26.素敵な客間で一人で眠る

 頂いた夕食は美味しく、奥様も楽しい人だった。エル様はご友人とお酒を飲むらしく、私はクロエと客間に引き上げる。ベッドは可愛いパッチワーク柄だった。


「このベッドカバーは、お屋敷の奥様のお手製と伺いました」


「そうなの? 凄いわ。尊敬しちゃう」


 大きなベッドカバーを縫って繋いでいく。労力と時間を考えたら、とんでもない代物だった。お針子として仕事をしている人でも、半年近くかかる作業じゃないかしら。


 アルドワン王国でも、工芸品を作る職人がいる。作業を見せてもらったことがあるけれど、細かくて大変そうだった。仕事に楽な作業は少ないと思うけれど、私はお針仕事が苦手なのよ。刺繍だったり縫い物だったり、上手に出来た試しがない。


 細かく縫われた目を指で辿って、頬を緩めた。こんな丁寧な作業を続けられる人だから、きっと素敵な奥様になれたのね。私も得意なら良かったけれど。


「明日はお茶のお誘いが来ております」


「ぜひ、ご一緒させていただきたいと返事をしてね」


 クロエは承知しましたと頭を下げて部屋を出る。代わりにセリアとデジレが着替えを手伝ってくれた。今日はこのまま休み、お昼過ぎに出掛けるみたい。予定を聞きながら首を傾げた。


「王宮に明日中に着けるのかしら」


「はい、アルノー領は王家直轄領を挟んで王都に繋がっておりますので」


 デジレが髪を梳かしながら答えた。王家直轄領を挟んで、王都。距離がよく分からないけれど、到着するなら問題ないのよね。お昼過ぎに出発のため、午前中にお茶会をしてお昼を兼ねた軽食が出る。ざっくりした予定に頷き、私は促されてベッドに横たわった。


「デジレは青い目で、セリアは緑なのね」


「はい。コレットは茶色ですよ」


 黒髪が多いモンターニュ国は、瞳の色がバラバラだ。その点、アルドワンは金髪や銀髪だけれど、瞳の色はほとんどが青だ。王家だけ赤紫が現れる。当然私は淡い金髪に赤紫の瞳だった。


「ねえ、赤紫の瞳はいるの?」


「ピンクは見たことがありますが、姫様のような色は知りません。紫水晶のようですわ」


 褒められて照れる。そうなのね、この国でも赤紫の瞳は珍しいみたい。古代ルドワイヤン帝国の血族に現れると言われているが、実際のところはよく分からなかった。目の色が特別なだけで、神話にある魔法が使えたりするわけじゃないし。役に立たないわね。


 欠伸を手で覆い、目を閉じた。セリアが灯りを消し、二人が一礼して退室する。すぐ隣の控室で休むと聞いた。きっと帰ってきたクロエも隣で休むのでしょう。隣の方が楽しそう……。


 ちょっと羨ましい。でもエル様と一緒に眠るわけにいかないし、彼女らに頼んでも「使用人だから」と断られる。寝返りを打って、お人形がないことに気づいた。荷物の中? まさか起きて探るわけにいかないし、侍女である彼女達を呼びつけてまで必要でもない。


 大丈夫、眠りづらいだけ。我慢出来るわ。代わりに上掛けを引き寄せて顔を埋めた。

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