巻き込まれ不良少年は勇者と共に夜を明かす〈BL〉
逢乙(あお)
腐女神様の導き〈1〉〜〈9〉
〈1〉心霊スポットから始まる異世界転移
異世界って、なんだか思っていたのと違っていた。
そもそも、そういうのに興味が無くて。
尚更「なにこれ?」感が半端ねぇ。
でも、思い出すと
とりあえず暇なら俺の話、聞いてけよ。
◆
――
そんな将希にとって、最初は高校に進学するなんてこともどうでも良いことだ。
しかし時は遡り、中学二年生の頃。
チリも積もったおふざけが、ついに美千代の逆鱗に触れてしまう。
「ショウ!!次なんかしたら更生施設にいれるからね!」
「んだよ、んなん行くかって!美千代のクセにでけぇ声出すなや!」
学ランを着たまま、将希は反抗的な声をあげた。現在リビングのソファーで寝転がりながらスマホ画面を凝視し、ガンサバイバルアクションPvPを嗜んでいるところだ。美千代はそれを一瞥しながら鼻で笑う。
「もう勝手にしな。その時は、あんたがグースカ寝ている間に…知らない場所に居る事になるだけさ」
美千代は普段から叱り付けてくる方だが、それは穏やかな物腰であり威圧的なものは感じなかった。しかし今回は表情も変えずに、低い「ガチめのトーン」で言い放ってきたのだ。
つまり、この「施設にブチ込むぞ」はガチって事。
台所で背を向けたまま野菜を切り刻む美千代の背中へ視線を寄越す、更生施設の存在は既に知っていた。将希のダチの一人が突然パクられたからだ、もう連絡すら取れない。
まさか、死――
と、いう具合に…
世の中には法を掻い潜る恐ろしい場所が幾つも存在する。
将希は思考しながら、母親の無言の圧に冷や汗を滲ませていた。
「みッ…おかあさん…俺、高校に行こうかなって思ってて」
将希は縮み上がった結果、表情を引き締めると心を一新してまずは卒業後は高校に通う事を目標とする。
うるせぇ!雑魚じゃねぇし!
そんなわけのわかんねぇとこに拉致られてたまるか!
――等と言い訳をしながら、改心を目指すのであった。
「なんだ、もう集まれねぇってのか」
「美千代から…もうそろ変な離島の施設に入れられそうなんで、それだけは回避したくて」
「…そうか、あそこはマジでやべぇらしいからな。じゃあ――」
3個上の先輩から得た情報。
定時制高校はお金もそんなにかからないし、答案用紙に空欄を作らずに名前さえかければ大体受かると教えられた。今から勉強とか怠いと考える、七つの大罪でいうところの怠惰の将希。
そこなら一夜漬けで行けそう!
とても短絡的であった。
そして、月日は流れた。
金髪も一時的に黒くしてしまい、見た目だけはまともになった将希は定時制高校の試験を受ける。淑女のような装いの美千代と共に面接も受けさせられた後、無事に合格を果たした。
この結果に機嫌を良くした美千代が、「よし、じゃあ次は大学か専門学校だね」とまたもやガチめのトーンで言い放つ。しかし、それはどうするかはわからない。
そう思いながらも、将希は適当に頷いていた。
――で、今からが切っ掛け。
定時制高校とは夕方から始まり、さらには様々な年齢の奴らが集う場所だ。
大学を目指そうという、志の高い爺さんや婆さんもいる。まあそんな中で、自然と仲良くなるのは同年代なわけだが。似たような人種が集まると、起こってしまうのが悲しいかな馬鹿騒ぎである。
皆16歳、同じクラスの男子が三人。
ちなみに昼間は皆バイトをしている。
今日は夜更かししようぜという事になり、街から少し離れた山奥にある大きな古いトンネルの前に集結した。ギャル男の俊介が、スマホで薄暗い周囲を撮影しながら業らしい口調で喋りはじめる。
「え~我々は現在、帰らずのトンネルという最凶心霊スポットに来ていまーす」
キャップ帽を被ったストリートファッションに身を包んだ裕吾が、声を潜めながら将希の背中を小突いた。
「なんか喋ろうぜ、これヨウツベにあげるってさ。ホラー系動画で有名人目指そうぜ!」
「え?顔出しはなしね。マジでやばいから」
ヤンキー伝説を築き上げてしまったが為に、地元からわざわざ離れた場所を選んだわけで――それにより通学がとてもシンドイ。しかし美千代のガチボはもうこれ以上聞きたくないわけで。
俊介は二人の遣り取りを聞きながら、溜息と同時に肩を落とした。
「シラけさせんじゃねぇーよ。はい、ここ編集でカット~」
「誰が編集すんの?」
俊介は裕吾を顎で示した。
「面倒くせ!無理!グループ解散!」
将希は静観していたが苦笑し、口を挟んだ。
「動画とかだるいって、もう早く行こうや。写真だけとれば良くね?」
すかしている将希であるが、「まったく~ぼくちんまたミッチー(母)にドヤされちゃうよ~」等、内心で
「わあマジ暗い、どのみち動画撮影無理じゃね」
「バイトで金貯めて、高性能カメラ買うから。そんときにリベンジ」
「まじでヨウツベやんの?」
「もう勝手にやってろって。あ…煙草、原チャんとこ置いてきた」
「今吸うわけ?どんだけビビってんの」
三人の会話が籠もりながら反響していく、苔むした岩のトンネル内は真っ暗だった。
そこをスマホのライトでそれぞれが壁や地面を照らしながら進んでいた。
この〈帰らずのトンネル〉の怖い話。
最初にそれを聞かされた時、将希は来るかどうか迷っていた。
昼間は平気、夜は怖い帰らずのトンネル。
暗闇を抜ける時は必ず偶数で、奇数は絶対に駄目。
女のお化けに連れて行かれちゃうから。
抜ける頃には誰か一人、足りないよ。
どこへ行くかって?
