第7話 こんなことできたなんて

「で、自己紹介終わっただけでまだ何も進んでないんだよぉ……」

 と、ジェイミ。


「確かに、このままは勘弁だな……」

 レオンは私をチラッと見て目のやり場に困ったのかすぐにそらす。


「俺ぁ別に外にさえ出なけりゃこのまんまの方がいいけどな」

 ジャンはそう言ってデレデレと笑う。


「ジャンうるさい……嫌い……黙って……」

 リュカってジャンのこと嫌いすぎない?


 ここでクロードが口を開く。

「お前……さっき一瞬でその姿に変わったな」


「うん……」


「逆のことは出来ないのか? その姿からまた猫に戻るってことだ」


「あっ、そうしたら買い物に連れていけるから、服とか自分で選べるね!」

 と、ジェイミ。


 猫に戻る? そんなこと考えたこともなかったけど、その前に……。


「えっと……猫連れてお店入ったりしていいの?」


「ダメな決まりはないよ」

 と、ルシオが優しく教えてくれる。


「そっか……うーん……」


 さっきは何でこの姿になっちゃったんだろう。

 そうだ、人間の10代のピチピチになりたいとか良からぬことを考えた瞬間だ。


 ってことは……猫になりたい猫になりたい猫になりたい……。



「おぉ、やはりか!」

 何やらクロードが興奮している。


 私は自分の身体を見てみると……ちゃんとさっきの猫に戻っていた。



 なんだよ、こんなこと出来たんだったらもっと早く猫に戻っておけば良かったぁ……。


「クロードてめぇ……俺の膝にいる時点でそう言えよ……」

「ぐるにゃぁ……」


 レオンも私もへなへなとその場に脱力した。



⸺⸺


「さくらは種族に分けると“ヴァーデルン族”だろうな」

 クロードはそう考察する。


「ヴァーデルンって……普段俺らと似たような姿してんのに、急に獣になったり竜になったりするやつらだよな?」

 と、ジャン。


「そうだ。ただヴァーデルンは変身するには獣石じゅうせき竜石りゅうせきがいるんだが……その工程をはぶけているのは異世界人特有の何かがありそうだな」


「そっか。ヴァーデルンたちって絶対に人前で変身しないって言うし、さくらも僕ら以外の前で今の変身をしないようにすれば、普通に生活出来るかな?」

 ジェイミはそう言って私をひょいっと抱き上げた。


「そうだな、さくら、急に変身するなよ?」

 と、クロード。


「うにゃぁ……」


 そんなこと言われても、人間の姿に変わりたいって思ったら変わるんだもん……。


「うわぁぁっ!?」

 ジェイミが目をパチクリとさせて驚いている。


「あ……」

 私はカーディガンを着た状態の人間の姿になってジェイミにお店様抱っこされていた。


「言ったそばから……」

 クロードは深くため息をつく。


「どうしたら変身しちゃうんだい?」

 と、ルシオ。


「猫になりたいって思ったり……」


「おっとっと……」

 ジェイミは猫になった私を落とさないよう受け止める。


「人間になりたいって思ったりするとなっちゃうみたい」


「ちょ、さくら。ここで猫と人間行き来しないでぇ!」

 ジェイミはそう言って再び人間になった私をお姫様抱っこしていた。


「ごめんなさい……」



「むしろ、獣石、いるんじゃない……?」

 と、リュカ。レオンが続く。

「確かに、変身の条件が緩すぎだ。このままじゃまともに生活できねぇぞ」


「うむ、そうだな……。獣石は魔具まぐの一種だろうし、なんとかならんか知り合いのドワーフを当たってみるか……」

 クロードは難しい顔をしながら言った。


 ドワーフ……小人さんってことか。魔具は良く分からないけど多分魔法アイテムみたいな感じだろう。



「でも、人間になったときに、前回着てた服をそのまま着てるのはちょっと助かるかも……」

 私はそう言って自分の着ているカーディガンを眺めた。


「あ、そう言えば猫になったときはカーディガンも一緒に消えたよね! 確かにいちいち服脱げちゃったら大変すぎるね」

 そうジェイミが反応してくれた。


「とりあえず、服、買わないとだよね。でも、そのままだと外で変身しちゃうかも……」

 と、ルシオ。


「うん……人間の服を選ぶから、人間の姿を思い浮かべたりして変身しちゃいそう……」

 私はそう言ってシュンとうつむいた。


「出番だクロード。なんとかしろ」

 と、レオン。皆がクロードの方を見る。


「そうだな……少し考える」

 クロードはそう言ってブツブツ言いながらリビングから出ていってしまった。


「あ、クロード……行っちゃったけどいいの?」

 私の問に対しルシオが答える。

「大丈夫。ああやって1人で集中しに行った時はたいていなんか対策考えてちゃんと戻ってくるから」


「そうなんだ……頼りになるね」

 きっとクロードはこの家のブレインなんだなと私は思った。


「じゃ、クロードが戻ってくるまでコーヒーでも飲んどく?」

 と、ジェイミ。


「え、いいの? ぜひいただきます!」


「ほいほい」


 私は温かいコーヒーをもらってホッと一息ついた。

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