第34話 聖女様
将来、遊んでばかりのディア姉ちゃんみたいになりたいって思ってたけど将来設計を変更しよう。
アンリはフェル姉ちゃんみたいになりたい。そしてフェル姉ちゃんを部下にして人界を征服する。どう考えても楽しい未来にしかならない。
でも、人界征服にはもっと部下が必要。フェル姉ちゃんだけでもやれそうだけど、もっと戦力を整えないと。
そこで気になる人がいる。
フェル姉ちゃんと一緒に来たシスターのお姉ちゃん。昨日、荷台で気絶してた人だと思う。
よく見ると、ものすごく綺麗。
修道服のヴェールで全部は見えないけど、綺麗な金色の髪が見える。長さは肩にかかるかそれ以上あるのかな? キラキラ輝いて素敵。鼻もちょっと高めで肌は色白。控えめに言っても美人。それに背が高くて恰好いい。
でも、ちょっと目つきが悪いかな? こう、獲物を狙う捕食者の目をしてる気がする。アンリとしてはいい感じだけど。
ここは挨拶をして部下になるように説得しよう。なんとなくこのお姉ちゃんは強そう。
「私はアンリ。お姉ちゃんは誰?」
「おう、俺はリエル。教会でシスターやってんだ。よろしくな!」
リエル姉ちゃんはそういってからアンリの頭を撫でた。
……二十点。頭を撫でているというよりも頭自体が横に動かされている感じ。もうちょっと精進してほしい。
「リエル姉ちゃん。アンリの部下にしてあげようか?」
まずは偵察気味に交渉。こっちからお願いするんじゃなくて、そっちからお願いするなら部下になってもいいよ、と判断の余地をあげる。
リエル姉ちゃんは首を傾げてからニヤリと笑った。あれは悪い笑みだと思う。
「格好いいお兄ちゃんとかいるか? 紹介してくれるなら部下になってもいいが?」
「お兄ちゃん?」
アンリにお兄ちゃんはいない。昔、おじいちゃん達に、お姉ちゃんかお兄ちゃんが欲しいと言ったら、無理って言われたことがある。それなら、妹や弟って言ったら微妙な顔をされて、それも難しいって言われた。あの頃はわからなかったけど、コウノトリに頼むのは難しいのかも。
「アンリは一人っ子のはずだ。兄弟を見たことはない。それに子供相手にそういうこと言うな。お前みたいになったらどうする」
「聖女になったら、家族に喜ばれるだろうが!」
「聖女の方じゃない。捕食者の方だ」
もしかしてリエル姉ちゃんは聖女様? おじいちゃんや司祭様からそんな話を聞いたことがある。女神教には聖女様という人がいて、なんかすごい人って聞いた。
アンリも聖女様になれるってことかな? でもフェル姉ちゃんの話だと捕食者になるってこと?
「アンリは一人っ子です。兄弟はおりませんぞ」
珍しい。おじいちゃんがちょっと慌ててる。なにかあったのかな?
