新しいシーズンの開幕ですわ!
そして、ケージから出て、腰を下ろして一休みしていると、どんなバットを使っているんだ?
どういう意識を持って振っているんだ?
普段はどんなトレーニングをしているんだ?
ティーバッティングは何種類やっているんだ?などと、質問攻め。
とはいえ、別に特別なことなどやっていませんから。ティーバッティングなんて、普通のやつ以外やったことありませんよ。
平柳君はよく真横からとか、歩きながらとか、片腕だけでとかやっていますけども。
俺はなるべく長くボールを見て、ひたすらミートに徹したバッティングを心掛けているだけですから。それしか出来ませんのでね。
逆に違う感覚が必要になることはしません。だから、ゴルフもやりません。
逆に若い選手達に、打球をスタンドまで飛ばすコツと美味いハンバーガーの店を教えてくれよと、カウンターを食らわす次第でございます。
「よぅ。トキ!俺にもヒットのコツを教えてくれよ!」
それ、どうなってますの!?最初はそんな風に驚いてしまう、見事なドレッドヘアーが前から後ろまで。新加入のメキシコ人選手、コスマンがにこやかに俺のおケツを叩いた。
「ヒットを打つコツはたった1つだけさ。ボールを芯で捉えることだね」
「ハハッ、みんなそれが出来ないから苦労してるんだろ」
バチンとタッチを交わすと、彼の手の厚みと、独特なコロンの匂いを感じ取った。
そんな彼もバッティング練習の順番がやって来てケージに入る。
ダブルAのピッチャー相手に真剣な眼差し。
シュドッ!!
「「オオゥッ!!」」
彼が低めのボールをスイングした瞬間に、見ていた人間の口から思わず声が漏れた。
若干雲行きが怪しくなって来た空に上がった打球は、3回くしゃみが出来るくらいの滞空時間で、ライトのフェンスを越え、さらに奥にあるネットの上の方に着弾した。
もう少しで場外になりそうな飛距離。
スタッフが慌てて走り、ネットのすぐ後ろに停まっていたトラックを移動させるように、ドライバーに伝えていた。
ズドッ!!
今度は高めのボールを叩く。さっきよりも高くは上がらなかったが、その分グングン伸びていく。飛距離も出た。ネットを超えて場外へ。
園芸作業で樹木から切り落とした枝や葉を乗せたトラックがブルルンと走り出したその場所に、打球が跳ねた。
アスファルトで転々としたボールをトラックのドライバーがゲットして大喜びしている。
その後も、コスマンの打球は面白いように飛び、40スイング程で、10本のオーバーフェンス。ケージから出た彼に、打撃コーチは労いの握手を求めにいった。
しかし、逆方向への打球に鋭いものがあまりなかったことがちょっと引っ掛かった。
3月の2週目からの試合に、俺と平柳君も出場し、半分はマイナー所属であるピッチャーとの対戦だったが、打率はちょうど3割。
花粉症持ちでもないのに、春に弱いわたくしにすれば、かなり上々の数字と言える。
去年は1本もヒットが出なくて、首脳陣には心配かけましたからね。
今年はある意味、キャリアの中でも1番いい調子で開幕を迎えることが出来た。
平柳君も最後は2試合で3本のホームランが出る好調ぶり。バーンズもクリスタンテもブラッドリーもザム君もいい感じ。
勝ち頭のウェブが前の週に体調を崩して調整が遅れている中、前村君は西海岸のチーム相手に、14イニングを無失点。開幕投手に指名されて気合いも入っている。
3月25日、金曜日。グリーンオブシャーロット。相手はアトランタである。
「世界一のファンの皆様はお待ちかね!メジャーリーグの開幕です。右中間、スタンド上部に設置されたポールをご覧下さい。あそこにはためくは、ワールドシリーズを制した証のフラッグ。我々の誇りです。
2枚目のチャンピオンフラッグを目指して、今年も長い長いシャーロットウイングスの旅路がまもなく始まりまろうとしています。解説席にはこの街一筋16年、ミスターシャーロットのクックさんです」
「どうも。昨日は興奮して眠れませんでした。せっかく新調した枕がもったいなかったですよ」
「我々シャーロティアンにとって、ママの子守唄よりも、チームの勝利が安眠剤。映えあるシーズン開幕戦のスターティングラインナップです。1番ショート平柳、2番レフト新井はお馴染みの日本代表コンビです」
「今のメジャーにこの2人を越える1、2番は存在しませんね。彼らにかかればどんなバッテリーも冷静では居られません。今日も塁上を賑わせてくれるでしょう」
「3番センターバーンズ、今年もキャプテン。4番ライトクリスタンテ、ここの並びもシャーロットの魅力です」
「2年前は80本、去年は100本。今年は2人で120本のホームランをファンは期待していますね!」
「5番ファーストで新加入のコスマン、6番はDHでデューク・ブラッドリーです」
「コスマンが5番に入って、どれだけの働きをしてくれるかは注目ですね。ブラッドリーも調子は良さそうですから、この人が気持ち良くバットを振れると非常に打線に厚みが出ますね」
「7番サードでベテランのミスケリが名を連ねました。8番セカンドはザム。9番キャッチャーロングフォレストです」
「ヒックスが故障というのは残念でしたね。発表が一昨日でしたが、無理はしないで欲しいです。ミスケリは3年ぶりの開幕スタメンですか。ベテランらしいプレーでチームに安定感をもたらして欲しいところです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます