第8話 部活、はじめました
ある日、休み時間に親友のカインと他愛もない雑談を楽しんでいると、クラスメイトのユウカに声をかけられた。
「ソウヤ、ちょっと来て」
「行ってきなよ。俺は別にいからさ」
「あ、うん……」
彼の後押しもあって、僕はユウカの誘いに乗る事にする。この時、親友の顔が何だかニヤニヤしていたような気がしたのは気のせいかな。
「何の用?」
「ちょっとついてきて」
「?」
彼女の謎の要求に、僕は取り敢えず従う事にした。拒否する理由もないし、ちょっと面白そうだったから。
ずんずん前を歩くユウカの後について歩いていくと、やがて特別校舎に辿り着く。ここは部活動の部室とか魔導実験場などがある所だ。
何も言わずについていくと、彼女は部室が並ぶ教室の一角で足を止める。
「ここ?」
「じゃ、入るね」
どうやらその部室に僕を呼ぶのが目的だったらしい。部の名前は『創作魔導部』。全く聞いた事がない。
僕はゴクリと唾を飲み込みながら、先に入ったユウカを追うように部室に足を踏み入れた。
「おー、よく連れてきてくれた!」
部屋に入った途端、元気いっぱいの強い圧の声が僕に直撃する。その声の主は、僕より背が高い赤毛の女子の先輩だった。眉毛が太くて何だか性格も豪胆そう。
部室には僕の他にはその先輩とユウカしかいない。と言う訳で、どうやら彼女の行動はこの先輩女子の指示だった事が判明する。
「誰?」
「創作魔導部のベリル部長」
ユウカから先輩の素性を聞き、大体の事情は察した。厄介事に巻き込まれたくなければ、今すぐにここから離れた方がいいのだろう。
けれど、僕が動くより先に先輩の声が部室内に響き渡る。
「まあまぁ座って座って」
「えっと……」
部長の声には逆らえない魔力があるのか、気がつくと僕は勧められるままに素直に椅子に座っていた。
着席した途端、部長はニンマリと満面の笑顔を見せる。
「よく来たぞ新入部員」
「は?」
予想していた展開とは言え、本当に予想通りになって僕は困惑する。部長はそんな僕を無視する形で、前のめりになりながら話を続けた。
「我が創作魔導部は御存知の通り、今年で創部三周年を迎える。だが悲しいかな、部員がいないのだ。だから部の存続のために君には部員になってもらう」
先輩はまるでそれが決定事項のように話を進める。部活の存続は3人以上の部員数の確保だから、部員集めに必死になるのも当然だ。とは言え、何で僕なんだ。他にも気になる事は色々ある。
まず気になったのは、この崖っぷち部にユウカがいると言う事だ。僕は小声で彼女に耳打ちする。
「何で君はこの部に?」
「この部、私の姉が作ったんだよね。その流れ……」
その理由を聞いた僕は何となく納得する。つまりは義理みたいな形で在籍する流れになったのだろう。ユウカと違って、僕は別にこの部活とは何の関係もない。
勧誘の仕方も強引だし、合わないなと思った僕はその気持ちに忠実に行動する。
「えっと……。帰らせていただきます」
そう言って席を立とうとしたところで、部長はニヤリと笑みを浮かべながら僕を見つめる。
「まー待ちたまえ。君は確か帰宅部だったよな?」
その言葉は僕の胸にぐさりと刺さる。やはり身辺調査をした上での勧誘だったのだ。目を泳がせる僕を目にしながら、部長は更に話を続ける。
「部活動をしておくと将来有利だぞ」
「そ、それは……」
今まで部活に入っていなかったのは、魔法が使えなかったから。今ならどこかの部活に入っても問題ない気はする。部長の言う通り、部活動での実績は将来進学するにしても就職するにしても大きなプラスになるだろう。
僕が心に迷いを生じさせていると、先輩は入部届の用紙とペンを差し出した。
「さあここにサインを」
部長は、入部するならここしかないと言った雰囲気で迫ってくる。だからと言って、どの部活に入るかは本人の自由意志でいいはずだ。ただ、何となく断りにくい雰囲気があった。
そこで、この場を切り抜けるために用紙だけを受け取る事に。
「ちょっと持ち帰ってみますね」
「良い返事を待っているぞ」
こうして僕は創作魔導部の部室を後にした。家に帰った僕は自室でふんぞり返るフクロウに相談する。
「トリはどう思う?」
「やればいいホ」
話を持ちかけた瞬間に即答されてしまい、僕は戸惑ってしまった。それで言い訳するように言葉を返す。
「部活って他にもあるから、入るなら別にここでなくても……」
「じゃあなんで今まで入ってなかったホ?」
「それは……、伝統の部だと今から入るのも……」
「じゃあやっぱりそこがいいホ。出来て3年ならしがらみとかなさそうホ」
何だかうまく言いくるめられてしまい、その流れで僕は入部届にサインを書いてしまった。本当にこれで良かったのだろうか……。
放課後、僕は彼女と一緒に創作魔法部の部室へと向かう。ドアを開けた瞬間、またしても圧の強い言葉が僕に突き刺さった。