「そりゃ残念。じゃあ、部下の件は無しだな。だが、友達ならなってやってもいいぜ?」
リエル姉ちゃんが友達。それは悪くない。これから時間をかけて徐々に部下にすればいい。いざとなったらコウノトリに恰好いいお兄ちゃんを頼む。
「分かった。リエル姉ちゃんは友達。困ったことがあったら、助けてあげる」
「じゃあ、女神教に寄付してくれないか。金が無くて困ってんだよ」
リエル姉ちゃんはちょっとダメな人なのかもしれない。
フェル姉ちゃんがものすごい溜息をついた。呆れているのが分かる。
「リエル、お前な、子供に寄付を頼むんじゃない」
「友達なら困ってる俺を助けるもんだろ? いつか返すぞ? 倍にして返してやってもいい」
確信した。リエル姉ちゃんはダメな人。もしかして聖女ってダメな人なのかな? 司祭様はすごく評価してた気がするけど。
フェル姉ちゃんはまた溜息をついて、リエル姉ちゃんの首の後ろ、修道服の襟部分をつかむと引っ張った。
「フェ、フェル! く、苦しいっつうの!」
「村長、アンリ、すまなかったな。コイツにはちゃんと言っておくから。それじゃ邪魔したな」
フェル姉ちゃんはリエル姉ちゃんを引っ張って外へ出ようとしている。ここはアンリもついていこう。
「おじいちゃん、アンリもフェル姉ちゃん達と一緒に出掛けてくる」
「それは構わないが……ああ、いや、フェルさん、アンリが一緒でも構いませんか?」
「村を色々まわるだけで、遊びに行くわけじゃないんだが……特に危なくはないから、ついてくるのは構わないぞ」
おじいちゃんとフェル姉ちゃんの許可が出た。今日は一日フェル姉ちゃんと一緒にいよう。
そうだ、お出かけするならちゃんと装備を整えないと。
「それじゃちょっと準備してくるから待ってて。もし置いていったら呪うと思う」
「怖いこと言うな。大丈夫、待ってるからゆっくり準備してこい」
「うん。それと一応言っておくけどリエル姉ちゃんが危なそう。首がしまってる」
アンリがそういうと、フェル姉ちゃんは襟から手を離した。そしたらリエル姉ちゃんがあおむけに倒れた。ちょっとヒューヒュー言ってる。
いけない。それどころじゃない。早く準備しよう。
アンリの部屋に戻って宝箱を開ける。
軍資金は今日稼いだ小銅貨三枚のみ。フェル姉ちゃんのお土産をドワーフさんに調整してもらうならお金は必要だと思う。もしかしたらフェル姉ちゃんが払ってくれるかもしれないけど、アンリも身銭を切らないと。
それとフェル姉ちゃんは村のどこへ行くのか分からないから、武器は必要。ここは魔剣七難八苦の出番。ベッドの下から取り出して、紐を結んで背負う。
……うん、これでいい。準備万端。
フェル姉ちゃんを待たせたらいけないから急いで戻ろう。
大部屋に戻ると、フェル姉ちゃん達がちゃんと待っていてくれた。
「準備は――なにしに行くつもりだ。まあ、いいけど、背中の武器を振り回すなよ?」
「うん、大丈夫。これを使うのはいざというときだけ」
「それが一番心配なんだが……まあいいだろ、よし行くか。それじゃ村長、ちょっとアンリと一緒に出掛けてくる」
「ええ、行ってらっしゃい。アンリ、フェルさんの邪魔をしたりしたらダメだよ?」
そんなことをする訳ないけど、とりあえず頷いておこうっと。
「うん、大丈夫。それじゃ行ってきます」
フェル姉ちゃん達と外へ出た。
今日は快晴。まだ朝だけど日差しが暖かい感じ。こういう日はいいことがあるって決まってる。すでにフェル姉ちゃんにはお土産を貰っているし、もっといいことがあるかもしれない。
「アンリ、リエルの言動は良くないから注意しろ」
「それは何かのボケなのか? それとも俺に喧嘩売ってんのか?」
そのことは完全に理解してる。部下にするにはもう少し様子を見たほうがいいかも。
「大丈夫。リエル姉ちゃんは駄目な大人。反面教師」
「それならいい。だが、ついてくるのは構わないが、遊ぶわけじゃないからつまらんぞ?」
やれやれ、フェル姉ちゃんは自分を分かってない。フェル姉ちゃんは遊んでなくても面白いのをちゃんと理解したほうがいいと思う。
「問題ない。社会勉強」
フェル姉ちゃんは村を色々回るって言ってた。すでにアンリはこの村のことを隅々まで知ってるけど、フェル姉ちゃんとならもっと面白いなにかを発見できるかも。そのチャンスを逃すアンリじゃない。
フェル姉ちゃんは一度だけ頷いてから、リエル姉ちゃんのほうへ視線を移した。
なぜかリエル姉ちゃんが四つん這いになってる。どうしたんだろう?
「冒険者ギルドに行くぞ。リエル、広場で四つん這いになるな。邪魔だ」
そう言ってもリエル姉ちゃんは立ち上がらなかったので、フェル姉ちゃんはまた襟を持ってずるずると引きずり始めた。あれは苦しそう。アンリならおんぶにしてもらうほうがいいかも。
最初は冒険者ギルドへ行くみたい。何をしに行くのかな? 楽しみ。
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