第12話 遭難

草むらが揺れる。


そして、草むらから出てきたのは盗賊と、他のものとはオーラが違う巨体な大男だった。


「なっ!?あれは『拳闘士 屈強級』!それにあの顔は!」


大男の額にはばってん印の傷がある。


俺はあの大男の顔に見覚えがある。

あの男は指名手配されている凶悪な山賊だ。


「まさかここで遭遇してしまうとはな…」


父さんですら怖気付いてしまっている。


「ルイス、雑魚は頼んだよ。

俺はあいつと少々面倒な話をしなきゃいけないみたいだ…」


「分かりました。すぐ片付けて加勢します」


「ああ、待ってる」


さてと、俺は雑魚を狩りますかね!


「おりゃぁ!」


俺は強く踏み込み、素早い動きで次々と山賊を薙ぎ倒していく。


「こ、こいつただの子供じゃねえ!」


戦えている…

無職というのが嘘かのように俺は戦えている。


俺は本当に無職なのか?

そう思えてしまうほどに、だ。


「おりゃぁ!」


盗賊の最後の1人を倒した。


「はぁ、はぁ、はぁ、」


俺の体はもう限界だった。


10歳という若さで何人もの盗賊を相手にしたんだ。

動けなくなっても仕方がない。


しかし、父さんに加勢しないと___


「いまだ!」


草むらから隠れていた盗賊が現れ、叫ぶ。

それと同時に黄色い液体が入った瓶を、俺に向かって投げた。


「まずい!」


俺は避けきれず、瓶が俺に当たり割れる。

瓶の中の液体が溢れ出し、俺に浴びせかかる。


その瞬間、俺の体に激痛が走った。


「うっ!?」


隠れていた奴がいたのか…

しかし、目立った外傷は与えられていない。


直ぐに倒す!


俺は地面は強く踏み込んだ…はずだった。


しかし、俺の足は空を切った。


体制を整えようとしたが足が出ず、そのまま倒れた。


なんだこれ、体が動かせない!

手足の感覚もなくなってきた…

これはもしかして、麻痺か!?


なんで麻痺なんて…


「引っかかったな!

俺は『状態異常薬師 有能級』だ!」


状態異常だと…!?


この麻痺のポーションもやつが職で作ったやつなのか。


「お前はそうだな…この近くに崖があったよな!そこから突き落としてやるよ」


崖!?

そんなの絶対に死んでしまう。

しかも聞いたことがある、崖に囲まれている魔の森があるという噂を。


もしかして俺終わった…?


「よいしょっと」


俺は盗賊に担がれ運ばれる。


草むらをかき分け少し進んだ先には崖に囲まれた不気味な森が見える。


崖の高さはざっと見て30メートル程ある。


この高さから落とされたら生き残る可能性は極めて低い。


俺…ここから落とされるの?


「じゃあな!」


盗賊は俺を崖に放り投げた。


無理無理無理無理!!

絶対に死ぬ!


手足が動かない。

まともな着地もできない。


落ちる瞬間に枝を掴むんだ!

そうすれば少しは威力が緩和されるはずだ!


幸い俺の落ちる先は木の上。

木にぶつかりながら枝を掴めば生き残れる可能性は上がる!


俺の身体はどんどん速度を上げて降下する。


動け俺の手!


まだ麻痺の効果が残っている。


ピクッ


指が少し動いた!


俺の身体は木にぶつかる。


「うっ!あっ!くっ!」


木に何回もぶつかり徐々にスピードが緩まる。


地面が見えた!

俺の手動け!


ガシッ


俺は地面に激突するすれすれで枝を掴むことに成功した。


良かった…

まだ麻痺は解けてないけど何とか手を動かせた。


ミシッ


枝がきしむ。


え?


ミシミシッ、バキッ


枝が重さに耐えられず折れた。


「うあぁぁぁ!」


俺は木から落ち地面に激突した。


「いってぇぇ」


何とか…生きてい…る…


意識が段々と薄れていく。


どうやら、地面に落ちた時に頭を強くぶつけてしまったらしい。


ここは魔の森。

ここで意識を失うことは死を意味する。


だめだ…意識が___


俺は耐えられず意識を失ってしまった。




◆◆◆




「はあぁぁ!」


ハリーが剣を振る。


「うぉぉ!」


大男が拳を突き上げる。


両者ともに譲らず接戦を繰り広げている。


剣士と拳闘士ではリーチの長い剣士が有利だ。

しかし、大男の巨体とリーチの長い腕で剣士の利点を消されている。


このままじゃ埒が明かない。

なにか打開策を…


「くらえ!」


後ろから現れた男がハリーに瓶を投げる。


黄色のポーション…麻痺か!?

これを利用すれば!


「もらった!」


ハリーは素早い動きで投げられた瓶を華麗にキャッチする。


そしてそのまま反転し大男に向かって投げつける。


「なっ!?」


大男は避けきれず麻痺のポーションを浴びてしまう。


「ぐあぁぁぁ!」


男の動きは次第に鈍っていき、地面に倒れた。


「とどめだ!」


ハリーは大男にとどめを刺し、その後直ぐに後ろの男を倒した。


「何とか乗り切った…!」


ルイスの方も上手くやってくれたみたいで良かった。


「ルイス!」


ハリーの声が雨にかき消される。


「ルイス!!」


森の中にはハリーの声と雨の音だけが響いていた。


「ルイス!隠れてないで出てこい!」


「あなたどうかしたの?」


「ルイスがいない!」


「そんな…!?」


「奴らにやられてはいないはずだ!」


「探そう!」




それからハリー、マリー、アリスの3人係でルイスを探した。


「見つからないわ」


「こっちにもいない!」


「俺の方もいなかった。

もしかしたら崖から落ちたのかもしれない…」


「っ!?」


「あの崖から落ちたら普通助からない」


「それじゃあ、ルイスちゃんは…」


「……」


ハリーは下を向き、マリーの問いには答えなかった。


「そんなの嘘よ…!?」


マリーが涙を流す。


「くそっ!」


ハリーも涙を流した。


雨の音が、ルイスの存在を忘れさせようとしているように感じた。

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