あ、キムチやサムギョプサルは大好きです。

さらにブラッドリーとヒックスも続いて、いきなり初回に4点を奪った我々は最高の出だしとなったのだが………。



うちの先発はピーターソン。今シーズンはここまで2勝3敗、防御率4、19。昨年15勝を挙げた活躍を考えると、ちょっと物足りない成績。


今日も課題である立ち上がりに、いきなりフォアボールを与えてしまい、2番バッターには3ボールからライト前にしぶとく運ばれ、ノーアウトで1、3塁のピンチを背負ってしまった。




「ヘヘッ!!いいぞ、いいぞ~!」



「すぐに取り返せや!このままじゃ全員クビになるぞ~!」



「ほら~、早くしろ~!ホームラン、ホームラーン!」



「「ギャハハハハ!!」」



レフトスタンドでガラの悪そうな連中の声が響く程に、ホームチームのチャンスシーンとは思えないくらいにガランとしたスタジアム。



いかん、いかん。余計なことを考えて集中しないと。


そう考えながら、バッチコイ、バッチコイと声を出しましたら……。



カキィ!



本当に打球が飛んできた。レフト線、ポール付近に向かっていく打球。フェアか、ファウルか。ホームランになるかアウトになるか。


かなり角度のある打球になったから、俺の足でもフェンス際まで追いかけることが出来た。



黄色いポールも視界に入る中、腰より少し高いくらいのフェンスに体を預けるようにしながら伸ばしたグラブ。



その中に………。



バシッ。



しっかりと打球が収まった。



その瞬間だった。



「ふざけんな!よこせや、韓国人!」



そんな風に言われた瞬間に、俺の体はフェンスの向こう側に強く引っ張られ、そのまま、スタンドの足元に叩きつけられたのだった。


右肩に強い痛みが走る中。数人の足が見えて、顔や胸の辺りを蹴り飛ばされる。


そしてグラブの中にあったボールを奪い取られたのだった。





「「ウェーイ!!」」



ボールを手にして喜ぶその連中達に対して、スタンドを駆け降りるようにしてやってきた、オークランドのユニフォームを着たファン数人と警備人が鬼のような形相。ある意味待っていました、こんな状況を!!という顔をして掴みかかる。



当然、酔っぱらいの若い連中も反撃に出ようとするが、フェンスをシュバッと乗り越えてやって来たバーンズやヒックスやクリスタンテといったスーパーガタイマンの圧力が加わると、どうしようも出来ず。



「新井さん、大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」


しゃがみ込んで俺を心配する平柳君。ベンチからクロちゃんと桜井さんもやって来て、フェンスを跨ぎながら、酔っぱらいの連中を睨みつけるようにしながら、俺の側に座り込んだのだ。



もうしばらくの間、場内に繰り返しアナウンスが流れ、連中の1人が逃げ出そうとして、また別のところで捕まったり、シャーロットのチーム全員が集結する勢いの中、俺は担架の乗せられ、救急車へと乗せられたのだった。




シンプルに言うと骨挫傷。


運び込まれたオークランドの病院では、そう診断された。復帰までおよそ4週。せっかく開幕戦以来の復帰だというのに、この様である。


そして試合の方は、32ー1で勝っていた。シャーロット球団として共に最多の33安打、32得点。



俺がマナーどうのとかのレベルではない観客の所業により退場となり、チームとファンは怒りに包まれたバットを手にした。


最後の3イニングは、野手が登板する形になったみたいだが、そんなのお構い無し。10点差になろうが、20点差になろうが。


盗塁にセーフティバントにエンドランと。一切手を抜かない攻撃。


点が入る度に、シャーロット側のスタンドへ移動したオークランドのファンから拍手と歓声がこだまするようなムード。


色んな意味でこの地でのメジャーリーグが終わるという瞬間が訪れてしまったのかもしれない。



後2試合あるが、俺は早起きしたみんなに見送られながら、お供おじさんを引き連れて先にシャーロットへと戻った。


行きつけの病院で改めて検査してもらったが、結果は変わらず復帰まで1ヶ月を要する見込み。


ようやく復帰だと喜ぶファンの声がたくさん届いたばかりですのに。



本当に申し訳ない気持ちになりましたわね。





ですから、とりあえず歯をきれいにしようと思いましたわね。これまで何度も歯科に通ってやっていましたけど、また復帰まで1ヶ月掛かるのならと、みのりんの首根っこを掴んで行きましたよ。


何やらアメリカでも有数の凄腕だというお医者さんが今、シャーロットにいるらしくて、運良く予約も出来ましたので、通い始めました。


また辛いトレーニングばかりでは気が滅入ってしまいますからね。



まあしかし、オークランドでの1件は俺が想像していたよりもとんでもない騒ぎになってしまいまして。



プレー中の選手をグラウンドからスタンドに引きずり込んで、ボール欲しさの為に、殴る蹴るの暴行を加えて全治1ヶ月ですからね。


しかもその連中リーダー格は、スタジアムに広告を出しているメキシコ企業の御曹司だかなんだからしくて。


同じ大学の友達と卒業旅行に来ていて、スタジアムを管理する役員から受け取った招待チケットで今日は入場していたらしい。


だけど、そのチケットも本来は渡してはいけない種類のチケットらしくて、それを譲渡しているのも規約違反であると。


そして今回は、その違法入場とみなされる学生がメジャーリーガー相手に傷害事件を起こしてしまいましたから、もう大変ですよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る