ようやく復帰ですわね!

西から吹く風の音がヘルメット越しに聞こえてくるそんな中、試合が始まろうとしている。



「これはこれで大変ですけど、しっかり集中していきましょうね」



平柳君のそんな言葉に、俺は改めて気を引き締め直した。



ここ2試合ヒットのなかった平柳だったが、今日はわたくしが復活を遂げていますから、元気100倍だったようで、1ー1からの3球目。真ん中付近に来たボールを叩いた。



打球は右中間の真ん中。センターとライトがグラブを伸ばそうとするそのちょうど真ん中に落ちた。平柳君は1塁を回って、あっという間に2塁へ到達した。



「バティセカン、レフトフィールダー。トキヒト、アライー!!」



少ないとはいえ、シャーロットだけではなく、オークランドのファンからも歓声が上がり、俺はヘルメットを外しながらどーもどーもと、にこやかにご挨拶をしながら打席に入った。



「ヒラヤナギがオープニングで、スタンディングダブル。いきなりチャンスを作り、バッターはアライです。大きな拍手で迎えられました」



「シャーロットウイングスがオークランドへ遠征に来るのも、このカードで最後になります。ファンも彼を見納めになるかもしれませんから、今日はシャーロット側のグッズブースも賑わうでしょう」




「オークランドも、来シーズンから本拠地をラスベガスに移しての戦いになります」



「現在オークランド、そこまで差はついていませんがリーグ最下位に沈んでいます。新天地でのシーズンを見据えて、今シーズンは大幅な入れ替えがあるかもしれません。


マウンド上のエディンソンは功労者と言ってもいいピッチャーですが、自腹を切らなければカジノに入れないなんてことにならないようなピッチングを見せたいところです」



「我々もこのコンビでラスベガスでも実況席に座れるか勝負のシーズンですね」



「私は続投する方に、チップを20枚賭けましょうかね」


「自分はポテトチップくらいなら賭けてもいいかな?」



「「フフフフフフ!」」



「さて、そのエディンソンですが、サムライヒットメーカー相手にストライクが入りません。バントフェイクも見せた彼に3ー0です」


「コントロールが信条のサウスポーですが、初回から苦しいピッチングは避けたいですよ」



「5球目、投げました!!きわどいですが、ボール判定。復帰した4割打者、最初の打席はフォアボールで1塁に歩きます」




なにやってんだ!ちゃんとアライと勝負しろ!だから客が入らねえんだぞ!



そんなヤジが飛んでいるのが俺にも分かった。





「ランナー1、2塁となりまして、アライが復帰したことでこちらもさらに調子を上げてきそうな男、バーンズです。現在打率は2割8分というところですが、チーム最多のら11本のホームランを放っています」



カキィ!!



「そのバーンズが引っ張った!!痛烈、サードが弾く!!すぐに拾い直して、2塁に投げました、アウトです!


1塁は……間に合いません!!いやー、痛烈でした!サードのフレシーはよく止めました!」



「本当によくグラブに当てましたね。打球速度が115マイルですよ。この辺りの反射神経は流石ですね」



俺も頑張って走って2塁に滑り込んだが、残念ながらアウト。



ナイス繋ぎ!と、ミスケリやマクドナルド君達に褒めてもらいながらベンチに腰掛けると、今度はクリスタンテが快音を響かせた。



「打った、これもいい当たり!センターの後ろだ!」



バキッと打球音がすると、打球はセンター方向にグングン。リーグでも屈指の守備力を持つセンターがフェンスに向かってジャンプ!


伸ばしたグラブは僅かに届かず、打球はダイレクトでフェンスに当たった。ホームインした平柳君がバットを拾いながら、はやくはやくと急かす。


3塁コーチおじさんの腕がグルグル回り、バーンズがヘルメットを飛ばしながら、ものすごい迫力でホームを駆け抜けた。

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