不良少年は異世界スキル「ボーイズラブ」を手に入れた!
ドアフキン
〈1〉心霊スポットから始まる異世界転移
異世界って、なんか思ってたのと違うんだよ。
ていうか、そういうの興味無かったから尚更「なにこれ?」感が凄まじい。
とりあえず俺の軽い自己紹介と、切っ掛けについて―――。
――夜間高校に通う
「ショウ!!次なんかしたら更生施設にいれるからね!」
「んだよ、んなん行くかって!美千代のクセにでけぇ声出すなや!」
学ランを着たまま将希は反抗的な声をあげる、リビングのソファーで寝転がってスマホで画面を凝視しながらガンアクションサバイバルPvPを嗜んでいた。美千代はそれを一瞥しながら鼻で笑う。
「いいよ別に、その時はあんたがグースカ寝ている間に起きたら突然景色は変わってんだからね」
美千代は普段から厳しい事を言ってくるがそれは穏やかな物腰であり特に何も感じなかった、しかし今回は表情も変えずに低い「ガチめのトーン」で言い放ってきたのだ。
つまり、この「施設にブチ込むぞ」はガチって事。
台所で背を向けたまま野菜を切り刻む美千代の背中へ視線を寄越す、更生施設の存在は既に知っていた。ダチの一人が突然パクられたからだ、もう連絡すら取れない…まさか死―――。とまあ、世の中にはそんな法を掻い潜る恐ろしい場所が幾つも存在する。そう思いながら、今回ばかりは母親の無言の圧に冷や汗を滲ませていた。
「みッ…おかあさん…俺、高校に行こうかなって思ってて」
将希は縮み上がった結果、表情を引き締めると心を一新してまずは卒業後は高校に通う事を目標とする。
うるせぇ!雑魚じゃねぇし!
そんなわけのわかんねぇとこに拉致られてたまるか!
――等と言い訳をしながら、改心を目指すのであった。
「なんだよ、もう集まれねぇってのか」
「美千代から…もうそろ変な離島の施設に入れられそうなんで、それだけは回避したくて」
「…そうか、あそこはマジでやべぇからな。じゃあ――」
3個上の先輩から、定時制高校はお金もそんなにかからないし答案用紙に空欄を作らずに名前さえかければ大体受かるとまで言われた。今から勉強とか怠いと考える七つの大罪でいうところの怠惰の罪である将希は一夜漬けで行けそうだと判断し甘んじた。
そんなわけで月日は流れる。金髪も一時的に黒くしてしまい、見た目だけはまともになった将希は定時制高校をちゃんと合格した。美千代の機嫌も直り「よし、じゃあ次は大学か専門学校だね」と、またもやガチめのトーンで言われる。それはどうするかはわからない、そう思いながらも将希は適当に頷いた。
で、今からが切っ掛け。
定時制高校というものは、色んな年齢の奴等が集まる。大学を目指そうという志の高い爺さんや婆さんもいる、まあそんな中で自然と仲良くなるのは同年代なわけだが…似たような人種が集まると起こってしまうのが悲しいかな馬鹿騒ぎ。
皆16歳、同じクラスの男子が三人。昼間は皆バイトをしている。今日は夜更かししようぜ、という事で街から少し離れた山奥にある大きな古いトンネルの前に集結していた。ギャル男の俊介がスマホで薄暗い周囲を撮影しながら業らしい口調で喋り出す。
「え~我々は現在、帰らずのトンネルという最凶心霊スポットに来てまーす。」
キャップ帽を被ったBボーイの裕吾が声を潜めながら将希の背中を小突いた。
「おい将希、なんか喋れって。これヨウツベにあげるってさ、ホラー系動画で有名人目指そうぜ」
「え?顔出しはなしね。まじでやばいから」
ヤンキー伝説を築き上げてしまったが為に地元からわざわざ離れた場所を選んだわけで、それにより夕方からの通学がとてもシンドイ。しかし美千代のガチボはもうこれ以上聞きたくないわけで。
俊介は溜息と同時に肩を落とした。
