妻のラーメン代はどうなりますの?
その代わりに獲得したのが、シアトルに在籍していたコスマンというメキシコ人スラッガー。
去年は、低迷するチームで奮闘する30本塁打、100打点をマーク。少し三振は多いが、自分のツボを持っているタイプのバッターなので魅力十分だ。
俺は正直、もう2、3人は居なくなってしまうのではと心配していたのだが、フロントが本当に良く頑張ってくれたみたいですわね。
またワールドシリーズ制覇を狙えるチーム力というのが維持されている形で新シーズンを迎えることになった。
ボチボチ上げていきますかという雰囲気の中、トレーニング開始から10日。初のフリーバッティング。わざわざチームから勉強させて下さいとやって来た、新人スタッフが投げたボールを打つ。
その今年のファーストスイングとなった打球が、ワンバウンドで右中間のフェンスに当たった瞬間に、今年も行けるな。という手応えを感じましたね。
自主トレのたった1球だったが、自分の想定している以上のものが出る打撃というのは、なんだか久しぶりの感覚だった。
メジャーに来てからは特に、食らいついて、食らいついて、拾って、拾って、凌いで、凌いでというバッティングばかりでしたから。
つい去年まで、2部リーグとはいえ、大学でバリバリやっていたという新人スタッフの75マイルのボールを気持ち良く打ち返す、いいトレーニングになった。
「ヘイ、トキ。調子はどうだい?」
2月も後半に差し掛かったところ。スプリングトレーニングの初日。オフの間に少し体重の増えた感のあるバーンズ。
もう全体練習が始まるというのに、ヤシの木のイラストがあるTシャツに紺色のハーフパンツ姿という、余裕シャクシャクのご様子。
「結構いい感じだよ。新人のスタッフ君がなかなかいいボールを放ってくれるからね。今年も打率は負けないぜ」
「いやいや、そうじゃなくて。マドリック・スプリガンズの話だよ。買っただろ?」
去年のMVP男が開口一番聞いてきたのは、ベースボールの話ではなく、新しく発売したばかりのロールプレイングゲームだった。
なんとなく集まって、なんとなく始まる。それがメジャーリーグのキャンプ初日という感じ。
誰1人、揃ってないレベルですもん。服装が。わたくしだけですわ。シャーロットのロゴが入ったキャップとシャツを着て、真面目にティーバッティングを始めたのは。
「俺もお付き合いしますよ!」
と言って隣で打ち始めた平柳君もやって来たのは、20分経ってからだからね。
それに関して、監督やコーチも別に叱ったりとかはしないし。何やら逆に……お前、いつまで練習しているつもりだ?と、チームメイトからからかわれるくらいですから。
そんな妙な緩さがあると思いきや、マイナー落ちだったり、自由契約になってしまった時には、容赦なくスパッ!らしいですから。
構想から外れたら、その日の試合で活躍していても、あっさりクビになることもある。
俺も契約の際に、フロントのお偉いさんから……マイナー落ちした時には、負担しているマンションの家賃とアジアンスクールの授業料は日割りで計算したものをきっちり払ってもらうからなと言われている。
いい意味でも悪い意味でも、選手次第というベースボールの世界ですから、おのずと気合いは入りますよね。伸びる奴はどこまでも伸びるし、甘える奴はどこまでも堕落していってしまいますよね。
でも、去年の今頃と比べましたら、だいぶ練習しやすいですよ。正直、日本でいくら実績があるとはいえ、最初はみんなから様子見されますから。
対外試合でタイムリーを打つくらいのことをしないと、認められない雰囲気ですのでね。でも今年は、ちょっとバッティング練習に向かおうとすると、チームメイト達がどことなくワラワラと集まって来ますから。
その多くはメジャー昇格を狙う、マイナーの若い選手達。何か少しで盗めるものがあればと、俺の練習を観察しているのだ。
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