制服フェチ

ツネキチ

ツーショット記念日

 彼のことが好きだ。

 

 中学校生活は、そんなことを考え続ける日々だった。


 問題なのは考えるだけで終わってしまったことだ。私が臆病なばかりにとうとうその思いを伝えることができず終わってしまった。


 今日は卒業式。


 好きだという思いを抱えたまま私は卒業してしまう。


 幸いなことに彼と同じ高校に進学することが決まっている。(嬉しいことに親友のトモちゃんも一緒だ)


 高校では必ず思いを伝える。


 そんな決意を胸に秘めながら今日、私は中学校の卒業式を迎えた。



「というわけで、彼とのツーショット写真を撮りたいと思います」

「グスっ……お願いだからちょっとくらい卒業の余韻に浸らせてよぉ」


 卒業式は思いっきり泣くタイプのトモちゃんが涙目で抗議してきた。


 卒業式はつつがなく終わり、今は卒業生や在校生、教職員の皆様や保護者が学校前に集まって思い思いの時を過ごしている。


「なんなのあんた? 今日卒業式だよ? こういう日はさ中学生活を振り返るとか、離れ離れになる友達と別れを惜しんだりするのが普通じゃないの?」

「何言ってるのトモちゃん。卒業式はそう言った未練をスッパリと断ち切って前に進むためにあるものなんだよ。過去を振り返るんじゃなくて、未来を見なくちゃ!」

「くっそコイツ。彼と同じ高校に進学するから未練はありませんってか?」


 鼻を啜りながらトモちゃんが文句を言う。


「で、何? 彼とのツーショット写真?」

「そうそう。彼と二人で撮った写真ってなかったなと思ってね。今日が最後だし欲しいなーって」

「未練あんじゃん」


 トモちゃんがブーたれる。


「別に今日じゃなくてよくない? 同じ高校に行くなら少なくともあと3年間はチャンスはあるでしょ? まあ、あんたは中学3年間のチャンスをこれっぽっちも活かせなかったわけだけど」

「うっ。そ、それを言わないでよ。高校行ったら本気出すんだから」

「本気出さない奴の常套句」


 ジト目のトモちゃんから目を逸らす。


「それにツーショット写真は今日じゃなきゃダメなんだよ!」

「だからなんでよ?」

「だって、だって……彼が学ランを着るのは今日が最後なんだから!!」

「…………え、それだけ?」


 何を言ってるのだ。これ以上の理由なんてあるわけがない。


「いいトモちゃん? 私たちが進学する高校はブレザーなんだよ? 普通に考えて今日は彼が学ランを着る人生で最後の日! 今日を逃したら学ランの彼とのツーショットは永遠に撮れないんだから」

「……めんどくせえな。もうコスプレでもしてもらえよ」


 なんて投げやりな態度だ。


「彼とのツーショット写真ねえ……まあ、無理じゃない?」

「む、無理って! なんでそんなこと言うの!?」

「いやだって、彼に『一緒に写真撮ろう』なんてあんたから誘うの? 無理でしょ。3年間なんのアプローチもできなかったヘタレのあんたには」


 流石トモちゃん痛いところをついてくる。


 確かに一緒に写真を撮ろうなんて私に誘えるわけがない。


 でも今回は、我に秘策ありだよ。


「大丈夫。ちゃんと私に考えがあるんだから」

「ふーん。一応言ってみ」


 対して期待していない、といった表情のトモちゃん。だが今回の私の考えを聞けばその素晴らしさに驚愕するだろう。


「まず、ここに彼がいるとします」


 身振り手振りで彼が今そばに立っていることを表現する。


「彼は今友達との会話に花を咲かせていると仮定します」

「うん。仮定っていうか、ちょっと離れたところで全く同じ状況になってるからね」


 お互いの会話が聞き取れない位置に彼はいて、友達との別れを惜しんでいるところだ。


「彼は友達とのおしゃべりに夢中です。周りの状況は目に入らないでしょう」

「うん」

「で、私はそこにさりげなく近づいて……ピース!!」

「盗撮じゃん!」


 なんて酷い言い方をするんだトモちゃんは。私の考えた最強の作戦だぞ?


