色々ヤバいわけですわね。

開幕戦にノーヒットノーランを食らうチームなんて、初めて見ましたわ!!


偉業達成のピッチャーは、去年の最優秀防御率賞を獲った細身の右腕でして。


確かに直球、変化球、コントロールといずれも申し分なしのピッチングでしたけど。


出塁は3回先頭ロマーノ君のフォアボールと5回桃ちゃんのショートゴロを送球エラーしてくれた2回のみ。


三振を14個喫し、最後は打つ方がガチガチになってストライクゾーンのボールをまともに振ることも出来ずという有り様。


手も足も出ない完璧なピッチングの前に、歓喜のレオンズファンと茫然のビクトリーズファンの対比が見事だった。









ビシュッ!



ガキッ!



「打ち上げた!!キャッチャーがバックネット前追っていく!……捕りました、試合終了!!3ー1!レオンズ、今日は左腕の沢畑がビクトリーズ打線を9回ノーヒットに抑えました!!」







ビシュッ!




カンッ!



「いい当たりだが、セカンド正面だ!!内崎、源………ファースト大ベテラン豊田と渡ってダブルプレー完成でゲームセット!!今日はレオンズ、5人の投手でまたビクトリーズ打線をノーヒットに封じました!!ルーキー、前滝にプロ初登板で嬉しいプロ初白星が付いています!!」



ビクトリーズ、開幕3試合で合わせてもまさかまさかのチームとしても0安打、エラー2つでもらった1得点のみ。


実質3連続ノーノー。



試合が終わって1時間後にかかってきた球団強化部からの電話を0、2コールの早さで出てやりましたよ。




ええ、新井さん。4月2日をもってビクトリーズに再加入です。



ですから次の日ですよ。ハンコと診断書を持ってビクトリーズスタジアムに行きまして。


守衛のおじさんと3年ぶりの再会ハグをしまして、ココア味のシガレットをくわえながら偉そうに球団事務所に向かいました。



「よろしく!ちょっと今、ヤバいよ!頼むね!」



そう言って現れたのは大原さんである。引退してからすぐ、5年務めた阿久津さんに代わって1軍監督に就任した、もはや俺の中では解説おじさんのイメージしかない。



そのおじさん、1軍コーチや2軍監督、代表コーチの経験は豊富にあるものの、1軍監督というのが今回が初めて。


その初めてで、開幕戦にいきなりノーヒットノーランを食らい、3戦0安打1得点。開幕3連敗というビクトリーズの洗礼を受けたわけですか。ヤバいよと焦る気持ちも分かる。


そんな大原さんに背中をバシバシと叩かれながら、事務所に向かい、GMや球団マネージャーと再会することになった。


わざわざ球団代表までやって来てくれて、ふかふかしたソファーから立ち上がって握手をしながら、にこやかに応対したのだった。


何枚もの書類にサインとハンコをして、2年で球団としてのルールやコンプライアンスがちょっと変わっていたりもしますからね。


それ関連の説明を受けたりして、それが終わると、ロッカールームへと移動したのだった。




「おー、新井さん!!おはようございます!」


「新井さーん!おはようっすー!」


ちょうどそこには、早出特打の準備をしようと、半裸状態の柴ちゃんと桃ちゃんがいて、軽く抱き合うようにして再会を喜んだ。


子供のこととか。家とか車とか、そんな会話を交換すると、柴ちゃんは気になっていたよで……。



「新井さん、ちっと銃で撃たれたところ見してもらってもいいですか?」


「別にそんなん面白いもんじゃないけど……」


俺はそう言いながらシャツの裾をめくって、生々しい傷を2人に見せたのだった。


「ぐええぇっ!結構エグいっすね!」


「うわぁ。生々しいなぁ……ヤバ」


自分でもそんなに見たことがなく、双子ちゃんがよくシールを貼って逃げていく感じでしたけど、1回中を開いて弾を排出しているわけですからね。



明らかな縫い跡とそれを治癒しようとする細胞達のせめぎあいが拝める場所となっていた。



そんな傷を見て喜んでいたのはノッチだけですわね。1人だけテンションが上がって、写真撮ってもいいですか?などとはしゃいだりして。


キューバ製のアサルトライフルで撃たれたのさと説明すると、この銃ですよね!?と、1発で正解にたどり着いた、検索したスマホの画面を見せてきたり。



そんなん今はいいから、新天地デビューのショー君をしっかり今日はリードすることを考えろとさすがに叱ってこの場は終わりとなった。






そのショー君。柴ちゃん達と一緒にグラウンドに出ると、ライトのファウルグラウンド付近にて、ケージで安全ゾーンを作った中。


トレーナー付き添いでストレッチなどをしているところだった。



俺は手始めのランニングで差し掛かる格好で、ケージのネットにしがみつくようにして話しかけた。



「よー、ショー君。おはよ。具合はどうかね?」


「あ、兄さん。おはようございます!調子はいいんですけどね。ずっと緊張してますよ」


「あはは。君は結構緊張しいだからね。昨日の晩飯はみなもんに何作ってもらったの?」



義弟の兄としてかなり気になるところである。もしかしたら、ゲームに熱中し過ぎて、出前とかで済ませている可能性もあるからね。


「昨日はカツ丼を作ってもらいました。あと、縁起良く、鯛のお頭付きの焼き物と。かまぼことか。白星がつくようにと、デザートも新井さんのおばあちゃん直伝のフルーツ白玉が出てきたりして……」



俺はそんな話を聞いてほっとひと安心。ある意味、みのりんよりも拗らせている感のあったあねりんでしたから、ちゃんと奥様が出来ているようで良かったですわ。



「でもたまに、ご飯のお代わりを頼んだら、なぜかゲームのコントローラーを渡されたりしますけどね。指摘したら……あっ、そっかって言われたり……」



「意味が分からないね」

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