第40話 出来事がいっぱい

 

 アンリとおじいちゃんの攻防が続く。手ごわい。でも皆のためにも負けるわけにはいかない。畑にダンジョンを作って皆に快適に住んでもらうんだ。


 でも途中でお客さんが来た。前に見たことがある人。イケメン兵士さん。


「失礼します。村長様はいらっしゃいますか?」


「村長は私ですが――確か、リーンの兵士さんでしたかな? 夜盗を引き取りに来てくださったと思いましたが……」


「はい、ノストと申します。今、よろしいでしょうか、実は――」


 ちょっとだけおじいちゃんとは休戦。イケメン兵士、ノスト兄ちゃんの話を聞こう。


 お話を聞いてみると、オリン国の貴族でリーンの領主様がこの村へ遊びに来るみたい。事前に兵士さん達がこの村で待機するとか。


「……フェルさん絡み、ですかな?」


「ええ、そうですね。フェルさんがいらっしゃるからクロウ様もこちらへ来たいとおっしゃっていますので――あ、もちろん、この村をオリンに取り込もうというようなことはされません。それにクロウ様への歓待も不要です。村に負担をかけたらフェルさんにどんなことをされるか分かりませんからね」


 ノスト兄ちゃんは笑っているけど、おじいちゃんはちょっと困った感じの顔をしてる。


「クロウ様の話はよく耳にします。問題があるような貴族ではないと聞いておりますので、そういった心配はないのでしょうね……お話は分かりました。村へ滞在してください」


「ありがとうございます。では、さっそく森の妖精亭で宿泊手続きをしてきます。私を含めて四人おりますので、もし何かありましたら宿のほうまでご連絡ください」


 ノスト兄ちゃんはそう言って家を出て行った。ずっと村に住むわけじゃないんだろうけど、最近は村に魔物さんとか人が増えてうれしいな。


 でも、おじいちゃんはそこまで嬉しくないみたい。やれやれって感じでお茶を飲んだ。


「フェルさんが来てからというもの、色々あるね。もっと静かな村だったのだが、数週間で大きく変わってしまったよ。まあ、悪い方向ではないけどね……さて、アンリ、えっと、ダンジョンの話だったね?」


 試合再開。後半戦も頑張ろう。


「おじいちゃん、心配しなくてもいい。アンリはちゃんと最後までダンジョンの面倒を見る。毎日掃除したり、罠を仕掛けたりするから。あと、財宝も置いてダンジョンっぽくする。だから許可を頂戴」


「アンリ、ダンジョンはペットじゃないんだ。犬や猫を飼うわけじゃないんだからね? それにそんな理由で反対しているわけじゃないんだよ」


「ならどうして?」


 おじいちゃんがテーブルにあるお茶を少しだけ飲む。そして息を吐きだしてから口を開いた。


「畑にダンジョンなんか作ったら、作物が育たなくなるかもしれないだろう? それにこのあたりの土は柔らかい。畑にダンジョンなんか作ったら陥没してしまうよ」


「ならピーマンの畑だけに作るから。あそこなら陥没しても安心」


「それはアンリだけだろう? それにそんな場所に魔物達を住まわせたら危ないじゃないか」


 それはその通り。でも、フェル姉ちゃんならちゃんとしたダンジョンを作ってくれると思う。うん、先にこっちを言うべきだった。


「フェル姉ちゃんなら絶対に陥没しないダンジョンを作ってくれるから大丈夫」


 おじいちゃんが苦笑いしながらアンリの頭を撫でてくれた。


「アンリはフェルさんのことをずいぶんと信用しているんだね? さっきも言ってたけど、ダンジョンコア、という物を使ってダンジョンを作るんだって?」


「うん、アンリもどういうものなのかは知らないけど、それならダンジョンを作れるって言ってた。言ってたのはジョゼフィーヌちゃんだけど、フェル姉ちゃんも村長の許可が出たなら、って言ってたから、作れるのは間違いない」


「フェルさんが来たことで村に色々と恩恵はあるのだが、問題も多そうで困るね。まあ、村長である私を立ててくれているのはありがたいが……でもダメだよ。畑に建てた小屋を拡張する形で住んでもらいなさい。ロンに聞けば頑丈な家の作り方を教えてもらえるからね」


 いけない、話が終わっちゃう。ここは何とか食い下がらないと――あれ? なんだろう? 家の外が騒がしい感じ。


 おじいちゃんも気づいて窓から外を見てる。そしてすごく真面目な顔で振り返った。


「ウォルフ! 家を頼む! アーシャ! 桶に水を入れて持ってきてくれ!」


 いきなりおじいちゃんが大きな声でそんなことを言った。そして近くにあるタオルを持って外へ出て行っちゃった。どうしたんだろう?


 背伸びして窓から外を見る。


 村の広場でロミット兄ちゃんとオークさん達が怪我してる? 結構血だらけだ。


 あれ? 目の前が暗くなってみえなくなっちゃった。目を塞がれた?


「アンリには刺激が強いから見ないようにしなさい」


 おとうさんの声だ。多分、手で目をふさがれたと思う。アンリにはまだ早いってことなのかな。


「ちょっとだけ見ちゃったけど、ロミット兄ちゃんとオークさん達は大丈夫? すごく血が出てた感じだった」


「分からない。だが、あの血の量だと危ないかもしれないね……」


 バタバタと急いでいるような物音が聞こえた。おかあさんかな?


