III-999(スリーナイン)

BB

A-1

…………


『……スリープモード終了。肉体、精神共に異常無し。再起動まで残り3秒。3…2…1』


脳裏に声がこだまし、暗い深淵から意識を呼び戻し目を覚ます。

それは、1日の日常が開始する目覚ましのようなものであり、自分が機械であることを再認識させる。


「あぁ、もう朝になったんだ。……定時で起こされるから軍に行くのもサボれないなぁ」


僕はメディカルポットの蓋を開け、上半身を起き上がらせる。

そして、ポットの上で足を曲げ抱え込むようにして項垂れる。


「なんで僕なんだよぉ。もっと適した人がいるってばぁ」


僕はボヤキが止まらず暫くの間項垂れていた。


『起動からおよそ10分経過。速やかに身支度を開始ししない場合強制的に動かせます』


少しの間駄々をこねるようにして、ポットの上から動かないでいると自動運行音声システム:アレッサから脅されてしまった。


「物騒だぞ。アレッサ。……はぁー行くしかないもんなぁ」


僕は渋々、身支度を開始し、赤切符と共に送られて来た軍服に身を包んだ。


「じゃあ、言って来ます」

『はい。行ってらっしゃい。』


僕は自動運転バイク:KIRBYに乗り、軍施設があるAIAIに向かった。



AIAIの検問を通り、都市内部に入る。

そこは、TERESAとは違い大いに栄えており、多くのヒューマノイドが生活していた。そして、その中には人間も少なからずいる。

歴史情報館によると、僕らを開発した人間達はAIにより様々な分野を補っていたそうだ。

だけど、システムエラーを起こしたAIがいて、誤作動を起こし各国に保管されていた核爆弾を作動させてしまったんだそう。それで、人間は全体の8割を失い、絶望にくれる中残り2割の人達でAIを使い再建を試みたらしい。そこで生命創生コア:NIKORAが生まれ、人間の補助キーパーとして僕達が生まれたんだそうだ。

今では、NIKORAが国を管理し動かしている。


じゃあ、何と戦うのか?それはこれから分かるさ。


軍事施設に行く前に、腹ごしらえの為のブレックファーストをとる。

決して、軍事施設に行きたくないが為の悪あがきではない。。。


店に入ると人間の女性店員と目が合った。

彼女はそそくさとこちらにやって来て僕を席まで案内してくれた。


「ご注文がお決まりになりましたらお声掛け下さい」


彼女はそういうと店の奥に行ってしまった。

注文は決まっていたので、彼女に声をかける。


「すみませーん!」

「はい。お伺い致します」

「オレンジオイルを1つ下さい」

「えっ。オレンジオイル…ですか?」

「えっと、、はい。オレンジオイルを1つ…」


彼女は先程とは打って変わり、態度が冷たくなった。

僕は嫌な予感を感じ始めていたが、店員が戻ってきたのでその考えを振り解いた。


「……お待たせ致しました。オイルです」

「…………えっと。僕が頼んだのはオレンジオイルなんですけど、、、」


そう。彼女が持って来たのはもったりとした黒い原油だった。


「すみません。オレンジオイルなら潤滑油として飲めるんですけど、原油を飲むと流石に僕でも機能に支障が生じちゃうんです。なのでオレンジオイルにしてもらえませんか?」

「…あなたには原油がお似合いです。支障が生じてそのまま壊れればいいのに」


彼女から発せられた言葉は酷いものだった。


「んー、もしかしなくてもAI嫌いですよね?でもだからと言ってこの仕打ちは酷いと思います」

「あなたが言う通り、私はあなた達が嫌いです。それに酷いと思うなら他の店に行って下さい。外に人間専用って張り紙もあった筈ですよ?ブリキさん」


(ブリキって……酷いなぁ。確かに店を見渡すと人間が多いな。はぁー入る店間違えちゃった)


「分かりました。このまま出て行きますので、それでご容赦下さい」


僕はそう言い、席を立ち店から出ようとする。

すると


「待って下さい。お金を払っていないので払って下さい」

「えっ、でもオイルも飲んでないですし、店に入っただけですよね?」

「私はあなたに原油を出しました。原油にだってお金はかかります。なので、払って下さい」


僕は流石に腹が立って来た。

なんて言いがかりをして、お金をたかっているのだろうかと。

なので僕は、、、


「誰が払うか!ばーーーーか!!!」


バタンッ!


と、そのまま店から走って逃げてやった。


「あーもう。気分最悪だよ。軍に行くのも憂鬱だったのにさらに悪化するとは思わなかったなぁ」


人間がAI嫌いであることはたまにある話ではあるが、その割合は低いものであった。

AIによって多くの人が死んだことを踏まえると納得のいくことではあるが、大分昔の事を引きずるのはどうなのだろうか。尚且つ、僕達は誤操作を犯したAIではない。


「でも、僕がすぐにAIだって気付かれなかったのは髪の毛で耳のタグが隠れてたからだろうし、オイルを飲むのはAIだけだからそこで気づいたって感じだよね。………………はぁ、大人しく軍事施設に行くかぁ」


そう。AIは造られ生み出された時に製造番号が書かれた耳札がつけられる。その番号は、個人証明書として利用され個としての情報が全て入っており、AIである事を示唆するものでもある。


そして、僕は仕方がなく軍事施設に足を向けることにしたのだった。








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