30.謁見の準備は完璧です!
お城の手前で、馬車は左に曲がった。真っすぐにお城へ向かうと思ったけれど、考えてみたら普段着だったわ。到着したのは、立派なお屋敷の前。門が開いて馬車が吸い込まれる。玄関の屋根が張り出したアプローチで止まり、エル様が先に下りた。
手を差し出され、淑女みたいと頬を緩めた私はそのまま抱っこされる。うん、そうだよね。まだ幼い子扱いされているのは理解しているけど、一応未来の女主人なのに。使用人達は微笑ましいとばかり、一礼して笑顔で促す。こちらも子ども扱いのような気がした。
頬を膨らませたら、もっと子どもっぽい。迷って大人しく首に手を回した。なぜか侍女の一角から「きゃぁ、素敵」と声が上がる。きょとんとして首を伸ばして見つめた。エル様が素敵って意味かしら。領地の方にいらしたから、久しぶりなのかも。
私の婚約者なのよ、と嫉妬するより誇らしく思う。こんな素敵な人が旦那様になる。いまの私にとって最大の自慢だった。
「さて、お姫様は支度を整えておいで。準備して迎えに来よう」
「はい! エル様」
降ろされた部屋の中は、とても美しく整えられていた。オフホワイトの柔らかい壁の色、絨毯は柔らかなクリーム色で、壁紙やクッションに刺し色の紺が入る。金ではなく銀の艶消し細工が家具の角を飾り、すごく上品な印象を受けた。
ベッドはないので、客間なのかしら。公爵家の侍女であるセリアとデジレは入浴の準備を始めた。
「着替えだけじゃないの?」
「登城前ですので、埃を落として綺麗にいたしましょう」
なるほど。昨夜はアルノー侯爵邸に泊ったけれど、国王陛下に謁見するなら着替えが必要だわ。髪に香油を
白い浴槽でしっかり肌を温め、磨いてから香りを纏う。髪を丁寧に洗って乾かし、梳いてから結い上げた。ドレスは選ばず、用意されたものに袖を通す。濃紺のドレスに金の房飾りや刺繍が施され、大人っぽい感じだった。
シンプルな大粒の琥珀を首に纏う。金鎖で複雑に編んだ首飾りは、レース模様に似ていた。首を覆って後ろを留めると、肩や胸元へ鎖のレース模様が広がる。中央に大きな琥珀が光っていた。オレンジより黄色に近い琥珀は、気泡や木片が飲み込まれている。
胸元が広がったドレスで見える肌を隠す宝飾品は、髪飾りとセットだった。髪を結い上げたら、同じ金鎖に琥珀を乗せた網を被る感じになる。ところどころを真珠のピンで押さえたら完成だった。耳には飾りを付けない。
首をかしげると鎖が揺れて、でも落ちない。いつもより重い頭を真っすぐにしながら、立ち上がって踵の高い金色の靴を履いた。紺に刺繍が入って、金色に見えるのよ。くるりと回ってみたいけれど、転びそうで怖かった。
ノックの音がして、エル様が顔を見せる。
「準備は出来たかな? これは……これは、美しい姫君。お手をどうぞ」
先ほどまでと違い、私を抱き上げない。きちんと淑女扱いして手を差し伸べるエル様だけど、階段は危ないから抱き上げてもらった。裾の内側にレースが覗いて、靴先が見えないの。そのまま馬車まで運ばれてしまった。
「エル様、ありがとうございます。でも王城では自分で歩きますからね」
お返事がないですが、理解して頂けたのかしら。
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