はためデバッグ

えりえり

第1話 ヒビ

 空にヒビが入った。


 あたり一面雲ひとつなく時々飛行機だとかヘリコプターだとかが通り過ぎてそれなりの騒音を響かせる。月日が経てばすぐに変わっていく地上の景色とは対照的いつ見ても変化が見えないはずの空、確かにヒビが入っている。


 さらに言えばこのヒビ、どうやら俺以外に見えないらしい。


 いつからヒビが入ったのか正確な時間はわからないが気がついたのは確か1ヶ月ほど前、新入生として沙苗高校へ唯一同じ中学校だったそこそこ仲がいい友達の佐上翔洋さがみしょうようと一緒に向かっている時だった。


 ふと空を見上げた時、目を疑う光景がそこにあった。


「え…おい!あれを見てみろよ!空が…」

「空?別に何もないぞ」

「嘘つけ!ヒビが入ってるぞ!」

「ヒビぃ?うーん俺にはやっぱりわからないわ。雲かなんかがそう見えてるだけじゃね」

「いや、でも…そうなのかも」


 あまりにも信じ難い光景のため自分の見えている景色を信じられず、その場は雲だったということで自分を落ち着かせた。


 だが、周りの雲は風に流されていくなか変わらずヒビ割れしている空、入学式が終わってクラスのメンバーと初めて顔合わせをしている時に色んな人にヒビ割れについて聞いて回った。だが結果としては翔洋と同じ返答しか得られなかった。


 その上いきなり初対面でこんなことを聞いてしまったため、その後クラスで浮いた存在になってしまった。


 翔洋とは違うクラスな上、あいつはあいつで既に友達グループを作っていたためこれ以上関わることもなくなったため俺はこれ以上ヒビのことを誰かに相談することはなくなり一人で心に留めておくことにした。


 人間とは怖いものでこの目を疑った光景も、1ヶ月も経てばただの風景に成り下がり俺は明日の課題のことがなによりも不安だった。


 だが、それでも…


「やっぱり異常だよな、これ」


 俺、旗目幸村はためゆきむらは一人屋上で寝転びながら空を見上げている。


 友達のいない俺のお気に入りスポット。周りに人がいる中での一人より誰もいない中での一人の方が幾分か気が楽だ。


 ふと視線を腕時計に落とすと昼休みが残り三分しかないことに気がついた。


「はぁ、そろそろ戻るとしますか」


 立ち上がり、ドアの方へ視線を向けるとドアのすぐ横にいる一人の少女がこちらをじっと見つめていた。


 俺以外誰もいないと思っていたので思わず体がビクッと反応する。思わず目があったが少女が俺のことを見ているとは限らない。もし俺の後ろを俺の後ろにある何かを見ていた場合何か反応すると気まずいので俺は堂々と少女がいるドアの方へと向かう。


 だが少女の視線は俺から離れなかった。それでも何か話しかけてくるわけでもなくドアのすぐ近くまでたどり着いた。


 鮮やかな水色のショートヘア、幼さが見え隠れする顔立ちの中にも凛々しい瞳をもった彼女は表情を一切変えず真っ直ぐとこちらを見続けている。


「あの、どうしたの?俺の顔にでもなんかついてたりする?」

「…」

「…俺君と知り合いだったりする?」

「…」

「…」


 この子いったいどういうつもりなんだ?俺に用があるわけじゃないのか?


 口を開く様子が一ミリも感じず、思わず俺も黙り込んでしまった。


「コネクター」


 いきなり少女が俺の方を指差して意味のわからないことを告げる。


「…?俺?コネクター?いったいそれどういう意味ーーー」


 キーンコーンカーンコーン


 その瞬間授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。


 「あ、やば!チャイムなっちゃった!お先に、君も急がないと」


 そう言って俺は急いで教室へと向かった。そんな中彼女はその場で走り去る俺を見つめているままだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る