第28話 快楽的なもの
⸺⸺ロカの森⸺⸺
「ありました、あの建物です」
カズキさんが向こうに見える石造りの建物を指差す。
「あ、本当だ、私もあそこから投げ飛ばされたよ」
私は当時のことを思い出し、嫌な気持ちになりぷくーっと頬を膨らませた。
そんな私の頬を、ジェイミがつんつんと突っついてくる。それだけで照れてしまって嫌な気持ちなんてどこかに吹っ飛んでしまった。
そんな私へジェイミが微笑みかけると、レオンが私の腕をグッと引っ張って建物の方へと連れていく。
「誰かが出てくる気配がする。こっちに隠れるぞ」
え、レオンって、そんなこと分かるの? まだ誰も出てこないけど。
「さ、カズキもこっちへ」
ジェイミも分かっているようで、カズキさんの背中を押して、みんなで建物の裏へと回る。
すると、その直後くらいに紫のローブに身を包んだ人間が日本人らしき人を建物の外へと放り投げた。
「おい、一体これはどういうことなんだよ!? ここはどこだよ!?」
「お前はもう用無しだ。どこへでも好きなところへ行くがいい」
紫ローブがそう言って建物の中へと入っていく。そして、建物の戸が閉まる瞬間に、レオンが自身の大剣をスッと忍び込ませ、閉まるのを阻止した。
「次から次へと何なん……うぐっ」
「ごめん、静かにして」
レオンを見て文句を言った日本人を、ジェイミが後ろから口を抑える。
そしてジェイミとカズキさんはその日本人と共に裏へと回って、彼へ状況を説明していた。
「さくら、お前は猫になれ」
「え、うん、分かった」
私は獣石に魔力を込め、言われた通り猫になる。すると、レオンは私の首根っこを掴むと自身のコートの中へと私を入れて、私は彼のコートの胸元から顔だけ出している状態になった。
え、何この状況、抱っこされてるより萌えない!?
私が1人ドキドキしていると、レオンは戸に手をかけ大剣をしまい、ゆっくりと建物の中へと侵入した。
暗い通路を進み、曲がり角から2人で奥を覗き込む。
すると、奥の部屋で3人の紫のローブと、高そうな服を着た男が何やら話をしていた。
「なかなか良いスキルのやつは現れませんね」
紫のローブの1人がそう言う。それに対し高価な服の男がこう答える。
「まぁ、外れたら捨てればいいだけだからな。金ならいくらでも出す。じゃんじゃん召喚してくれ」
「了解です。まさかこんな1人召喚するだけで10万クレドももらえるなんて。稼ぎ放題ですよ」
クレドとは、この世界の共通通貨である。
「それにしてもウェルマー様、一体どんなスキルをお求めで?」
「んー、なんかおもろそうなヤツ。どっちかというと召喚の行為が見たいだけなんだよ。異世界から人を呼び出すとかゾクゾクするだろ?」
高価な服の男ウェルマーはそう答えた。何それ、その召喚という快楽を得たいだけで私たちは呼び出されたの?
「ははは、間違いないっすね。あのまま城の魔道士やってても退屈なだけだったので、ウェルマー様が声をかけて下さって良かったですよ」
「だよな、ガルラの城なんてガチガチに管理されてて面白くもなんともなかったもんな」
「この国なら召喚もし放題。罰則もなし。悪魔召喚は生贄がいるけど、異世界人の召喚は相手が召喚に応じれば魔力だけでいけるもんな。最高だぜ」
「つーか、異世界人も馬鹿だよな。こんな捨てられるとも知らず、ほいほい召喚に応じるもんな」
「全くだぜ。ってか捨てた異世界人はどうなったかな?」
「その辺で魔物に襲われて死んでんだろ。こりゃ傑作だな」
「はーっはっはっは!」
レオンはここで音を立てずに建物の外へと脱出した。
今のクズみたいな会話何!? 勝手に呼び出しといてあそこまで言わなくてもいいじゃない。
悔しい……悔しいよ……。私は猫の状態のまま気付いたら涙が流れており、レオンのコートの中へ隠れるようにうずくまった。
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