第50話 和解

⸺⸺試合後、特別観覧席にて。


 私は運び込まれたカーサ国王に白魔法をかける。


⸺⸺中級白魔法⸺⸺


「クラル!」


「まさか……自分を吹き飛ばした相手を回復させるとは……つくづく甘い奴だなお前は……」

 カーサ国王は床に雑に座りながら、静かに笑った。


「もう、あなたの負けは確定しましたから」

 私はそう言って自慢気に笑う。倒したのはクロードだけど。

「そうだな、俺の負けだ。俺は……一撃も入れられなかった。自身の見識の狭さを痛感させられた試合だった。まさかエルフの魔道士がここまでとは……恐れ入った」


 それに対しクロードが口を開く。

「その一撃でも入れられれば紙防御の私は即死だからな。こちらも食らわないように必死だったさ。エルフは力や防御の弱さを全て魔力でカバーする。よく覚えておくといい」


「あぁ、肝に命じるとしよう。ルシオ、俺は今後一切貴様に関わらないと誓う。この国で、貴様らしく生きていくといい」


「父さん……。とりあえず、俺の作ったクッキー食べて」

「……何?」

「なんじゃそりゃ!」

 ルシオのまさかの一言にずっこける一同。


「はい」

 ルシオはキレイに包装された袋の中から手作りのクッキーを1枚手渡す。

 カーサ国王はそれを受け取ると、ポイッと口に放り込み、ザクザクと豪快に噛んでいた。


「どう?」

「ふむ、甘いな、甘すぎる。まるで貴様の様だ」

「はい、これ俺が淹れたコーヒー」

「……ほう、悪くない香りだ。ふむ、あの甘いクッキーとよく合っている」


「俺、これでカフェやろうと思ってるから。いつかオープンしたら父さんも来てよ」

「……絶対に行かん」

 そういうカーサ国王の表情はビックリするくらいに穏やかだった。


「ルシオ、カフェやろうとしてたんだ! びっくりなんだけど!」

 私は思わず口を挟む。

「君があまりにも美味しい美味しいって食べてくれるから、俺もその気になっちゃってさ。無謀かな?」

「ううん、全然! 絶対繁盛するよ!」

 私のその返事に対し周りのみんなもうんうんと頷く。

「そっか、ありがとう」


「ふむ、この甘さはそこの猫娘のためであったか。貴様、ルシオの嫁にしてやろう」

「えっ!?」

 引きつる私。

「父さん何言ってんの!」

 ルシオは顔を赤くして反論する。


「何なら俺の嫁にしてやってもいい。他種族の血を混ぜるのも悪くはないかもしれんな!」

「け、結構です!」

 私が血相を変えてレオンの背中に隠れると、周りからはわーっと笑いが起こった。


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