第11話 クラン黒狼の牙

「さくら!? どうしたの大丈夫!?」


 部屋の外からジェイミの声が聞こえる。


「こういうときはガッと入っちまおうぜ?」

 ジャンの声だ。

「どうすんのさすっぽんぽんだったら」

「んなのラッキーなだけじゃねぇか」


「あ、あの、ごめん大丈夫! すぐ着替えて行くから!」

 私はジャンに開けられる前に戸に向かって叫んでそれを制した。


「本当に大丈夫なんだね? 僕たちは下で待ってるよ?」


「うん、大丈夫!」


「ほらジャン行くよ」

「だぁ……惜しかったな……」


 2人の人間が1階に降りていく音が聞こえてくる。


 ふぅっと一息ついた私は、急いで買ってきてもらった下着やワンピースを身に着けた。


 そして姿見でその可愛い容姿を堪能して、急いで1階へと降りていった。



⸺⸺



「あ~! それ僕が選んだやつだ。やっぱ可愛いね。似合う~!」

 と、ジェイミ。


 みんなこれで目のやり場に困らなくなったようで、一安心していた。



「あの、耳とか尻尾とかって……どうしよう……」

 私は猫の耳をさすりながらみんなへ問う。


「うーん……クルス族っぽく見えないことはないけど……。男は犬耳で女はうさ耳だから、違うといえば違うんだよね……」

 と、ジェイミ。


 クルス族の女の子はうさ耳なんだ。たぶんうさぎの尻尾とかも生えてるから、クルス族用の服にしてくれたんだね。


「普通にしてりゃ誰も気付かなくねぇか? 万が一なんか言われたら俺らが威嚇すりゃいいだろ」

 と、ジャン。解決の仕方が物騒。


「とりあえずこのまま行ってみよう」

 と、ブレインのクロードがそう言うので、6人のイケメンとともに夜の王都へと飛び出した。


「うわぁ。自分で歩くと、異世界に来たって実感湧いてくるなぁ……」


 まるで夜のテーマパークのような雰囲気の王都。


「追々、お前のいた世界のことも聞きたいものだ」

 と、クロード。彼は知りたがりだ。


「うん、何でも聞いて」

「あぁ」



⸺⸺黒豹亭⸺⸺


 この王都で1番大きな酒場だと言うこともあって、中もめちゃくちゃ広かった。


 とても賑やかで、誰も私の耳や尻尾なんて気にしていないようで、そこは一安心だった。


 そして、みんなで丸いテーブルを囲むと、私の歓迎会が始まった。


「さくら、クラン『黒狼こくろうの牙』へようこそ!」

 ジェイミとルシオが声を揃えてそう言う。


 そして訳も分からないままとりあえず乾杯する。


「えっと、ごめんなさい……。クラン黒狼の牙って……何?」


「あ、そういやその話なんもしてねぇ……」

 と、ジャン。


「ほらレオン、リーダーなんだからちゃんと説明して」

 ジェイミはそう言ってレオンの脇を小突いた。


「チッ、別にリーダーだからって説明しなきゃなんねぇ義理はねぇだろ……」

 レオンは機嫌が悪そうにそう言ってお酒を飲む。


 何だろう……私に“ここにいてもいい”って言ってくれた時の彼とは真逆な態度というか何というか……。


「あの……ごめんなさい……」

 何だか申し訳なくなって私が謝ると、レオンは少し慌てた様子を見せる。


「チッ、しゃーねぇな……クランっつうのは、クエストや魔物討伐のハントをこなして金を稼ぐ集団のことだ」

 急にレオンの説明が始まる。


 それに対し私はやっぱりギルドみたいなやつで合ってたか、と考え「ふんふん」と相槌あいづちを打つ。


「……で、俺をリーダーとして俺らの組んでるクランの名前が“黒狼の牙”。お前は今日からこの黒狼の牙の一員となる。よく覚えておけ」


「分かりました、ありがとうございます」


 イマイチ何をすればいいのかはよく分からなかったけど、とりあえず自分の所属は分かったからそれでいいか、と思うことにした。


 そしてわいわい飲み明かすと、私たちはアジトへと帰った。

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