4割打者はまた復帰する。
俺はそれを確認すると、クラブハウスに戻ることなく、ベンチの中でトレーニングウェアに着替えて、グラウンドに出た。
ガキッ!
打ち損じたボールが跳ね返り、ファウルグラウンドまで転がる。俺はそれを拾い上げながら、やあとコスマンに声を掛けた。
「おはよー、コスマン。どんな具合かね」
「よぅ、アラサン。まあ、見ての通り。今一つにも程遠いね」
彼がそう呟く通り、彼はなんだか重たく鈍いバットを握っているように見えてしまった。
「よし、それなら俺が指南してあげようじゃないか」
「なんだい?アラサンがホームランの打ち方を教えてくれるって?」
「ははっ、ホームランだけがバッティングじゃないさ。……ジョイル!!」
俺は彼のバッティングピッチャーを務めていたおじさんにリクエストを出した。
そして、改めて彼の特打ちが再開される。
シュッ!
バッティングピッチャーおじさんは、俺のリクエスト通りのコースへボールを投げ込む。
カキッ!
コスマンはそのボールを打ち返し掛かるがバットの先。ファーストベースにすら届かないファウルボールになった。
2球目。アウトコース低めのボールに、コスマンがバットを合わせにいく、さっきよりは芯に近いところでインパクト出来たが、合わせにいった分、タイミングが遅れ、カメラマン席に入る打球となった。
ビシュ!
3球目もアウトコース低め。しかし今度はそこからボールゾーンに逃げる球だ。
ガキッ!
逃げるボールにかろうじてかすらせたコスマン。崩れた体勢を直しながら、もっと高いゾーンに投げろと、バッティングピッチャーおじさんにジェスチャーした。
「いや、これでいいんだ。今のくらいのアウトコースをライト線に運ぶんだよ」
「オイオイ、今のボール球をか?」
「確かに今のボールは厳しいかもしれないが、その前2つは十分にヒット出来るボールだろう?君の大きな体を生かして、しっかり踏み込んでいけば十分届くボールさ」
「簡単に言ってくれるぜ」
コスマンはそう呟きながらも、ホームベースの上でバットとボールが当たる角度を確認した。
シュッ!
カンッ!
またファウル。ではあるが、1塁コーチおじさんの縄張りラインに沿うようにして低い打球が転がった。
最初はそんな打ち損じタイプの打球だったが、徐々にタイミングが合ってくると、ファースト後方のフライだったり、セカンド正面のゴロになってきて、8球目くらいになると……。
カキッ!
1、塁間を鋭く破るライナーを放ったのだった。
時折、ゾーンを外れるボールは見送りながら、右方向へのバッティングに集中することで、踏み込む足の位置がすごい良くなった。
真っ直ぐよりも若干内側に踏み込むことで、肩の開きが我慢出来るようになり、鋭い体の回転に合わせてバットがシャープに出てくる。
今までは、体の開きが早い部分がありましたから、体とバットの間に、いらない空間が出来てしまっていたんですよね。
体が開くから、外にバットが合わないし、いらない空間があるから厳しい内側のボールは捌けない。
バッティングとしては最悪の形です。
俺が見ていた限り、それを直すにはひたすら外のボールにバットを合わせる形が良かっただろうと考えたのだが、上手くいったようだ。
アームレスラーのような体つきをしていますから、遠心力を生かしてバットにボールを乗せれば………。
カッキイィッ!!
ビューン!!
ガコーン!!
楽勝で流し方向にもホームランが打てますよ。
「サンキュー、アラサン。おかけでいい感覚が掴めだせ」
「礼を言うのは試合で打ってからだよ」
「ナルホド、そうだな!」
カンッ!
「打ちました!……が、打球はファーストの正面だ!弾きましたが、すぐに拾ってキャンバスを踏みました。シャーロット、初回平柳のツーベース、新井がフォアボールで繋いだりとチャンスを作りましたが、後続に1本が出ませんでした。無得点です」
「ピッチャーのマイスリーはよく粘りましたね。バーンズ、クリスタンテを連続三振に仕留めたのは大きかったですよ。ちょっとだけ判定が微妙でしたけどね」
「新井が再びの復帰で盛り上がっていますから、緊張しているのかもしれませんね。さあ、シャーロットの先発マウンドは前村です。ここまで7勝を挙げてリーグタイ。初回も非常に安定したピッチングを披露しています!」
いきなりのチャンスをものに出来ず、ため息とストレスがあったスタジアムの空気を前村君が一変させた。
先頭打者の初球から、リミッター解除の100マイルをご披露。僅か10球で2つの三振を奪うピッチングで初回に続いて2回もシャキッと抑えてくれた。
3回裏。シャーロットの攻撃。1アウトとなり、打席には平柳君。
2ー1からの低めのボールをミート。三遊間に鋭い打球。足から滑り込んで処理しようとしたショートのグラブからボールがこぼれて内野安打となった。
続いてワシ。
1ー1からの3球目。アウトコース低めに、おあつらえ向きなスピードボールが来たので振りにいったが………。
ガシャキッ!!
スイングした瞬間に、何かを巻き込んだような妙な感触。打球はピッチャーの横にコロコロと転がり、キャッチャーがそっぽを向いて知らん顔していた。
「インターフェア!テイクワンベース!!」
球審がそう高らかにコールすると、キャッチャーはやってしまったと頭を抱えた。
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