第5話

「今更だけど、天文部なのにバーベキューなんですか?天体観測じゃなくて。」


 いまさらながらに隣にいる先輩に聞いてみた。


「それはこの部の伝統みたいなものね。部の決まりというわけではないけど、何代か前から夏休みに集まってバーベキューやっているのよ。」

「そうなんですね。星は見ないんですか?」

「見ないわけじゃないけど、回数は多くないかしら。実際にやるとなると活動時間が夜になるしそうすると保護者だったりが必要になるからまりやらなくなってしまったのよ。昔はたくさんやってたみたいだけど今のご時世だとね。」

「世知辛いですね。」

「ふふっ。そうね。」


 それから先輩は少し話をしてみんなの輪に戻っていった。私は木陰に座り込み空いた皿をわきに置いて川を眺めていた。新しくお肉をもらいに行くかとも考えたが気が向かず、ただ時間が流れるのを待った。


「空ちゃん、もうおなか一杯?」


 気が付いたら小鳥ちゃんが近くに来て座っていた。


「ううん、まだ食べれるよ。」

「よかった。追加で持ってきたから一緒に食べよ。」


 小鳥ちゃんが食べ物を持ってきてくれたから、それを一緒に食べる。


「空ちゃん、楽しい?」

「別に。」

「ふふっ、そっか。」


 小鳥ちゃんが笑う。


「知らない人ばかりのバーベキューだもんね。」

「本当だよ。お兄ちゃんも余計なことしてくれるよ。留守番くらい1人でできるのに。」

「そうだね。1人で留守番させるのが心配だったら私が一緒にするのに、どうせ今日予定を入れてなかったからね。」

「確かに小鳥ちゃんと留守番すればよかった。」


 言われて気づいた、小鳥ちゃんの予定が空いていたならこのバーベキューに参加せず小鳥ちゃんと留守番すればよかったのでは。小鳥ちゃんと一緒ならば両親も文句は言わないだろうし。もっと早くに気づくべきだった。


「でもいいこともあったんじゃない、空ちゃん?美味しいお肉が食べれたし、落合さんとも喋ってたし。」

「落合さん?」


 小鳥ちゃんの口から聞き慣れない名前が出て、首を傾げる。


「さっきまで喋ってたでしょ、陸くんを天文部に勧誘した人だよ。」

「あぁ、先輩のことか。」


 あの人落合という名前だったのか、そういえばそんな感じのことを言っていたような気がしてきた。


「相変わらずだね。」


 小鳥ちゃんが困ったような、呆れたような声で言う。やっぱり人の名前と顔を覚えるのが苦手だ。いまだにクラスメイトや担任を覚えられないし。ドラマや映画を見ていても途中で誰が誰かわからなくなる。


「流石にあれだけ喋ってたら覚えているかと思ったけど…、そんなこと無かったか。」

「そうだね。」

「流石にちょっと心配になっちゃうな。」

「そう言われてもね。」


 適当に相槌を打っていると、小鳥ちゃんが私をじっと見つめてきバツが悪くなる。何か別の話題に変えて誤魔化そうとする。


「そういえばお兄ちゃんは放っておいて良いの?好感度上げるチャンスだと思うけど。」

「…はぁ。今日は天文部が親睦を深めるためのイベントだし、私は空ちゃんの相手ってことで参加してるから良いの。」

「それもそっか。」


 小鳥ちゃんが仕方ないなぁとでも言うように、ため息と共に私を問い詰めるように見つめるのをやめる。ふぅ、良かった。


「空ちゃんとこのまま川を眺めて喋ってるのも良いけど、せっかく川に来たんだし何か遊ぼっか?」

「何して?」


 何か遊べる道具なんてあったかな。というか川で遊ぶって何するんだろう、釣りぐらいしか思いつかない。


「ええと…。水切り?」


 そのあとはひたすら石を投げてバーベキューが終わった。最高記録は5回だった。




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私(空):

 人の名前と顔を覚えるのが苦手、というか覚えてない人は大体空が興味を持っていない人たちである。落合のことも自己紹介で名前を聞いていたが忘れた。

 最後は小鳥とひたすら水切りをして翌日筋肉痛になったとか。


陸:

 バーベキュー中何度か小鳥に話しかけるが無視されている。そのことを部員にいじられていた。


天宮小鳥:

 あまり人に興味を持たない空が心配になっている。今日あった天文部の人たちの名前と顔を忘れるんだろうなと思っている。

 最後は空とひたすら水切りをしていた。翌日筋肉痛になった空の見舞いに言った。本人は元気だった。最高記録は18回。


落合先輩:

 自己紹介したが空に名前を忘れられていた。

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