「それ隠し撮りの画角にあんたが加わってるだけじゃん! いやそもそも、あんたが被写体なのに一体誰がカメラを撮るのさ!」

「はいトモちゃん。私のスマホ」

「私にやれってか!? あんたの犯罪まがいの行動の片棒を担げってか!」


 犯罪だなんて。悪さのレベルで言ったら乙女の可愛いイタズラくらいだ。


「これ絶対ツーショット写真って言わないからね? ていうか角度的にどうやっても彼の友達が入るからツーショットにはなり得ないし」

「そこはほら。加工アプリでチチンプイプイ」

「彼の友達を消す気!? 最低だなあんた!」


 彼とのツーショット写真を撮るためには必要な犠牲だ。 


「はい却下却下。あんたの考えは私の権限で却下でーす」

「なんで? なんの権限があって!?」


 私の抗議をトモちゃんは無視する。


「あのねえ。そんなのツーショット写真だなんて満足してたら、後から絶対後悔するよ? 『初めてのツーショット写真は盗撮でした』なんて胸を張って言える?」

「そ、それは……」


 トモちゃんの言うことはもっともだった。


「でも、これがダメならどうすればいいの?」

「はあ……あんた馬鹿なのに難しく考えるからダメなんだよ。馬鹿なんだから」

「馬鹿馬鹿言わないでよ!」


 またしても私の抗議は無視された。


「あのね。小難しい作戦なんていらないの。こういうのはね、ノリと勢い」

「へ?」


 どういうことなのか?


 そんな質問をする暇もなく、トモちゃんは私の手を引いて歩き出した。


 歩き出した先には彼がいた。


「ちょ、ちょっと!」


 行き先に気づいた私はトモちゃんを制止しようとするが、トモちゃんは構わず歩みを進める。


「おーい、ちょっといい?」


 そのままトモちゃんは彼に声をかける。


「うん? どうしたの?」

「いやーせっかく卒業したんだしさ、私たちで記念撮影しない。クラスメイトのよしみで」

「うん。もちろんいいよ」


 彼はやや戸惑いつつも快諾した。


「じゃ撮ろっか。あ、悪いんだけどこのスマホで撮ってくれない?」


 そう言ってトモちゃんは私のスマホを彼の友達に渡す。


 そしてさりげなく彼の隣に私を配置して3人並ぶ。


 ち、近い!


 彼が近い。


 肩が触れそうな距離……というか隣のトモちゃんが体で私を押しているため腕がほぼくっついたような形になってる!


「はーいじゃあ撮るよー。3、2、1、はいチーズ」


 パシャリという音に最後まで気づかなかった。


「ありがとー。じゃあ、高校でもまたよろしくね!」


 あまりの展開に頭がついていかない私の手を引き、トモちゃんは颯爽と退散した。


「はいこれ」

 

 少し離れた場所でトモちゃんはスマホを渡してくる。


 スマホには私たち3人が並んだ写真。満面の笑みを浮かべるトモちゃんと、はにかむように笑う彼。そして緊張のあまり顔の引き攣った私が写っていた。


「まあツーショットじゃないけどさ。二人きりの写真なんてあんた緊張して撮れないでしょ?」


 トモちゃんの言葉には答えられなかった。


 学ランの彼と一緒に撮った写真がある。その事実に感無量だったからだ。


「うーーっ、やったぁ……!」


 喜びを噛み締める。


「ありがとう、トモちゃん!!」

「まあいいってことよ」


 どれだけ感謝しても足りない。


 私の念願が叶った。中学校生活の未練が全て解消された。


 もう思い残すことはない。


 彼と同じ高校で頑張って恋人同士になるんだ。


 決意新たにし、私は今日卒業する。



「あとは加工アプリでトモちゃんをーー」

「それやったら本気で友達やめるからね」

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