第18話 赤の他人

「でもそれだと、まだ足りないかなぁ? 最低基準クリアしただけじゃちょっと……」


 と言って色っぽい笑みを浮かべる加奈。


「前にも話したでしょ? 上野の屑妖の駆除と盗賊団『穴昆田』を倒してからじゃないとダメかなぁ?」

「ええ~?」


 難色を示す加奈と残念そうな康隆。

 すると、畳みかけるように康隆が言った。


「でもそれだけじゃないんだよ。その時に新しい妖怪が現れやがったのよ」

「ええ~? 本当に?」

「ああ」


 そう言って新しく現れた妖怪について説明する康隆。

 それを聞いて見る見るうちに目を輝かせる加奈。


「すごーい♪ 頑張ったんだねぇ!」

「加奈ちゃんの為にね!」


 そう言って力こぶを見せる康隆。

 一方……


びりりり!


「だから引っ張るのは止めろ!」

「「お前もう止めろよ!」」

「両方に言ってんだよ!」


 ついにフンドシも破られて真っ裸になってしまう男。

 それはともかくとして、加奈は色っぽい笑みを見せてしゃなりと康隆にしなだれかかる。


「そこまで頑張ってくれたんなら良いかな?」


 そう言って袖を引っ張ってお店へと入れようとする加奈。


(よっしゃああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!)


 心の中で快哉を叫ぶ康隆。


「でも大負けに負けてだからね! ちゃんと屑妖駆除と盗賊団『穴昆田』を倒さないと全部はやらないからね!」

「わかってるよ♪」


 ウキウキ顔の康隆だが、加奈が少しだけ訝し気な顔になる。


「あれ? 何だろ?」


 変な違和感に気づき、なにやらわちゃわちゃと始める。

 そして……


「何だろ? 糸が付いてるよ?」

「本当?」


 康隆の首に変な糸が付いていた。


「何だろこれ?」


 手繰ってくるくると巻き取っていくとすぐにぴんと張った。


「引っ張って取るか」


 そう言って引っ張り始める康隆だが……


すすす……


 引っ張るとだらりと緩み、更に引っ張るとピンと張る。

 

「ずいぶん長いな……何だろこれ?」


 そう言ってするすると引っ張っていくと……


「……………………(ニッコリ)」


 


「……………………なん……………………だと?」


 一気に顔が青くなる康隆!

 そして……


ぐわしぃっ!


 完全に凍り付く康隆の頭をがしぃっと掴む真尼。

 

「眼照亜……………………やれ」


ぶわぁぁぁん!


 きれいな美女の上半身をした巨大な蜘蛛の式神が現れて、康隆をぐるぐる巻きにしてしまう!


「あばばば……………………」

「たっちゃん? ちょっと婚約者としての自覚足りないんじゃないかな?」


 凄絶な怒りの笑みを浮かべ、康隆を睨み、続いて加奈の方をぎろりと睨む真尼。


「それで、あなたはどんな関係なのかしら?」

「まったくの赤の他人です」


 あっさりと他人の振りをし始める加奈。


「お客として勧誘しただけで何の関係もない男です」

「そ、そんな……………………」


 ばっさりと切られたことに絶望する康隆だが、そんな彼に真尼は静かに尋ねた。


「たっちゃん? じゃあ、どんな関係なのかしら? もしもたっちゃんと男女の関係になるのなら、泥棒猫を消し去らないと……「まったくの赤の他人です」……よろしい」


 真尼の言葉にあっさりと他人にしてしまう康隆。


「よっこらせっと……このゴキブリは重いのぅ……」


 そう言って一緒に来ていた月婆が康隆を担いだ。


「じゃあ、行きましょう」

「はい姫様……」

「ま、待って! この糸をほどいて! 誰か助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!」


 千住で康隆の悲しい声が木霊する。

 そのまま去って行った後姿を……加奈は見ていなかった。


「あら、ゆうさん! 久しぶり~♪ 今日は寄っていくんでしょ?」

「ええ~? どうしようかなぁ?」

「ゆうさんだったら安くしますから寄ってってよぉ~♪ あの芋侍みたいに高くしないからさぁ~♪」


 あっさりと康隆を芋侍扱いして次の客引きを始める加奈。


 まあ、こんなもんである。


 ちなみに……


「そこを引っ張るのは止めろぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 真っ裸の男は客引きにチ〇ポを引っ張られていた。

 その後、彼がどうなったのかは……誰も知らない……



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