49.お土産は一人一つにした

 翌日はゆっくり過ごし、エル様は午前中だけ書類を処理した。代わりに午後は一緒に買い物へ出る。王都での買い物は、まず靴、それからドレスのお店だった。途中でお願いしてお菓子のお店も立ち寄る。屋敷で待っているコレットや他の侍女へのお土産よ。


 いろいろ目移りしたけれど、揺れに弱いお菓子は諦めた。後日、商人が別便でゆっくり運ぶ方法があるというので、そちらを利用するべきね。膝に抱えていくには量が多いんだもの。


 綺麗な瓶に入った飴や砂糖の干菓子も選ぶ。これなら割れたり崩れても食べられるし、瓶も使えるわ。一人一つあげられるでしょう? これって大事なことなの。あなた用のお土産よ、と言われたら誰でも嬉しい。そう話しながらエル様を待たせて選んだ。


 途中からエル様も参加して、思ったよりたくさん買ったわ。一般的に使用人への土産は纏めて一つなんですって。荷馬車を一台増やしてもらう算段を付けていたら、お店の人が複数のお店と合同で出店したいと言い出した。一つのお店で出店費用や運搬費をねん出するのは大変だけれど、複数の店の様々な商品を置く店を計画したようね。


 エル様が許可を出したので、近々王都のお店が私達の街に来る。侍女達も民も喜ぶわ。


 ひざ下まで編み上げるブーツと、歩けるのか心配になる踵の高い靴。それから可愛い普段用を買ってもらった。色もデザインもすべてエル様の選択なの。私はサイズを合わせただけで、ドレスも同じように決まった。必ず金の金具が使われている。


 エル様の瞳の色だわ。国王陛下への謁見が済んで、公式に婚約者になった。だから私に自分の色を贈ってくれるんだわ。嬉しいと頬を緩めて受け取った。


 お母様の教えでは、外で支払いの話をして殿方に恥をかかせるのは品がない行為。もし自分で支払いたければ、後から申し出るか、事前に預けておくのがマナーと聞いた。私の靴や服だから、後で申し出るのが正解ね。


 大通りで花も買っていただいた。でも花束は遠慮して、小さな鉢植えを選んだの。これなら明日からの移動に持っていけるわ。花束は持っていけないので、屋敷に残すことになる。もったいないし、何よりエル様に買ってもらった花なら手元で育てたいわ。


 小さな鉢は、はちみつの壺に似ていた。土がこぼれないよう、紙袋に入れてもらう。白い花はまるで袋のように下を向いて、すごく可愛かった。大切に抱えて、お屋敷に戻る。その間、私はエル様のお膝だった。


 部屋の入り口でようやく床を踏み締める。ずっと抱き上げての移動だけど、実は気になっていることがあった。


「あの……私、重くない、ですか?」


 うんと言われたら悲しい。否定されても疑っちゃいそうだけど。上目遣いに確認すると、エル様はすごく驚いた顔をしていた。目を丸くするって表現を聞いたことがあるけれど、本当に丸くなるのね。こぼれ落ちそうだった。


 万が一を心配して、エル様の顎の下に両手を差し出す。水を汲むときの形にしたら、落とさないで済むわ。

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