第190話 リエル姉ちゃん救出作戦会議

 

 メイドギルドに案内されて、その施設の一室を借りることになった。


 さすがに昨日泊った貴族さんのお屋敷ほどの広さはない。でも、アンリはこれくらいが好き。それにベッドはお屋敷にあったものと変わらないくらいフカフカだし、すごく綺麗にしてある。これがメイドさんの手腕なのかも。


 それはそれとしてアンリ達はここで待機することになった。


 おじいちゃんはソドゴラ村にいるおかあさん達に連絡してくると言って部屋を出て行った。だから今、この部屋にはアンリとスザンナ姉ちゃんだけだ。


 フェル姉ちゃんはメノウ姉ちゃんに連れられてどこかへ行っちゃった。王宮って言ってたけど何のことだろう?


 ヴァイア姉ちゃん達はこの町にあるヴィロー商会の支店に行くって言ってた。リーンでもそうだったみたいだけど、メーデイアのヴィロー商会支店で野営用の道具や食材を貰ってくるみたい。


 このメーデイアから南に行くとそこはロモン領。


 道沿いに行くのは危険すぎるので、ディア姉ちゃんが知っているという遠回りのコースで聖都を目指すことになっている。つまり聖都へ着くまではずっと野宿だ。


 そのための準備をヴィロー商会が用意してくれた。ラスナおじさんとかローシャ姉ちゃんはやることが憎い。こういう方法でフェル姉ちゃんを助けるわけなんだ。適材適所ってやつなのかな。


 アンリの適材適所って何だろう? 今のところやる気だけしかない。あとはマスコット的な癒し……?


 やっぱりそれなりの戦力として認められたいな……ここで修行できるような場所ってないかな?


「スザンナ姉ちゃん、この辺りで修行出来そうなところってない?」


「修行できるかどうかは分からないけど、確かこの町には遺跡があるはずだよ。でも、本当に遺跡だけで魔物がいる訳じゃないみたいだけど」


「遺跡は遺跡でロマンを感じるけどそれじゃ意味がない。アンリは少しでも早く強くなりたいんだけどな」


「メイドさんに聞いてみたらどうかな? 修行できるような場所があるかもしれないよ?」


「スザンナ姉ちゃんの案を採用。聞いてみよう」


 部屋にあるベルを鳴らすと、すぐに部屋の扉をノックする音が聞こえた。明らかにタイミングがおかしいと思うんだけど気にしちゃいけない。


『アンリ様、なにか御用でしょうか?』


 この部屋にはおじいちゃんも泊っているって分かっているはずなのに、ベルを鳴らしたアンリへ直接声を掛けてきた。どういう仕組みなんだろう?


「入ってもらってもいい? 聞きたいことがあるんだけど」


 メイドさんが「では失礼します」と言って部屋の中に入って来た。動きに隙が無い。


「この辺りに修行できる場所ってあるかな? こう剣を振り回せるようなところなんだけど」


「地下に闘技場がございます。そこでなら剣を振り回しても問題ございません」


「……ここってメイドギルドだよね? ここの一階にある飲食店はなんとなくわかるけど、地下の闘技場っておかしいと思う。それともアンリに常識がないだけ?」


「我々メイドには常識なのですが……ここはメイドの育成機関でもあるのです。ならばそれ相応の施設も必要になりますから、どのメイドギルドにも闘技場はございますよ」


 メイドさんにも戦いが必要ってことかな? 確かにメノウ姉ちゃんは強かったけど。もしかしてソドゴラ村のメイドギルドも地下に闘技場を作ってる?


「うん、いろいろ受け入れた。アンリの常識を更新。ところで、そこはアンリ達も使っていいのかな?」


「はい、問題ございません。ただ、時間的に夜になると思います。今は若いメイド達が血を吐くような訓練をしている時間ですから」


 なんで血を吐くのかを聞いちゃいけない気がする。相当な訓練を積んでいるってことなのかな。


「えっと、今日の夜に借りるかもしれないからよろしくお願いします」


「はい、その時は誰でも構いませんので近くのメイドにお申し付けください。ちゃんと掃除もしておきますので」


「……うん、それじゃ聞きたいことはそれだけ。ありがとうございます」


「はい、では失礼します」


 メイドさんは部屋を出て行った。足音すら聞こえないってどういうことなのかな?


「スザンナ姉ちゃん、アンリも徐々にメイドさんの怖さが分かってきたかも」


「うん。冒険者ギルドのほうがぬるいような気がするよね。私は絶対にメイドさんに敵対しないって心に誓ったんだ」


 アンリもそうしよう。


 それじゃ闘技場が使えるまではここで待機かな。おじいちゃん、勉強しようとか言いださないといいんだけど。




 午後のお勉強は回避された。フェル姉ちゃんが皆を呼んだからだ。これからリエル姉ちゃんを助けだすための作戦会議をするみたい。これはちゃんと聞かないと。


 メイドギルドの会議室と言うところへ案内された。そこにはすでにフェル姉ちゃんがいて、大きな円卓の上座……になるのかな? 部屋の一番奥の椅子に座っていた。その近くには先にソドゴラ村を出ていた司祭様もいた。


 そしてその後ろにはメノウ姉ちゃんとメガネのメイドさんが立ってる。メガネのメイドさんはステアって名前って言ってた。ステア姉ちゃんだ。


 ただ、一人だけ知らないお姉ちゃんがいる。司祭様のお隣に座っているお姉ちゃん。誰だろう? あとで紹介してくれるのかな?


