第39話 ロマン溢れる剣
ダンジョンを住処にする、そんなアンリの案に魔物の皆はものすごくやる気になってる。アンリもテンションが上がってきた。これはやらなくちゃ。
でも、ダンジョンってどう作るんだろう? 言い出したのはアンリだけど、実際にダンジョンを作る方法は知らない。穴を掘る感じなのかな?
ジョゼフィーヌちゃんのほうを見ると、視線が合って、力強く頷いてくれる。そして地面に文字を書いてくれた。
『ダンジョンコアがあれば簡単に作れます』
そして皆にも「スラスラ」って説明している。
ダンジョンを作るにはダンジョンコアが必要? そもそもダンジョンコアってなんだろう?
ジョゼフィーヌちゃんはなぜかフェル姉ちゃんのほうを見た。つられて皆もフェル姉ちゃんのほうを見る。
フェル姉ちゃんは溜息をついてから、ものすごく呆れた顔をした。
「村長に聞いてからだ。村長の許可が無ければ駄目だぞ」
すごい。フェル姉ちゃんはダンジョンコアという物を持っていて、ダンジョンが作れるんだ。これはすぐにおじいちゃんに許可を取らないと。
アンリが家に戻ろうとすると、皆もついて来てくれるみたい。うん、これなら大丈夫。アンリには心強い味方が付いてる。
「待て、全員で行こうとするんじゃない。それは脅しに近い行為だ」
ダメだった。皆でお願いしたほうが効果的なのに。
「アンリ、ここはボスとして村長と交渉してくれ」
そっか。フェル姉ちゃんはアンリに期待している。ならその期待に応えないと。
「任された。この魔剣を使う時が来た」
魔剣七難八苦を掲げる。要求を通すには、時に力も必要。おじいちゃんは強いけど、今のアンリなら負けない。使っちゃいけない必殺技だって使わざるを得ない。
「暴力に訴えるなよ? それは最後の手段だ」
これもダメだった。つまり交渉でダンジョンを作る許可を得ないと。ついさっき人質交渉は失敗しちゃったから別の手を考えないといけない。おじちゃんの大事にしている楽器を人質にとるしかないかな?
でも、人道的にそんなことはしたくない。ここはアンリの情熱に訴える。頑張ろう。
とりあえず、住居の件はアンリしだいということになった。議題も全部終わったから、第三回の魔物会議も終了。今日はお開きだ。
皆はそれぞれお仕事に戻るみたい。アンリはこれから家に帰ってすぐにおじいちゃんと交渉だ。ボスとしての仕事だから皆のためにも頑張らないと。
そんな決意をしていたら、フェル姉ちゃんがスライムちゃん達にお土産といって石鹸を渡していた。スライムちゃん達は石鹸をいきなり飲み込んだからちょっとびっくり。
その後にフェル姉ちゃんはグラヴェおじさんに近づいた。
「おう、なんじゃ? まだ、工房を建てておらんので加工は出来んぞ?」
「いや、お土産を持ってきた。ほら、アンリから渡すといい」
フェル姉ちゃんは何もない場所からお酒の「ドワーフ殺し」を取り出した。そうだった。鞘とか作ってもらうんだからお土産を渡さないと。
フェル姉ちゃんから「ドワーフ殺し」を受け取る。落とさないように両手で大事に抱えた。それをグラヴェおじさんへ渡す。
「私はアンリ。これは鍛冶をしてもらうための心付け。よろしくお願いします」
グラヴェおじさんは目を見開いて驚いてから、笑顔になった。そしてアンリの頭を乱暴に撫でる。三十点。でも、職人さんって感じのごつごつした手でアンリとしては評価の高い手。お父さんの手もこんな感じだから好き。
「おう、お嬢ちゃんからこんなものを貰えるとはな。ありがたく頂戴しよう。儂の名はグラヴェじゃ。こちらこそよろしく頼む。ところで嬢ちゃんの何を鍛冶するんじゃ?」
フェル・デレはフェル姉ちゃんの亜空間にある。それを出してもらったほうがいいのかな?
