パパに会いたいだけなのに!!
ねじまきねずみ
第1話 わたしのパパ!?
「え!?」
わたし、
夏休みが近づいたその日、部屋で一人で動画サイトを見ていて思わず声を上げてしまった。
「えええ〜!!」
目の前のタブレットには、人気アイドルグループ『
ピカピカ光るライト、きらびやかな衣装、キャーキャー叫んでいるお客さんたち。
人気グループなだけあって、まさにスターって感じのキラキラした五人組。
キレのあるダンスが評判で、ずっとトップの人気を誇ってる……らしい。
わたしは、そんなレッグのセンターのショーンに目がクギづけ。
「この人……」
銀色でツヤツヤの髪、切れ長の目、通った鼻すじ、それから長い脚、それに——。
「絶対わたしのパパじゃん!!」
♪♪♪
翌朝。
「果音! 急がないと遅刻するわよ! 今日も期末テストでしょ」
テスト期間中なのに夜ふかししてレッグの動画をたくさん見たから、うっかり寝坊しちゃった。
ママに起こされて、急いで朝食を食べて学校に行く
「宿題よし! 荷物よし! 制服シワなし!」
鏡の前で身だしなみチェック。
「ママ〜! 髪やって!」
「時間がないからカンタンなやつでいい?」
「うん、なんでもいい。昨日も
髪はママにおまかせ。いつもかわいくしてくれるから。
こんな感じでわたしは普通の朝を過ごす、普通の中学生。
そんなわたしが、どうして大スターのショーンをパパだなんて思うのか……って感じだよね。
【理由その1】
うちにはパパがいない。
生まれたときからママが一人でわたしを育ててくれてる。だけどママは『パパは世界一かっこいい人だったのよ』なんて、よく言ってて、パパのことは今でもきらいじゃないみたい。というか、たぶん今でも大好きなんだと思う。
【理由その2】
ショーンの年齢。
37歳らしい。ママが36歳だから、一歳ちがいで恋人同士だった可能性が高いと思う!
【理由その3】
ショーンの耳とショーンの癖。
わたしの耳の形ってちょっと変わってて、右の耳だけ上がちょっとツンととがってる。昨日の動画と他の写真でじっくり見たら、ショーンは左耳がとがってた。
それからわたしは話すときについ耳をいじっちゃうんだけど、昨日の動画のショーンもそうだった。
だからって〝大スターの芸能人〟がパパだなんて、普通は思わないよね。友だちに言ったら、きっと〝夢見がち〟って言われちゃうやつ。
だけど、わたしの場合はパパは絶対芸能人だって思ってる理由がある。
「ねえ、ママ……あのさ」
「なぁに?」
「あの……」
そこまで言いかけたところで、テレビが目に入る。
「あ、この人、ママと同じグループだった人!」
ワイドショーに映っている女優さんを見て言う。
「あらほんと。新しいCMやるのね。めぇちゃん、相変わらずきれいね〜」
「ママだってきれいだよ! また芸能人やればいいのに」
わたしの言葉にママは困ったように笑う。
「果音。いつも言ってるけど、ママは果音と普通の生活をしてるのが一番幸せなの」
そう言って、ママがわたしをギュッと抱きしめる。
「ほら、遅刻するわよ。行きなさい」
「そうだった! いってきま〜す!」
そう、これが【理由その4】
わたしのママは昔はアイドルだったの。お腹にわたしがいるって知って辞めちゃったんだけど、昔からずーっときれいでかわいい自慢のママ。
そのママがアイドルを辞めてまでこっそりわたしを産んだんだから、相手は絶対芸能人だと思う。
あんなにかわいいママが『世界一かっこいい人だったのよ』って言うくらいだもん、ショーンがパパだって予感がする!
