第48話 第四回魔物会議

 

 おじいちゃんに抱きかかえられて広場に出る。


 広場にはみんながいた。フェル姉ちゃんを筆頭に、スライムちゃん達や多くの魔物達。そして昨日壊れちゃった村の入口の所には大きな狼さんと多くの小さい狼達がいる。


 とくに争う感じじゃない。どちらかといえば穏やかな雰囲気。でも、狼さんは何しに来たんだろう?


 そもそも昨日襲撃してきたドッペルゲンガーがしれっとみんなのところにいる。それに初めて見る大きなダンゴムシも。誰だろう?


 ジョゼフィーヌちゃんと狼さんの会話が始まった。


 話を聞いてみると、狼さんはジョゼフィーヌちゃんにほかの四天王も倒して森を支配してほしかったみたい。でも、いま広場にいる魔物さんのなかに四天王がいて、すでにジョゼフィーヌちゃんが倒してたみたいだ。四天王……すごく素敵。誰のことなんだろう?


 それと、ジョゼフィーヌちゃんは狼さんに勝ったみたい。軍門に下るとか言ってる。なんでそんなことになったかは分からないけど、昨日の夜に戦ったのかな?


 でも、ジョゼフィーヌちゃんは断った。支配したりされたりするんじゃなくて、家族として一緒に生きようと言われたから、そういうことはしないみたい。


 そしてそれを言ったのはアンリ。おじいちゃんの言葉をそのままみんなに言っただけなんだけど、アンリの手柄になってる。もしかして横取りしちゃった?


 他にもアンリにカリスマがあるとか、ジョゼフィーヌちゃんの真の主がアンリだとかちょっと間違っている認識の話が続いたけど、誰も気にせずに話が進んでる。フェル姉ちゃんだけは色々ツッコミたい顔をしてたけど。


 そして狼さん達がこの村に住むことになった。みんなが拍手してる。もちろんアンリも。


「ええと、フェルさん、どうなったのでしょう?」


 でも、おじいちゃんは何を話しているのか分からなかったみたい。首を傾げちゃった。ここはアンリが教えてあげよう。


「おじいちゃん。狼たちはこの村に住むことになった。私達と同じ家族」


 そう言ったら、フェル姉ちゃんがびっくりしたみたい。アンリの成長に驚くといい。


「アンリ、魔物達の言葉が分かるのか?」


「多分、魔物言語スキルを覚えた。聞き取れる」


 そう言うと、フェル姉ちゃんは遠い目をした。そして魔物のみんなは喜んでくれている。うん、こういう機会はあまりないから、褒めたたえて。アンリは褒められると伸びる子。


 フェル姉ちゃんも褒めてくれるかと思ったら宿のほうへ行こうとしてた。でも、それをおじいちゃんが止める。


 こんなに多くの魔物を村に住まわせるのはむずかしいから、フェル姉ちゃんに何とかしてほしいみたい。


 そうだった。みんなの住居を何とかする予定だったのに、色々あって交渉が中断したままだった。最後に交渉したときはダンジョンを作っちゃダメってことになってる。


 仕方ない、ここは強行しちゃおう。大丈夫、いま、流れはアンリに来てる。みんなもいるし、許可はうやむやにしてダンジョンを作っちゃおう。


「フェル姉ちゃん。ダンジョンを作って」


「村長の許可は出たのか?」


「出なかった。でも大丈夫。作ってしまえばこっちのもの」


「せめて村長のいないところで言え」


 どこで言ってもいつかはバレちゃう。なら隠し事はせずに直球で言う。いま、広場にはみんながいる。おじいちゃんにとってここはアウェー。数の暴力という方法が使えるはず。何かを成し遂げるには綺麗ごとだけじゃダメ。


 そのおかげだったと思う。おじいちゃんがダンジョンを作る許可をくれた。広場が歓声に包まれる。


 フェル姉ちゃんの話だとダンジョンというのは大きい亜空間みたいなもので、地面を掘るようなものじゃないみたい。つまり畑に影響が出たり、ぼこっと沈んだりすることはないみたい。多分、それが決め手になった。


 でも、おじいちゃんは条件をだした。魔物のみんなも人族のルールに従うのが条件。いわゆる犯罪行為をしちゃダメってことだと思う。そんなのは条件に入んない。みんながそんなことをする訳ないのに。


 それにジョゼフィーヌちゃんが責任を持って守らせるって力強く言ってる。見た目はアンリと変わらないくらいなのに、ものすごく凛々しい。


 フェル姉ちゃんもジョゼフィーヌちゃんを信頼してるんだと思う。ダンジョンをどう作るかは任せるって言った。


 そして言った後にフェル姉ちゃんは森の妖精亭へ行こうとしている。


 これはいけない。フェル姉ちゃんにも意見を聞きたい。それに村に住む魔物さんが増えた。ここは自己紹介してもらわないと。


 おじいちゃんの抱っこから逃れるように飛び降りる。そして背中の魔剣七難八苦を掲げた。


「第四回魔物会議を始める」


 有無を言わさない開催宣言。みんないるんだから丁度いいはず。いつもは畑だけど今日はここ。みんなも拍手してくれた。


 それなのにフェル姉ちゃんはいまだに宿へ行こうとしている。もうちょっと空気を読んで欲しい。


 フェル姉ちゃんの右足に抱き着いた。これは人質。フェル姉ちゃんは魔族。折ることはできないけど、痛みは与えられる。このまま行こうとしたら、太ももの内側をつねる。あそこはどんなに鍛えても痛いはず。外道の所業だけど致し方なし。