「よくぞ来た新入部員! 今日も来たと言う事は入部確定と言う事だな!」
「えっと、よろしくです」
「うむ、よろしい!」
部長はニコニコと白い歯を見せながら入部届を受け取る。部員が3人になれば晴れて部は存続。そりゃあ笑顔になるのも当然だ。
入部ついでに、僕はここでずっと気になっていた事を質問する。
「ところで、今まで存在してたって事は、それまでは部員がいたんですよね? 全員卒業したんですか?」
「うん、全員辞めてしまったんだ。何故かは分からんが」
自信たっぷりに話す部長の言葉を聞いた僕は、嫌な予感しかしなかった。その後、部長は僕ら部員を連れて演習用の多目的広場に移動する。
「じゃあ今日は3周年記念と言う事で、派手に魔獣の召喚をしよう!」
部長はそう言うと、杖を使って地面に魔法陣を描き始める。書き終わると同時に魔導書を開き、召喚の呪文を唱え始めた。
「……いでよっ! 魔獣エヴン!」
部長の叫びと共に空は一気に暗くなり、魔法陣の上に雷が落ちた。その強い衝撃に僕は思わず腕で目をガードする。光と衝撃が収まった後に薄目を開けると、そこには見慣れない魔獣の姿が。どうやら召喚に成功したらしい。
大きさは一階建ての家くらいで凶悪な顔、鋭い牙、背中にトゲトゲ、全体的にトカゲっぽい感じ。ついでに何か口から煙が漏れているんですけど……。
この危険そうな魔獣に対し、召喚した部長は感動に打ち震えていた。
「召喚は成功だ! こんなに嬉しい事はない……」
魔獣は確かに怖そうだけど、コントロール出来るなら怖くはないのかな。
……と、そう思っている側から、魔獣は地獄の底から響いてくるような咆哮を上げながら僕らの方に向かって突進し始める。
「ちょ、部長、何とかしてください!」
「あ、あれ? おかしいな、止めらんない!」
魔獣は突然飛び上がったかと思うと、そのまま自然落下で僕を狙う。最初のアタックはギリでかわせたものの、何度も回避出来るかは分からない。
ユウカはと言うと、部長の背後にすばやく回り込んでいた。流石に行動が早い。
「部長、止める方法はないんですか!」
「分かった、勿体ないけど封印する!」
部長はすぐに魔導書を開き、封印の呪文を詠唱する。途端に魔獣は苦しみだして黒い霧に変化していった。
「ふう、何とかなった」
部長はそう言って額の汗を拭う。恐怖が去ったと言う事で、僕はその場に座り込んだ。こうして今回の召喚事件は失敗と言う事にして撤収しようとしたその時、僕は黒い霧が集まっていくのに気がついた。
「あの、部長」
「何?」
「霧が集まってますが」
次の瞬間、呆気なく魔獣エヴンは元の姿に戻り、またしても天に向かって咆哮を上げる。封印は成功していなかったのだ。
しかし完全復活ではないようで、まだ動き出そうとはしていなかった。この隙がチャンスだと部長は指示を飛ばす。
「今の内にみんなで力を合わせて! エヴンを止めるぞ!」
この言葉に、僕達3人は必死に持てる力の全てを使って魔獣を止めに入った。部長が拘束魔法で動きを止め、僕が冷気魔法で生命力を弱らせ、ユウカが睡眠魔法で眠らせる。上手く行けば今度こそ確実に封印出来るはずだ。
けれど、魔獣には魔法を受け流す仕組みが備わっているのか、どんな魔法も全く効果を与えられない。
「……ごめんみんな。私が引きつけるから2人は逃げろ!」
「部長、無理です。1人でなんて」
ユウカが悲痛な叫び声を上げる。魔獣はこの時をチャンスと判断したのか、いきなり口から熱光線を吐き出した。
「きゃあああ!」
「世話が焼けるホー!」
丸焼けになる直前、トリが現れて攻撃を鏡のように反射させる。自分の攻撃をまともに浴びた魔獣は丸焦げになって、今度こそ完全に消滅した。
「トリ、有難う、助かったよ」
「全く、自分の手に負えないものを召喚するもんじゃないホ」
「それは部長に言ってくれよ……」
僕は責めてくる使い魔に対して、誰が召喚したのかの説明をする。初めてトリを見た部長は突然ガタガタと震え始めた。
「そ、そのフクロウ……」
「部長、トリの事知っているんですか?」
僕が部長に話を振ったその刹那、フクロウの目が一瞬強く光る。そこから発生したビームはまっすぐ部長に直撃。
「い、いや、知らない。さっきまで知っていたような気がしたけど気のせいだったよ。あはは……」
部長の愛想笑いに僕らもつられて笑ってしまう。ひとしきり笑った後に見回すと、もうトリはどこにもいなかった。きっとまた僕の部屋に戻ったのだろう。
「そ、それじゃあ、部室に戻って3周年記念のパーティーでもしようか」
「え? いいんですか?」
「いいのいいの。創作は楽しむのが一番!」
こうして帰宅部だった僕はちょっと変な部に入部した。ちゃんと続けていけるかなぁ……。
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