「シラけさせんじゃねぇーよ。はい、ここ編集でカット~」
「誰が編集すんの?」
俊介は裕吾を顎で示した。
「面倒くせ!無理!グループ解散!」
将希は二人のやりとりに苦笑すると口を挟み込む。
「動画とかだるいって、もう早く行こうや。写真だけとれば良くね?」
そんな感じで「もうまったく~ぼくちんまたミッチー(母)にドヤされちゃうよ~」等と将希は
「わあマジ暗い、どのみち動画撮影無理じゃん」
「バイトで金貯めて、高性能カメラ買うから。そんときにリベンジね」
「まじでヨウツベやんの?」
「もう勝手にやってろって。あ…煙草、原チャんとこ置いてきた」
「今吸うわけ?どんだけビビってんの」
三人の会話が籠もりながら反響していく、苔生した岩のトンネル内は真っ暗。そこをスマホのライトでそれぞれが壁や地面を照らしながら進んでいた。ここで噂されている怖い話し…それを聞いた時、将希は正直来るかどうか迷った程に怯んでいた。
昼間は平気、夜は怖い帰らずのトンネル。
暗闇を抜ける場合は必ず偶数。奇数は絶対に駄目。
女のお化けに連れて行かれちゃうから。
抜ける頃には誰か一人、足りないよ。
どこへ行くかって?
知らない。
だって誰も、帰ってきてないんだから――。
「奇数じゃん俺ら」
「だって一人バックレたから」
その一人とは、今日「明日ウデに刺青を入れてくる!」と宣言したイキり屋の
「この後ジョイフー行かね?甘いの食いてぇわ」
歩きながら、先程から静かになってしまった二人に心細く思い将希は語りかけた。期間限定、たっぷり春苺の生クリームパフェもずっと気になっていた。
しかし、二人からの返答は一切無い。カラオケが良かったのかもしれない、そう思いながら将希は辺りをスマホのライトで忙しなく照らした。
「は、ふざけんなって」
誰もいない、静寂のみがその場に広がった。
まさか、あいつら消された?
くそっ…俊介!裕吾!
将希は全身を粟立たせると来た道を引き返す、脱色した髪を恐怖で振り乱す。
生きて帰れたらこれに色入れてやる!
レインボーに、する!いや…やっぱしたくねぇわ。
こええっ!物理的に殴れない相手とかマジ無理だからぁ!
脳内を荒ぶらせながら果てしない暗闇の中を疾走する、そして息だけが上がる頃に気付いた。入り口との距離感が明らかにおかしい、辿り着けない。狼狽えながらスマホで俊介に電話をかける、幾度目かのコールのあとに「もしもーし」と軽いノリが返って来る。
「今どこ!」
『はあ?お前がどこよ、俺らもう外――ッザザザ…ザッ…ザザッ』
俊介の音声が途切れるとノイズに埋もれていく、そしてブツンッ。
まるで世界を繋いでいた手綱が千切れてしまったかのような、そんな断裂感が将希の身を襲った。
「おーい、おーい。しっかりしたまえ」
それからしばらくして頭上を優しく撫でるかのような柔らかい女性の声が聞こえてきた。
「大丈夫?」
どうやら気絶していたようだ、頭が痛い。
将希は起き上がると辺りを見回した。
うわ眩しっ。
目を細めて周りを見回すそこは新緑が溢れた見知らぬ森の中であった、暖かな太陽光が降り注いで心地良い。座り込んでいる将希の周りには見たこともない小さな真珠を実のようにくっつけた黄色い花が咲き乱れている。声の主は20代ぐらいの美しい女性であり、藤紫の長い髪を腰の辺りまでボリューム感ある三つ編みにして結っている。ぱっちりとした緑色の瞳と端正な顔立ちは日本人と言うよりは西洋人を思わせる。視線を合わせるとその唇が優しく微笑んだ。
「ようこそ少年、私の創った異世界へ」
こうして俺は、わけのわからないまま〈異世界〉というよくわかんねぇ場所に来てしまったのであった。
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