実況！４割打者の新井さん １０

新加入の奴を面倒見ますの。

打撃妨害である。

もちろんキャッチャーは故意でそうしたわけではないが、アウトコースのボールに、若干俺のスイングが遅れたタイミングで出てくるわけですから、腕を伸ばし過ぎるとそうなることもある。

向こうのコーチのガミガミとした怒鳴り声がしっかりと聞こえる。

俺は大丈夫、切り替えろなどと声を掛けて優しく肩を叩いてあげながら、その場で防具をぬぎぬぎして１塁に向かったのだった。

カキィ！！

インコースを叩いたバーンズの痛烈な打球。あっという間にレフトの前で跳ねるヒットになったが、痛烈過ぎて平柳君は３塁止まり。

１アウト満塁という場面になって………。

カキィ！！

痛烈。

も、セカンド正面のライナー。

クリスタンテがバットを持ったまま、天を仰ぎながら悔しそうに叫び声を上げた。

「バティフィフス、ファーストベースマン。ダニー・コスマン！！」

頼むぜコスマン。早出の成果を見せるんだ。今日の球審はアウトコースのストライクゾーンが広い。バッテリーは必ずそのボールを使ってくるはずだ。

しっかりボールを見極めれば十分に打てるチャンスがある。

「初球、低め変化球見ました。ボールです。先ほどの凡退で再び打率が１割台となってしまったコスマンですが……」

「しかしね、さっきのファーストゴロ、内容は悪くなかったですよ。しっかりと踏み込んで、ファーストも無理には捕りにいけないくらいの強い打球になりましたからね。

ああいうバッティングでヒットが出るようになれば、数字も上がってきますよ。今までそういうところはほとんど見られませんでしたからね。今日復帰した新井に教えてもらったのかもしれません」

「なるほど。カウント１ー１で３球目です。外、カッター。よく見た！……い、いやストライクです！！球審はストライクの判定！コスマンは仰け反るようなリアクションです」

「バッターにすれば厳しいところですが、あまり態度に出さない方がいいですね。余計不利になってしまう可能性がありますから」

「１ー２となりまして４球目はインコース！これはスタンドに飛び込んでいきまして、ファウルボールです。外、外と来まして、１球内側いっぱいにきました。さあ、どうするか。

……セットポジションから５球目です。アウトロー変化球！！これもストライクだ！！見逃し三振！おっと、コスマンが怒った！球審に詰め寄りますが………もちろん判定は変わりません！」

「あー、ダメですよ！！退場になってしまいますのでね。もう止めた方がいいですね」

俺はストライクコールの瞬間には、ホームベースにダッシュしてましたよ。２塁ランナーですから、ピッチャーの投げたコースがよく見える。

ここまで１０球投げて８球ストライクとコールしている微妙なところにいきましたから。しかもコスマンの見送り方も、ハイハイこれはボールだね。

というセルフジャッジ姿勢でしたから。球審の見逃し三振ポーズが炸裂し、コスマンが激昂する流れが予想出来た。

「落ちつけ、コスマン！仕方ない、仕方ない！」

俺はそんな風に宥めつつ、平柳君と両方から挟むようにして並ぶ。そして、球審おじさんに……うちの子がすみませんという感じを出しながらベンチへと引き上げた。

直後に前村君がホームランを浴びてちょっと嫌な雰囲気になる中のコスマンの第３打席となると、スタジアムが若干ざわついた状況になった。

また同じようなことになったら、退場だぞと。当然バッテリーは広く取ってくれるんですから、アウトコースにボールを集める。

２ー１というカウントになり、アウトローのカッター系のボール。本当に微妙なところだったが、球審はストライクコール。

ヤバい！と、思ったが、コスマンは案外無表情のまま、続く同じ外のボール臭いコースを手を出すも、スカンッ！と、わりといいコンタクトを見せた。