「アンリ、私は食事がしたい。腹ペコだ」


「フェル姉ちゃんは、みんなの住むところと朝食、どっちが大事なの?」


「朝食だ」


「聞き方を間違えた。右足と朝食、どっちが大事?」


 朝食とか言ったら、アンリはフルパワーでつねる。


「右足だ。早く終わらせろよ?」


 良かった。交渉が決裂したらどうしようかと思った。やっぱりフェル姉ちゃんは分かってくれる。


 とりあえず、おじいちゃんとディア姉ちゃんは狼さんが大丈夫だということを村のみんなに伝えに行くみたい。あとヤト姉ちゃんはお仕事で森の妖精亭へ戻っていった。


 いまこの場にいるのは、アンリとフェル姉ちゃんと魔物のみんな。小さな狼さんが百匹くらいいるからちょっと広場が狭い。それに通行の邪魔になるからできるだけ早めに終わらそう。


「えっと、まずは自己紹介からして、その後にダンジョンのことを決めよう。それでいい?」


 みんなが頷いてくれた。


 最初は大きな狼さん。不敵そうな笑みをしている。


「なら、新参者の我から名乗るべきだな。我の名はナガル。人族からはカラミティウルフと言われている。森の四天王だったが、そこにいるスライムのジョゼフィーヌに負けて配下となった。とはいえ、負けっぱなしで済ませるつもりはないがな」


 なんとなくジョゼフィーヌちゃんを挑発しているような感じ。でも、負けっぱなしで終わるつもりがないというのは好感が持てる。アンリもいつかフェル姉ちゃんに勝って見せる。


 今度はアラクネ姉ちゃんが前に出た。


「次は私クモ。アラクネというクモ。進化してないので名前はないクモ。人族からはインフェルノスパイダーって言われているクモ。リーンでフェル様に助けられて従魔になっているクモ。好きなことは服作りクモ。必要なら私がみんなの服を作ってやるクモ。あと、怖いものはヴァイア様クモ……」


 アラクネ姉ちゃんはヴァイア姉ちゃんに爆発させられそうになってたからトラウマになっているのかも。ちょっと震えてる。そういえば、ヴァイア姉ちゃんはどうなったのかな? 森の妖精亭に運ばれていたからまだ寝てるのかな?


 次はのっぺらぼうのドッペルゲンガー。いつの間にかいるけど、ジョゼフィーヌちゃんが何もしないから安全なんだとは思う。


「次は私ですね。種族はドッペルゲンガーです。名前はペル。えっと、この村を襲いましたが、それはここにいるダンゴムシのせいです。私の意志ではないですよ」


「ちょ、なんで言うんですか! 言わなくてもいいじゃないですか!」


 ドッペルゲンガーが襲ったけど、それはダンゴムシのせい? どういうことなんだろう?


「そうそう、私以外のドッペルゲンガーも三十人ほどいます。この村に呼び寄せて一緒に住まわせてもらうつもりです。私が族長として率いていますので、ドッペルゲンガーに何かあるなら私に言ってください」


 ドッペルゲンガーはさらに増えるんだ。小さな狼さん達も増えたし、結構な数になってきた。


 今度は大きなダンゴムシがもぞもぞと前に出た。


「えっと、パラサイトピルバグという種族の魔物です。名前はライルですが、ダンゴムシでいいです。さっきペルが言った通り私がペルを操って村を襲いました。すみません、もうしませんから許してください。これからは心を入れ替えて畑仕事を頑張ります。ちなみに誰かを操るスキルはジョゼフィーヌさんに封印されましたから安心ですよ」


 ドッペルゲンガーに村を襲わせたのはこのダンゴムシだったみたい。でも、心を入れ替えるって言ってたしそれなら咎める必要はないかな。


 とりあえず、自己紹介は終わった。うん、色々な魔物さんが増えて嬉しい。楽しいことが起きそう。


 自己紹介が終わってから、ジョゼフィーヌちゃんが一度だけ頷いた。


「最初に言っておくが、この村で生きていくなら仕事をしてもらう。アラクネは裁縫、ライルは畑仕事だな。ナガルとペル達はどうする?」


「我は森のパトロールをしようかと考えている。この村に四天王が集まってしまったから村の周辺以外の均衡が崩れるだろう。下らん魔物達が暴れないように見張ってやる」


「私はちょっと考えさせてください。基本的に変身する以外はなにもできないので。思いつくところだと、木の実の採集とかですかね。リスや鳥にも変身できますから」


 ドッペルゲンガー、えっと、もう村に住むからペル兄ちゃんかな。仕事の話の後に、ペル兄ちゃんはフェル姉ちゃんと話を始めちゃった。


 何だろう? フェル姉ちゃんの記憶が本物かどうか聞いてるみたい。フェル姉ちゃんの姿になったときに見た記憶のことかな。ヤト姉ちゃんが魔王軍強襲部隊隊長って記憶を見てたみたいだし。どんな記憶のことなんだろう? ちょっと興味ある。


 そういえばフェル姉ちゃんは魔王なのかな。魔界で一番強いんだし。これも後で聞いてみよう。


「では次の議題に移ろう。ダンジョンについてだ。フェル様よりダンジョンをどう作るかは任された。なので意見を募りたい」


 フェル姉ちゃんのことは気になるけど、今はそんなことよりダンジョン。でも、どんなダンジョンを作れるのかな?

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