知らない。
だって消えてしまえば、二度と帰ってこれないから――
「いや、俺ら奇数」
将希は我に返り指摘する、俊介がぶっきらぼうに答えた。
「だって、一人バックレたし」
その一人とは、ホームルームに「明日、刺青を入れてくる!」と宣言した
「ふぅ…」
溜息を洩らす将希。
煙草でも吸わないとやってらんねぇぜである。
まあチープに聞こえる噂話であるが、そういうのが一番怖かったりする。
「この後ジョイフー行かね?甘いの食いてぇ」
歩きながら、先程から静かになってしまった二人に心細く思い将希は語りかけた。
期間限定、たっぷり春苺の生クリームパフェもずっと気になっていた。
しかし、二人からの返答は無い。
カラオケが良かったのかもしれない。
そう思いながら、辺りをスマホのライトで忙しなく照らした。
「は、ふざけんなって」
誰もいない、静寂のみがその場に広がっていた。
だけどすぐ真隣にいて、物音もなく突然消えるなんて――
まさか、あいつら。
――幽霊に、やられたんじゃ…
くそっ…俊介!裕吾!
声もあげず、男らしく逝きやがって!
お前らの雄志は、俺が必ず生きて持ち帰る!!
将希はすでに二人は、亡き者とした。そして悲しんでいる暇もない。
全身を粟立たせると、来た道を引き返す。
結局また脱色してしまった、明るい髪を恐怖で振り乱して走った。
俺、生きて帰れたらこれに色を入れる!
レインボーにするんだ!いや…やっぱしたくねぇわ。
こええっ!物理的に殴れない相手とかマジ無理だからぁ!
脳を荒ぶらせ、果てしなく続く暗闇の中を駆けていく。
そして息だけが上がる頃に気付く。どうしてだ、辿り着けない。
狼狽えながらスマホで、あの世にいるかもしれない俊介に電話をかけた。しかしそれはさすがに取り越し苦労で、幾度目かのコールの後「もしもーし」と軽いノリで返って来た。
「今どこ!」
『はあ?お前がどこよ、俺らもう外――ッザザザ…ザッ…ザザッ』
俊介の音声が途切れるとノイズに埋もれていく、そしてブツンッ。
まるで世界を繋いでいた手綱が、千切れてしまったかのような断裂感に見舞われる。
「おーい、おーい。しっかりしたまえ」
それからしばらくして、頭上を優しく撫でるかのような柔らかな女性の声が聞こえてきた。
「大丈夫?」
どうやら気絶していたようだ、頭が痛い。
将希は起き上がると辺りを見回した。
うわ眩しっ。
太陽光の直射に目を細める。
「え?え?」
視界に広がったのは、青い空の下に広がる深緑に溢れた見知らぬ森。
暖かな陽だまりが心地良い。暑くもなく、寒くもない。呆気に取られて座り込んだ将希の周りには、小さな真珠を実のようにくっつけた黄色い花が咲き乱れている。
声の主は、20代ぐらいの美しい女性であった。
藤紫の長い髪は腰の辺りまであり、ボリューム感ある三つ編みにして結っている。ぱっちりとした緑色の瞳と、端正な顔立ちは日本人と言うよりは西洋人を思わせた。視線を合わせると、唇が優しく微笑んだ。
「ようこそ少年、私の創った異世界へ」
こうして俺は〈異世界〉という、よくわかんねぇ場所に来てしまったのであった。
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