「それじゃ私も行ってくるわ。ここはよろしくね」


 やっぱりおかあさんの声だ。桶に水を入れて持っていくのかも。


 大丈夫かな、すごく心配。ロミット兄ちゃんは狩人さんだから、ワイルドボアに襲われちゃったのかも。でも、前に怪我していた時はあんなに酷くなかった気がする。ものすごく大きなワイルドボアに襲われたのかな?


 広場から驚いた感じの声が聞こえた。どうしたんだろう?


「おとうさん、何があったの?」


「はっきりとは見えないんだが、女神教のシスター、リエルさんが治癒魔法を使ったようだ。おそらくだけどそれに驚いたんだろう」


「ちゆ魔法ってなに?」


「怪我を治す魔法のことだよ。高度な術式が必要な上に、人体に詳しくないとかすり傷くらいしか治せないと言われているんだ。リエルさんは効果の高い治癒魔法を使えると聞いたことがあるから、それに驚いたんじゃないかな?」


 リエル姉ちゃんにはそんな特技があったんだ。アンリの中でリエル姉ちゃんの評価が上がった。


「それじゃ、ロミット兄ちゃん達は大丈夫?」


「おそらく大丈夫だろう……おかあさんが戻ってきたよ。うん、もう目を開けても大丈夫だね」


 おとうさんがアンリの目から手をどかしてくれた。その直後に扉が開いておかあさんが戻ってくる。


「おかあさん、ロミット兄ちゃん達は大丈夫だった?」


「ええ、もう大丈夫よ。結構血が流れたからだるそうにはしていたけど、リエルちゃんの治癒魔法で傷は完治したから。それにしてもリエルちゃんはすごいわね。さすがは聖女様ってところかしら」


「そんなにすごかったの?」


「そうね、全治一か月くらいの傷をあっという間に治してしまったわ。あんなことをできるのは女神教でも少ないでしょうね……もしかしたら、リエルちゃん以外には無理かも」


 そうなんだ。ちょっと想像できない。でもロミット兄ちゃんとオークさん達は無事でよかった。これで一安心。


 それにしても、リエル姉ちゃんは普段あんな感じだけどやるときはやる感じなんだ。ちょっと尊敬した。普段実力を隠す感じは格好いい。見習いたい。


 あれ? おじいちゃんが戻ってこない。どうしたんだろう?


「おじいちゃんは? まだ外で何かしているの?」


「そうね、アンリも気を付けて欲しいから説明してあげるわ」


 お母さんの話だと、ロミット兄ちゃんとオークさんは大きな狼に襲われたみたい。


 村まで逃げてきたけど、付けられた可能性もあるからこれから村で防衛をする準備を始めるとか。


「つまりアンリも防衛に参加するってこと?」


「全然違うわよ。今日はもう外に出ないでね。もう日も落ちてきたし危ないから」


 ロミット兄ちゃんやオークさん達をボコボコにするほど強い大きな狼。確かにアンリでは倒せないかも。つまりアンリは足手まとい。仕方ないから家にいよう。


 そう思っていたらおじいちゃんが帰ってきた。


「おじいちゃん、おかえりなさい。今日は村の防衛をするの? アンリは足手まといだけど、やれることがあったら言って。そうだ、おにぎりを作る? 城じゃないけど、籠城するなら食べ物は大事」


「いやいや、大丈夫だよ。実はフェルさん達が村の見回りをしてくれることになったからね。それにフェルさんが大狼のところへ直接戦いに行くそうだ」


「そうなんだ? それならもう問題ない感じ。村も安心」


「おじいちゃんもそう思うよ。こういう時のフェルさんはものすごく頼りになるね。とはいえ任せっきりは良くないから、おじいちゃんは外でフェルさんの帰りを待つよ。アーシャ、すまないが後で簡単な食べ物を広場に持ってきてくれ」


 おじいちゃんはそう言ってお父さんと外へ出た。広場でキャンプファイアーをやるんだと思う。そろそろ暗くなるし、明かりは大事。


「さあ、アンリはご飯を食べてから部屋に行きましょうね」


「アンリもフェル姉ちゃんが帰ってくるのを待つ。それがスジというもの」


「アンリはまだ子供だし、夜更かしは良くないわよ? それにおじいちゃんがフェルさんを待っているから大丈夫。アンリがお礼をするなら明日で大丈夫よ」


 そういうものかな? 確かに眠っちゃいそう。でも、最初から諦めるのは良くない。


「分かった。でも、ギリギリまで起きてる。もし眠っちゃったらベッドまでお願いします」


「仕方ないわね。なら、一緒にフェルさんを待ちましょうか。それじゃ、いつ寝ちゃってもいいように、ご飯を食べて、お風呂に入って、歯を磨いておきましょうね」


「うん。寝る準備は万端にしておく。それに今日から色々と考えなくちゃいけないから夜更かしは丁度いい」


 おかあさんは不思議そうな顔をして理由を聞いてきたけど、それは秘密。


 アンリの恰好いい武器を作ってもらうために色々考えなくちゃ。よーし、フェル姉ちゃんが帰ってくるまで頑張って考えるぞ。


 それにしても今日は村の出来事がいっぱい。全部フェル姉ちゃんが絡んでる気がするのは気のせいかな?

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