23.意地悪侍女は命じられていた

 二日後のお茶の時間、エル様は話を切り出した。


「陛下が大騒ぎしているので、明日出発したいと思う」


「はい」


 注文した服はまだ半分ほどしか届いていないが、作った分から運ばれていた。そのため最低限の衣服は足りる。実家から送られた木箱は、二週間ほどかかるらしい。嫁入り道具の家具や侍女達の荷物も一緒だから、仕方ないわね。


 国王陛下にしたら、今回の騒動がなければ私の顔を見ていたはず。だから苛々しているのかも。弟の妻になる女が、いつまでも顔を出さず渋っていると思われたら嫌だ。歓迎されるうちにお伺いしよう。


「ドレスは王都で買おう」


「あ、いいえ。その心配ではありません」


 お茶菓子に伸ばした手が止まったので、不安がっていると思われたみたい。正直にすべて説明し、ついでに私を睨んだ侍女のことを尋ねた。


 思い出の服が着られなくなったのは悲しいけれど、まさか極刑だったりしないわよね? そんなの、ずっと気になって辛い。結局、自分のことしか考えてないのだけれど。


「ああ、彼女なら命じた者をあっさり白状してくれたので、恩赦を与えた」


「おんしゃ……」


 私の知る恩赦は、国をあげてのお祝いなどで罪人の刑期を短くする行為よ。終身刑の場合は、待遇が改善されるの。


「私の知っている恩赦と少し違う気がします」


「ああ、我が国は罪人が素直に罪を認めた場合や、主犯の存在を知らせたり、次の犯罪を防ぐ情報提供をしたら、罪を軽くする制度がある」


 まとめて恩赦と呼ぶみたい。なるほどと頷いた。というか、今回の場合、私への嫌がらせを命じた人がいたって意味? 自分でやらないで、侍女にやらせるなんて最低だわ。


「命じられた侍女は上位者に逆らえない。となれば、主犯の方が罪は重い」


 エル様の説明に大きく頷いた。私を睨んでいたのも、命じた人が私を悪く言ったせいだ。そう付け加えられ、納得した。


 ほぼ初対面なのに、どうしてあんなに睨まれたのか。疑問だったのよ。


「姫様、こちらを」


 お身体が冷えます、とクロエがショールを差し出した。今日はエル様と向かい合っているので、背中が少し寒いかも。お礼を言って受け取り、くるりと巻いた。


「クロエだったか、明日の出発で準備は間に合うか?」


「はい」


 エル様がつけてくれた専属侍女の三人は、気が利いて働き者らしい。クロエが褒めていたもの。今は三交代で私のドレスの監視をしているから、あまり顔を合わせないけれど。今回の騒動が落ち着いたら、一緒にいる時間が増えそう。


 クロエみたいに仲良くしてくれたら嬉しい。エル様のお勧めクッキーを頬張りながら、私は楽しいお茶の時間を過ごした。

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