フェル姉ちゃんのほうを見ると、気づいてくれたみたい。剣を取り出してグラヴェおじさんに見せてくれた。
「この剣をアンリにあげたのだが、むき出しなので鞘がほしい。あと、アンリには大きすぎるので、丁度良いようにカスタマイズしてほしいのだが」
グラヴェおじさんは剣を受け取って、いろんな角度から剣を見た後、笑顔になった。
「ほう、ミスリルの剣か! だが、嬢ちゃんには早いんじゃないか? 危ないと思うがの?」
おじいちゃんと似たようなことを言ってる。でも、それはアンリを舐めすぎだと思う。
「大丈夫。ミスリルの剣はいざという時にしか抜かない。使用上の注意も守る」
「ふーむ、それなら、嬢ちゃん。儂に最初から作らせんか? この剣は良いものだが、いわゆる中古品じゃ。フェルからミスリルを受け取れることになっているから、嬢ちゃん専用に新品の武器を作ってやるぞ?」
多分、アンリは数秒間意識が飛んでいたと思う……その考えは無かった。
なんて魅力的な言葉。それはつまりアンリ専用。アンリ以外には誰にも扱えないアンリだけの剣という意味。
「専用……!」
「おうよ。嬢ちゃんの意見を取り入れた、嬢ちゃんだけの武器じゃ。その分、時間は掛かるがな。どうするかね?」
「アンリの意見を取り入れる? もしかして変形したりできる?」
「変形? そういうギミックを入れたいのか? 物によるがそういうのも可能じゃな。蛇腹剣のように剣が鞭のようになるものもあるし、元は一本なのに二本に分かれる剣とかもある。まあ、試行錯誤は必要じゃがな」
アンリはいま感動している。こう、時代がアンリに微笑んだ感じ。すべてがアンリのために存在しているといっても過言じゃない気がする。両手を空に伸ばして宣言しないと。
「アンリの時代が来た」
あ、でも、これはお土産。勝手に変にするのはフェル姉ちゃんが気を悪くするかも。その時はフェル姉ちゃんに武器のロマンを一日ずっと語って分かってもらおう。
「フェル姉ちゃん。せっかくお土産でくれたけど、ロマン溢れる剣を作って貰いたい。いい?」
フェル姉ちゃんはとくに気にしない感じで頷いてくれた。
「かまわん。どちらでも私は約束を果たしたことになるだろうからな。だったら、好きな物を作って貰え。自分専用の武器というロマンは私にも分かる。ただし、作って貰ったら大事にしろよ?」
やっぱりフェル姉ちゃんはわかってる。ロマンを語る必要はなかった。
「家宝にする。秘宝の永久欠番枠。殿堂入り」
秘宝の永久欠番枠、レジェンドオブレジェンズ。でも、これで十大秘宝になっちゃった。ちょっと多すぎるかも。あとで秘宝選定をしなくちゃ。十大秘宝はまだ大丈夫だけど、十一とかになると言いにくいから九大くらいまでに抑えたい。
そんなことを考えていたら、フェル姉ちゃんがグラヴェおじさんに色々頼んでた。アンリの剣以外にも色々作ってもらうみたいだ。早く工房ができないかな。でも、その前にアンリの剣もどういうのにするか考えないと。今日から夜更かしが続くかも。
フェル姉ちゃんはグラヴェおじさんとのお話が終わったみたい。
「リエル、アンリ、一通り案内が終わったんだが、二人はどうする?」
「俺はもういいぜ。村はほとんど回ったんだろ? 以前、フェルが言った通り、いい男がいなかったぜ……」
「今日の社会勉強は終わり。これから家に帰っておじいちゃんとダンジョン設置の交渉をする」
「じゃあ、一旦戻ろう。畑仕事の邪魔になるからな」
フェル姉ちゃん達と畑を後にする。
アンリの剣、フェル・デレのことばかり考えていちゃいけない。これからが大事。一世一代の戦いが待っている。
広場まで戻って来てから、アンリの家を見据える。負けられない戦いがそこにある。大丈夫、アンリのテンションは最高潮。アンリは時代に愛されたのを確認した。おじいちゃんにだって負けない。
「今日はとてもいい日だった。でも、これからが勝負。皆のためにも必ず勝って見せる」
「無理するなよ」
フェル姉ちゃんがアンリを心配してくれている。でも、それは無理。無理を通してでもダンジョンの許可を得る。
フェル姉ちゃん達と別れて家に向かった。
扉の前でちょっと深呼吸。そして勢いよく扉を開けた。
「おじいちゃんの孫は、悪魔に体を乗っ取られた。魂を開放してほしければ、畑にダンジョンを作る許可を出して」
「……アンリ、そこに座りなさい。まったく、またディア君に教わったのかい?」
ダメだった。でも、まだ時間はたくさんある。皆のためにもおじいちゃんに許可をもらおう。
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