48.あの事件の主犯ですが
お風呂に入ってぐっすり眠り、健康に目覚める。ワンピースに着替えてから、エル様と庭の噴水近くにあるガゼボで過ごした。屋根はあるけれど壁がないガゼボは、大きな屋敷の庭でよく見かける。日陰が出来るから過ごしやすいのよね。
本当に仕事は持ってこなかったみたい。お昼寝をしたエル様に膝枕ができて、最高の時間だった。料理人が用意したバスケットには、搾った葡萄汁やパン、野菜とハムが入っている。ハムのソースも三種類あって、混ぜたり選んだりして塗った。
パンの上に野菜とハムを乗せ、押さえて食べるの。挟んだら野菜の汁やソースが溢れちゃうから。でも反対から垂れそうになったソースを手で掬って、落ちそうになったハムを左手で摘んで……お行儀は良くないわね。
とても楽しい時間だった。早く過ぎてしまって、勿体無いくらい。
翌日すぐ、また移動のための荷造りが始まった。といっても、私は準備に頷くだけ。一般的な貴族令嬢や夫人は、現場の監督係なのよ。当主になると全体の責任者って感じね。家計の取り仕切りも夫人の仕事だ。もちろん、私だってきちんと勉強している。
「移動は明後日のお昼に出発です」
「ええ、ずいぶんゆっくりの出発なのね」
「途中で一泊いたしますので」
なるほど。往路と同じように、のんびり進むらしい。私は馬車で遠距離の移動に慣れていないから、気を遣ってくれたのね。正直助かるわ。お尻が痛くなるし、体調次第だけど酔ったりするの。急ぎだと途中で休んでほしいなんて言えないから。
要件を伝えると、執事は一礼して退室しようとする。ちょうどいいので、侍女立ち会いの下で宝飾品の封印を手伝ってもらった。これはお母様に教わったのよ。家の財産を管理する家令か執事同席で、詰めた当事者も一緒に確認するべきと。
問題なしで封印の紙を貼り付ける。破れていたら開封した証拠だった。馬車の振動で破けたりしないのかしら。木箱にきちんと詰めたら、さほど揺れないのかも。いろいろ考えながら、私の荷造りは終わった。
滞在中と移動中に着用予定のワンピースは、すべてトランクに入れて持っていく。ここで、デジレが噂話を持ち帰った。この場合の「噂」は確証がない話じゃなくて、公式発表以外という意味なの。発表されなかった本当の話も、噂として耳に入る。
「砦で、姫様の服にイカ墨を掛けたあの侍女の話です。どうやら砦に来る前は、あの女の屋敷で下働きだったようですね」
あの侍女はわかるわ。イカ墨をかけたと前置きがあったし……後半のあの女は誰かしら。こてりと首を傾げた私に、セリアが説明を足してくれた。
「今回、処断されたマルノー元侯爵令嬢です」
ああ! エル様に懸想していた女性ね。納得して頷いた。どこから派遣されたのかと思ったけれど、元下働きだったの? よく侍女になれたわね。経歴を偽った書類でも提出しないと無理でしょう。
「偽造書類も発見されたので、余罪もありそうですね」
侍女の経歴を偽って、下働きを送り込んだ。これ自体が身分制度を軽視した結果で、すでに恩赦された子の分まで主犯が償うことになる。同情する気はないわ。私の家族の思い出を黒く塗り潰したんだもの!
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