落ちこぼれ魔法使いの僕が魔法を使えるようになったワケ
にゃべ♪
第1話 落ちこぼれの魔法使いと謎のフクロウ
「今度の試験で魔法が使えなければあなたは退学です」
「え?」
「そのつもりで準備をしておくように」
先生に言われたその言葉を、僕は何度も反芻する。昔絵本で読んだ魔法使いに憧れて魔法学校に入学して丸2年。クラスメイトはみんなとっくに初級の魔法を使いこなしている。中には中級の魔法を会得したやつまでも。
だけど、僕はまだ魔法が使えない。先生は親身になって教えてくれたけれど、何故か僕は、僕だけが魔法を使えなかった。こんな事は学校が始まって以来の事らしく、いつの間にか僕は問題児扱い。
持て余された僕に退学の話が出てくるのも当然だよね、むしろ遅すぎたくらいだよ。
そんな状況だから入学時に仲の良かった友達も自然に離れていって、今じゃぼっち生活を満喫している。憐れまれるくらいならその方が気が楽かも知れない。
先生からの指導を受けても魔法の使えない僕は今、図書室に通い詰めている。蔵書10万冊の魔導書の中に魔法を使えるようになるヒントが隠されている気がしたから。
――って言うか、もうこの手しか残っていなかったからだ。
歴史あるこの学校の図書室にある本は、先生すら把握出来ていないほどの数が収められている。噂では落ちこぼれ魔法使いをマスタークラスに引き上げた伝説の本まであるらしい。もうそんな都市伝説に頼るしかなくなってしまった。もうこの図書室の本の一割は読破したはずだけど、それっぽい本はまだ見つからないまま。
早く見つけないと僕の夢はここで終わってしまう。最後の試験の日まで後3日しかない。
こんな僕でも入学試験の時には割と先生方から期待されていたんだ。面接の時に適正チェックがあったんだけど、その時は面接官の先生方が全員動揺するくらい魔力の潜在量が多いって評判になって一発合格。
思えばあの頃が人生のピークだったなぁ……。
「はぁ……」
魔法を使えない事には先に進めないからって、僕は入学2年目に入った頃から図書室に通いつめている。付いたあだ名は図書室の主。そりゃ当然だよね。
それからほぼ1年間、僕は図書室で魔導書を読んでは書かれてある事を実践する日々。多分魔導理論ではクラスの中でも一番詳しい気がするよ。
最近は登校後に直で図書室だから、今クラスメイトがどのくらい魔法を使いこなせているか詳しい事は知らないんだけど。
「あれ?」
その日も僕は図書室でまだ読んでいない本の物色していた。そんな時、ふと目に入った本が妙に気になって、思わずそれを棚から引き抜く。表紙を見てびっくりした。何故なら魔法封印された禁書だったからだ。
禁書とは文字通り危険すぎて封印された本の事。何故学生の使う図書室にそんな本があるのか謎だったけれど、好奇心を抑えきれなかった僕は興奮しながらその本に手を伸ばした。
禁書は資格のある人しか開けない。だからモノは試しって言う勢いだけだった。知識では知っていても、生まれて初めて触れた禁書だったし。
もしかしたら開くかもって思った僕の期待は、この時不思議と叶ってしまった。何と、何の抵抗もなく本が開いてしまったんだ。禁書が読めると言う期待感で、僕はもう後先の事は何も考えられなくなっていた。
本を開いた瞬間、頭の中に何かの図形が思い浮かぶ。それと同時に、強烈な光がその中から放たれた。
「うおっまぶしっ!」
光が収まった時、持っていたはずの本は消えていて、代わりにある動物が目の前に現れていた。
「よく起こしてくれたホ! お前何者だホ!」
現れたのは喋るフクロウ。大きさは30センチくらいで、まるまると太っている。出現経緯から考えると魔導書に封印されていたのだろう。見た目はこんなでも、実は恐ろしい魔導兵器とかかも知れない。
「こっちは名前を聞いているんだホ! 答えるホ!」
「あ、えっと、僕はソウヤ。君は?」
「俺様の名前はトリだホ! それ以上でもそれ以下でもないホ!」
どう見てもフクロウなそれは自分の事をトリと名乗り、それ以上詳しい事は何も話さなかった。僕はこれからどうしていいか頭を悩ませる。
「出してくれた礼に何でも願いを叶えてやるホ! ほれ、早く言うホ! ほれほれホ!」
その言い方が生意気だったので、少しムカついた僕はここで一計を案じる。このトリを試してやろうと思ったのだ。
「言ったな? じゃあ魔法を使えるようにしてくれよ」
「そんなのお安い御用ホ!」
正直、禁書を手にした瞬間からこの展開を実は期待していた。こんな禁じ手でも使わない事には、僕が魔法使いになる事なんて出来ないと思っていたからだ。
これで僕も本物の魔法使いになれると期待しながら目の前のトリを見ていると、彼はフクロウらしく首を有り得ないほどに傾けた。