♪♪♪
昼休み、中庭で同じクラスの莉子とお弁当を食べる。
「え! ショーンがパ…もがっ」
大きな声を出す莉子の口を、思わず手で覆う。
「声が大きいよ!」
「ごめんごめん! だけどショーンが果音のパパなんて、本当?」
今度はわたしに顔を近づけてヒソヒソ声。
「んー……あくまでもわたしのカンだけど、当たってる気がする」
「果音のカンは結構当たるもんね。隠し子ってやつ? ショーンが相手なんて
髪を頭のテッペンでお団子にした莉子は、幼なじみで親友でイトコ。だからわたしとママの事情を知ってる。響子はわたしのママの名前。
「響子ママには聞かないの?」
「うーん、それなんだよね」
ママはときどきパパの話をしてくれるけど『世界一かっこいい』とか『やさしい』とか『ニンジンが好き』だとか、フワッとした話ばっかりで、仕事とか名前は一度も聞いたことが無い。
一度だけ『パパって何してる人?』って聞いてみたら『いつか果音が大人になったら教えてあげるね』と返された。
「ママって、パパが誰なのかヒミツにしたいみたいなんだ」
それもまた、パパは絶対芸能人なんだってわたしに確信させる理由なんだけど。
「ママに聞いてもきっと教えてくれないと思う」
「そっかあ。いつか教えてもらえるといいね」
莉子はわたしを励ますように笑って言ってくれた。
……だけどわたしは、大人になるまで待つなんてできそうにない。
パパのことを知りたいし、できることなら会ってみたい。
「ショーンかぁ。たしかフィリックとと同じ事務所なんだよね」
「フィリック?」
「まさか果音、知らないの?
まったくピンとこなくて、ぽかんとしてしまう。
「最近人気急上昇中のイケメンアイドルユニットだよ」
「男の子のアイドルってあんまり興味なくて。レッグもたまたまおすすめ動画で出てきただけだし」
「だからって、フィリックくらい知っててよ〜」
莉子に呆れられてしまった。
だけど女の子のアイドルの方がかわいくて、髪形とか服装とか参考になるし。
「それにしても、今日のお弁当もおいしそうだね」
莉子がわたしのお弁当を見て言う。
「今朝は寝坊したから、晩ごはんの残りを詰めこんだだけだけどね」
「晩ごはんも果音が作ったんでしょ? エビチリ超おいしそー!」
「ママってヘアアレンジは得意だけど、料理は苦手だからね」
だからわたしは、小学生の頃から料理を担当してる。
料理は大得意♪ ハンバーグだってエビフライだってグラタンだって、たまにうちに晩ごはんを食べに来る莉子からも『おいしい』って大好評。お弁当もママの分まで毎日わたしが作ってるんだ。
「ん? 料理……あ! そうだ!」
「ん?」
「わたし、ショーンに差し入れ持って会いに行ってみる!」
「え!? そんなのあり!?」
莉子はびっくりしてる。
「会えるかどうかはわからないけど、パパの好きな食べ物のことはママからさんざん聞いてるもん。ショーンが喜ぶお弁当、作れると思うの」
ショーンがパパなら喜んでほしいし、ママのこと、思い出してほしい。
♪♪♪
莉子と話した翌日、金曜日の朝。
わたしは早速パパの分のお弁当を作った。
ママから聞いたパパの好きな食べ物……
卵焼きは甘いのが好きって言ってた。
それからハンバーグが好きで、チーズが乗ってるとニコニコするって。自分のパパながらかわいい♪
ポテトサラダはハムもキュウリも入れる。
それから、パパはニンジンが好きって言ってたけど……炒め物とかでもいいのかな?
