺だった。

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