70.殿方を落とす相談

 私がエル様の婚約者になって、五年。ずっと一緒に暮らしているが、頬のキスから進展がない。物足りないと思ってしまうのは、贅沢なのかな。


 午後のお茶をしながら呟くと、クロエもセリアも首を横に振った。見つめる先は、訓練中の騎士がいる。一緒に汗を流すエル様は魅力的だった。私より十五歳も年上なのに、老けている感じはない。出会った頃と同じ、やや渋みを増したくらい?


 男盛りって、今のエル様を言うのかしら。うっとりと見惚れながら溜め息を吐いた。年に二度ほど実家に顔を見せに帰るのだが、お母様に「そろそろよね」と強請られてしまった。


 何をって? 可愛い赤ちゃんよ。ヘンネフェルト王国へ嫁いだカトリーヌお姉様は二人目を産んだ。両方とも男の子で、次は女の子も欲しいと笑っていたわ。一人目の時も、二人目の時も、私は抱かせてもらった。軽くて、お人形みたいだったわ。


 ディオンお兄様も、婚約者と結婚して三年になる。昨年女の子が生まれ、今も身籠っているとか。次はアンジェルの番ね、とお母様は笑うけれど、まだ早いわ。だって、結婚式も挙げていないのよ。


 婚約者であって、妻ではないのに。もし未婚で身籠ったら大事件じゃないの。そう反論して帰ってきたけれど、実際のところ……悩んでいた。私は十七歳になって、もうすぐ十八歳の誕生日が来る。


 もう大人だわ。体もきちんと成長して、お胸もそれなりに育った。お姉様より小さいけれど、赤ちゃんが出来れば大きくなるらしい。できたら、今すぐ大きくなりたいわ。城に野菜を下ろす女将さんの話では、男性は大きなお胸が好きだとか。


「姫様は耳年増ですね。そんなことはありませんよ。ぺったんこが好きな人もいます」


 コレットはそう言って、私よりぺたんこな胸を自慢する。実際、騎士と結婚した彼女は二人目を妊娠していた。つまり、5年経っても愛されているのよ。羨ましい。


「どうしたら女性として意識してもらえるのか、わからないの」


 いつも妹のように抱き締めて髪にキスをくれる。そこに照れた様子はなくて、慣れた感じでさらりとこなされた。惚れた女性相手なら、男の人は興奮するって書いてあったわ。先日読んだ恋愛小説も参考に、そうぼやく。


「それでしたら、旦那様を籠絡なさっては?」


 デジレが思わぬ提案をした。毎年、王城で開かれる夜会を利用するのだ。華やかで大人っぽいドレスで、迫れば殿方は落ちる、と。妖艶に微笑み、胸をぐいと押し当てればイチコロらしい。イチコロって何かしらね。


 知らないと尋ねるのも子どもっぽい気がして、曖昧な笑みで頷いた。アルドワンの宮廷マナーでは、エスコートで腕を絡めるだけ。モンターニュは夫婦や婚約者が、ぎゅっと胸を押し当てるように腕を抱き込む。ぴたりとくっついて入場するのだ。


 胸元が開いたドレスを注文して、妖艶な仕草を覚えたら……私でも魅力的な女性になれるかも。期待が膨らみ、大急ぎで色々な手配を行う。まず、妖艶な仕草を教えてくれる女性を探さなくちゃね!

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