料理が苦手なママが、一生懸命にパパの好物を作ってたところを想像する。
パパがいなくて大変なはずなのに、今までママがパパを悪く言ってるのは聞いたことがない。
絶対の絶対の絶対に! ママは今でもパパが好きだと思う。
だから……ショーンがもう一度ママと恋してくれないかな、って思っちゃうんだ。
「あれ? お弁当が三つ?」
起きてきたママの言葉にギクッとする。
「えーっと、今日は莉子の分まで頼まれてるの! おばちゃんが忙しいんだって」
「ふーん……そうなの」
パパに差し入れに行くことはママには絶対ナイショ。きっと反対されちゃうから。
「今日は放課後、友だちの家で遊んで来るからちょっと遅くなるかも」
「……了解。ほら、座って。髪結ってあげる」
ママにウソをついちゃったから、ちょっとだけ心臓がズキッて痛む。
だけどママ、わたしはママにもっと笑ってほしいの。大好きなパパにまた会えるように、わたしが頑張るから。
「莉子ちゃんの分までお弁当を作ってあげておりこうさんな果音だから、今日はトクベツかわいくしてあげるね」
ママはそう言って、おろした髪に編み込みで三つ編みを両サイドから二本作ってくれて、後ろの真ん中でリボンを結んでくれた。
「かわいい!」
鏡を見て、思わず叫んでしまった。ママは「ふふっ」と笑って、わたしを送り出してくれた。
放課後。
期末テストの最終日だったから少し早く学校が終わって、ドキドキしながら電車に乗る。
制服では目立ちすぎるから、駅で私服に着替えた。かわいい格好にしたかったけど、もしもショーンに会えた時にあまり目立ちすぎないほうがいいかもしれない……って思って、ショートパンツに半袖のパーカーにした。
電車で二駅、おしゃれなお店とか、お金持ちそうな大きなお家がたくさんある街にレッグの所属事務所がある。
グレーのビルに【ムジカエンターテイメント】と看板がかけられている。
ここだ。
心臓がさっきまでとはくらべ物にならないくらいドキドキしてる。
もちろん、今日ショーンに会えるかどころか、事務所にいるかどうかすらわからないけど、コンサートツアーは先週終わってるし、今日はホームページにイベントの予定も書いてなかったから、事務所にいてくれたらいいな。
5分後。
「帰りなさい」
事務所の入り口で、大きな身体の警備員さんがわたしを中に入れないようにガードする。
「君ねえ、ショーンさんはトップアイドルなんだ。君のようなファンが押しかけたって、簡単に会える人じゃないんだよ」
呆れたようにため息をつかれてしまう。
「で、でも! ショーンに差し入れが……」
そう言って、お弁当を入れた保冷のランチバッグを低めに掲げるようにしてみせたら、警備員さんは思いっきり眉を寄せて不快そうな顔をした。
「何が入っているかわからない食べ物なんて、渡せるわけがないだろう! 帰った帰った!」
追い払うみたいに、グイッと身体を押しのけられてしまった。
わたしは「ふぅ」ってため息をつく。
「簡単に会えないことくらいわかってたけど……」
……だけどあの警備員さん、ショーンが〝今日ここにはいない〟とは言わなかった。
「わたしの顔、ママに結構似てると思うんだよね」
ぽつりとつぶやく。
ショーンに会ったら、絶対すぐに気づいてくれるはず。
せっかくここまで来たんだもんあきらめたくない。
警備員さんは入り口に一人。
こんなこともあろうかと、実は変装用のキャップも持ってきてる。
ママが可愛くしてくれた髪がぐちゃぐちゃになっちゃうかもしれないのが心配だけど、仕方ない。
肩まである髪をキャップにギュッとしまいこむ。
そして、警備員さんの目を盗んでこっそりと裏口を探しに、建物の脇にある駐車場のほうから侵入する。駐車場の生垣をかき分けて建物の敷地内へ。
……もしも、ショーンに会えたらなんて言おう。
「はじめまして! あなたの娘です! ……ってちょっとあやしいかなぁ。でも顔はママに似てるから——」
なんて、ブツクサ考えてる時だった。
生垣のむこうから車のドアがスライドするような音が聞こえた直後、「「キャー!!!」」って、女の子たちの歓声のような声がきこえた。
「——おい
「うわ、やべ! おい
えーっと、裏口、裏口。
——ガサガサッ
「え!?」
生垣から、人影が飛び出してきた。それから——
「わ!」
勢いあまって、ドンッてぶつかられて地面にしりもちをつくみたいに倒れこむ。
「あっ!」
その拍子に、手に持っていたランチバッグが宙を舞う。
そしてそのまま……地面にドサッ。
「お弁当が……!」
「悪い!」
わたしにぶつかった、背の高いサラサラの黒髪の男の子が謝りながらランチバッグを拾い上げてくれた。
「ケガとかしてないか?」
起き上がらせようと、手を引いてくれる。
「おいタクト、まだ追っかけて来そう! 早く中に入った方がいい」
もう一人の、明るいふんわりした茶髪の男の子が生垣から駐車場の方をのぞいて言う。
「マジか。おい、ケガは? 大丈夫か?」
「え、えっと……」
突然のアクシデントに戸惑っていると、〝タクト〟と呼ばれた彼は少しイラだったような顔をした。
「なんだよ、はっきりしねーな。もういいや、お前も一緒に来い」
「えっ!?」
グイッと引っぱり起こされて、彼らはわたしを連れて強引に走り出した。
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