1-5.気恥ずかしいのも幸せの一部
今回、王妃様はお城に残ったらしい。というのも、ご令嬢達のデビュタントを手伝うとか。きっと華やかなのだろうと頬を緩める。
私は王族なので、デビュタントの前に公務で夜会に参加していた。だから緊張する初めての公務は覚えていない。よちよち歩いて愛想を振りまいたと教えてもらったが、その表現だと今のミレイユより幼かったはず。
雑談を交えながら、義兄に当たる陛下とお茶を楽しむ。エル様は始終笑顔で、膝に乗せたミレイユもご機嫌だった。マリユスは私の膝ではなく、陛下に抱っこされている。少しでも姉の近くにいたいんですって。
いつもならマリユスを優先するエル様も、今日はミレイユ中心だ。本人は忘れているけれど、マリユスが生まれるまでのあなたは、私もエル様も独り占めだったのよ。笑いながら伝え、籠に入れなかった焼き菓子を味わった。
割れた焼き菓子は、クロエとセリアがリメイクしてくれる予定だ。事前に頼んでおいて正解だったわ。料理長が用意したのは、たっぷりのクリームが塗られたシフォンケーキだった。空気を入れてふんわりと仕上がったスポンジに、甘酸っぱいクリームを塗る。
レアチーズのような味のクリームに覆われたケーキは、上に飾り付けがされていなかった。シンプルなケーキが中央に置かれ、クロエとセリアが別の皿を差し出す。茶色い粉状の皿に、ミレイユはピンときたみたい。
「これ、上にかけるの?」
「ええ、お願いしますね」
クロエに促され、エル様に背を押されて、ミレイユは目を輝かせた。手をよく拭いて、粉をスプーンで掬う。ぱらぱらと掛けるも、量が多かった。割れたクッキーを全部砕いたのね。最後はクリームへ混ぜるように、大量の粉を被せた。
待っていた料理長が、お上手ですと褒めながらレモンを飾る。蜂蜜に漬けたレモンを並べて完成のようで、彼は用意した包丁で綺麗に切り分けた。
取り分けられたケーキを味わい、笑い合って割れた話を終わらせる。あとで料理長によくお礼を言わなくては、ね。
子供達の勉強は休みにしたけれど、お昼寝があるので部屋に戻す。国王陛下も休むと言い残し、護衛と屋敷の中へ。お義兄様、気が利いてるわ。
「エル様、きゃっ」
呼びかけた途端に抱っこされて、不安定な体勢に驚いて声が出る。侍女達は見ないフリで、さっさと片付け始めた。
「時間をもらえるかな? 可愛い奥様」
「よろしくてよ、旦那様」
ちょっと気取った口調で笑い合い、首を傾けて身を預ける。二人で仲良く部屋に消える姿を、使用人が微笑ましげに見送った。
乱れた髪を整え、着替えて寝室から出たら、ミレイユが走ってきた。飛びつく彼女を受け止め、どうしたのと尋ねる。
「さっき、お父様とお母様は抱っこだったでしょう? 私もして欲しいわ」
「……そう、お父様に頼んでみましょうね」
なんとか叫ぶのは我慢する。寝室へ籠った両親の行いは理解できない年齢だけど、気恥ずかしいわ。あたふたと髪に乱れがないか確かめ、微笑んでエル様に丸投げすることにした。堂々と説明できないわ。
後ろから出てきたエル様は、そっと扉を閉める。気づいていますよ、そう知らせるためにノックした。諦めた彼が顔を見せるのは、もう少し先ね。
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明日は、国王陛下の目線で一つ_( _*´ ꒳ `*)_
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