「おかしいホ……」
「えっ?」
「お前、力はあるはずホ。何で使えないのか分からんホ……」
「そ、そんな……」
力があると言われたのは嬉しかったけど、結局使えないままなのは変わらない。目の前の謎生物の力を持ってしてもどうにもならないと知り、失望した僕の口から魂が抜け出していった。
そうして絶望に打ちひしがれていると、急にトリの目がキラリと輝く。
「分かったホ! 俺様、お前の使い魔になってやるホ! それでビシバシ鍛えるホ!」
「君が僕を魔法使いにしてくれると?」
「任せるホ!」
こうして、僕はまだ魔法も使えない内から使い魔をゲットしてしまった。それからは試験当日まで学校に行かず、トリとマンツーマンで魔法の特訓。指導は厳しかったものの、何となく感覚が掴めるようにまではなってきた。
使えるようになる前に、試験当日の方が先に来てしまったけれど。
「やれる事はやったホ。後はお前次第ホ」
「分かった、行ってくる」
こうして、多少の自信をつけた僕はトリに見送られながら試験会場へと向かう。場所は体育館。試験は10メートル離れた標的に魔法を当てる事。魔法を使える者なら何て事のない簡単な内容だ。
先生の見守る中、僕は魔法の杖を構える。ああ、緊張して喉がカラカラだよ。
「先生、大変です! 遺跡に向かった生徒達が!」
いざ杖を振りかざそうとしたところでトラブルの報告が届き、試験は中止。どうやら、魔導実習に向かったクラスメイト達が遺跡の崩落で閉じ込められてしまったらしい。現場は大昔に魔法使いが魔導研究をしていた場所で、場に魔動力が強力に込められていて簡単に瓦礫を取り除く事が出来ないのだとか。
そんな厄介な場所な事もあって、救出には学校の先生方が総出で取り掛かる事になった。
試験が先延ばしになった事には正直ホッとしたけど、クラスメイト達の事が気になった僕はこっそり事故現場へと向かう。すると、そこには完全に入り口が塞がれた遺跡の姿が。
先生方も何とか魔法を使って頑張っているけれど、作業は遅々として進んでいない。
「あれじゃあ全部取り除くのに3日はかかるホ」
「おま、いつの間に!」
「俺様はお前の使い魔だホ! いついかなる時も一緒だホ!」
「トリ、どうにかしてくれよ。お前なら何とか出来るんだろ?」
そう、禁書に封じられていたほどの存在だ。トリならきっとこのピンチをどうにかしてくれる。僕はそう信じて彼に懇願した。
「ま、出来なくもないホ。けど……そうだ! いい事思いついたホ!」
「えっ……」
トリはこっそり耳打ちする。その方法に対して僕は全く自信がなかったものの、彼があんまり自信たっぷりに言うものだから、その策に乗っかる事にした。
僕は現場で魔法を使う先生方の前にトリと一緒に向かう。そうして作戦通りに先生方の前で宣言した。
「僕が何とかしてみます!」
「いや、君、そもそも……」
「離れていてください」
やはり先生方は僕の言葉を信用してはくれなかった。学校始まって以来の問題児の発言なんて聞いてくれるはずがないよね。
けれど、僕の側でふわふわと浮かんでいるトリを見た先生方は急に態度を一変させる。
「ソウヤの言う事を聞くホ!」
「は、はいっ!」
きっと先生方はトリの正体を知っているのだろう。その一言で、僕の周りには誰もいなくなってしまった。色々思う事はあるけれど、ここからが本番だ。
僕は杖を振りかざして、静かに意識を集中する。
「はあっ!」
杖を振り抜いた瞬間、遺跡を塞いでいた瓦礫は音もなく一瞬で消滅。その後、瓦礫の消滅と共に閉じ込められていたクラスメイト達が、涙を流しながら僕の前に集まってきた。
「お前がやったのか?」
「う、うん」
「助かった、有難う!」
「有難う! 本当に有難う!」
こうして僕は一気にクラスメイトから救世主扱いをされ、打ち解ける事が出来るようになった。魔法が使えたと言う事で試験も合格。それからは普通に教室でみんなと一緒に魔法の勉強をしている。
僕の伝説はきっとここから始まるんだ!
え? あの時何をしたのかって? 僕の中にトリが力を入れてくれたんだ。そうする事で体内の魔導器官が一時的に暴走状態になって、規格外の力を出す事が出来たって訳。
話を持ちかけられた時は、僕も半信半疑だったけどね。
トリの正体については先生方も何も言ってくれない。だからこれから自力で調べようと思ってる。彼は今頃僕の部屋で寝息を立てている事だろう。
色々とまだ分からない事だらけだけど、僕はこれからもトリと一緒に頑張っていくんだ。
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