 そんなことを考えていたら、みんなが会議室に集まった。なぜかメイドさん達も部屋に入って来て壁際で等間隔に立っている。メイドさんもリエル姉ちゃんを助けるために手伝ってくれるからそれで一緒にいるのかな?


「皆、急に呼び出してすまないな。そろそろ本格的にリエルの救出作戦を考えたい。だが、その前に状況確認も必要だ。それぞれ報告をお願いする」


 フェル姉ちゃんがそう言った。残念だけどアンリは報告することがない。ここは聞きに徹しよう。


 まずはヴァイア姉ちゃんだ。


 ヴァイア姉ちゃん達は聞いていた通りヴィロー商会で色々な物を受け取ってきたみたい。ほとんどヤト姉ちゃんに渡したって言ってた。ヤト姉ちゃんは素で空間魔法が使えるから、亜空間に入っているってことかな。


 それと個人個人に携帯用の食料と水が入った魔道具を渡された。小さな袋型の魔道具だ。なんとアンリにも貰えた。亜空間のサイズは小さいみたいだけど、こういうのが欲しかったからすごくうれしい……これってリエル姉ちゃんを助けたら返すのかな? そこは交渉してみよう。


 さらにヴァイア姉ちゃんは全員で使えるという念話用魔道具もくれた。これは腕輪型の魔道具。アンリ用の小さい腕輪だ。これも後でもらえるように交渉しよう。でも、これって国宝級の魔道具じゃないかな? 念話妨害の無効化、それに盗聴やチャンネルの乗っ取りも防ぐって魔道具としてえらいことになってると思うんだけど。


 他にも機能もあるみたい。ヴァイア姉ちゃんが色々使い方をレクチャーしてくれている。正直、アンリには難しすぎてよく分かんない。


 ヴァイア姉ちゃんの話が終わったら、今度はディア姉ちゃんが報告を始めた。


 オリスア姉ちゃん達とメーデイアの町で女神教の人を叩きのめしたみたい。


 そしてその女神教の人に話を聞いてみると、聖都の破邪結界が強化されていることが分かった。なんでも、聖都で「こうしんのぎ」って言うのがあってその対応で強力な結界をはっているとか。


 ディア姉ちゃんの知識だと、聖都の結界は四つの施設で維持されているみたい。その施設を全部壊せば結界はなくなるみたいだけど、一つでも残っていると結界が維持されちゃう。しかもその施設の場所は分からないとか。


 色々と面倒なことになってるみたいだ。


 でも、そこはさすがのメイドさん。ステア姉ちゃんがメイドの力を使って必ず調べてみせると自信をもって宣言した。


 その後も色々とお話が続く。


 アンリには色々難しい内容だけど、フェル姉ちゃんは魔族が人族と敵対しないようにするにはどうすればいいか、というのを色々考えているみたいだ。


 オリン魔法国やルハラ帝国、それに懇意にしているギルドとから色々声明を出してもらって女神教を攻めるけど魔族は悪くないよって言ってもらうつもりだとか。でも、たとえ声明が出ても女神教を倒すときに思いっきり魔族の怖さを見せつけると友好的な関係になれないからその辺りを悩んでいるみたい。


 白熱した議論になってる。アンリはちょっとついていけないけど、ボスならこういうことも大事なのかな。少しでも勉強させてもらおう。


 なんとなくわかったのは、フェル姉ちゃんのユニークスキルは凶悪だから、ヴァイア姉ちゃんが絶対に使っちゃダメって言ってることかな。そもそもリエル姉ちゃんを巻き込む可能性もあるってことで使わないことになった。よく分からないけど、味方を巻き込んじゃうユニークスキルなんだ?


「フェル様、まだ時間が掛かりそうですので、先に夕食に致しませんか。高級食材はありませんが、腕によりをかけて作らせていただきますので」


 いつの間にかそんな時間だった。窓の外を見ると確かに夕焼け。そろそろ夕食の時間だ。アンリのお腹も暴れだしそう。


「そうだな。まだかかりそうだし、先に食事にするか」


「畏まりました。では、皆さん。メイドの腕前を見せる時ですよ。まずいというような感想が出た時には――分かっていますね?」


 ステア姉ちゃんがメイドさん達にそう言った。アンリは分かってないけど何だろう?


『みんな、絶対にまずいとか言うなよ。たぶん、食事を作ったメイドがギロチンされるから。余計な指摘もするな。うまいと言って食べてくれ』


 フェル姉ちゃんの声が頭に響いた。そしてみんなから了解の返事が頭の中に聞こえた。そっか、これが腕輪を使った念話の共有ってやつなんだ。アンリも了解って念話を送っておこう。

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