第43話 決闘裁判!
『決闘裁判』の当日。イリスの屋敷は朝から騒がしかった。
「イリス様、『お食事』はお済みになりましたね?」
「うん。大丈夫!」
「ホントにヤバくなったら、降参しても良いんだからな?」
「不吉なことを言うな。タイキ。イリスが負けるわけが無い」
セコンドに回るシーモス、
「裁判の会場は、魔の王様のお城の中庭。さあ、参りましょう。『
「レオノくんにもね!」
今日、『決闘裁判』に決闘者として参加するのは、シーモスの思惑通り『暴食公』レオノに決まった。今頃はあちらも大慌てで、支度をしていることだろう。
「イリス様、魔獣車の支度が調いました。いつでも出発できます!」
シャルが玄関から居間にかけてきて、一同を見回す。その顔にも緊張の色が見て取れる。
イリスは立ち上がる。今日はいつもよりゆったりと動きやすい服を着て、マントまで
前髪が邪魔にならないように、ハチマキのような布で押さえ、靴もしっかりとしたブーツを
「うん。知らせてくれてありがとう、シャル。それじゃあ、行こう。みんな!」
イリスの魔獣車が、魔の王の城に横付けされた。
城の周りには、すでに多くの魔獣車が止められていた。見物人の多さは、この『決闘裁判』に寄せられる関心の高さと同じ。今日は全ての幻魔議員の他に、魔人たちと人間の権力者が会場にやって来る予定だ。
魔獣車から紫色のマントを翻して、イリスは城の前に立った。その顔は、珍しくきりりとして見える。
泰樹はその横顔を、案じ顔で見つめる。彼はイリスが本気で戦ったところを、見たことが無い。ドラゴンになれることはもちろん知ってはいるが、だからといってそれだけであの『暴食公』を圧倒できるとは思えないのだ。
「……うん?」
そんな泰樹の表情に気付いて、イリスは振り返る。
「タイキ、大丈夫だよ。心配しないで?」
イリスは笑って、いつもとは逆に泰樹の頭をくしゃりとなでた。
「イリス……」
「よく見ててね、タイキ。僕は強いんだよ?」
力こぶを作ってみせるイリスは、相変わらず優しくて。泰樹は思わず、イリスを抱きしめた。
「……負けんなよ!」
「うん!」
人間である泰樹は、控え室に入れない。イリスとシーモスは二人で控え室に向かった。泰樹はアルダー、シャルと共に、大人しく関係者の席で『決闘裁判』の開始を待つ。
魔の王の城の中庭、庭園の中に特設の『決闘』会場が設えられている。決闘者が戦う盤面には、わざわざ土が敷き詰められていた。その周りには、階段状の観客席。もっと規模が大きければ、球場や競技場のような形だ。
幻魔たちの席はボックス席になっていて、泰樹たちがいるのはひときわ大きな特等席の隣。特等席は、今は在位していない魔の王のためのモノらしく、そこには誰もいない。
『苛烈公』の席は、泰樹たちとは特等席をはさんで反対側。特等席があるので、『苛烈公』たちの姿は見えない。
そんな会場は、今や満員で。今か今かと、『決闘裁判』開始の時を待ちわびている。
「うぉーっ! マジで緊張してきたぜ……」
「お前が緊張してどうする。……もう『暴食公』は到着したのか?」
「そうみたいです。先ほど控え室に入ったらしいです」
泰樹たちがいる席には、シャルの他にも数人の使用人が詰めている。それでも余裕のある広さがある。泰樹は席から身を乗り出して、イリスの登場をまっていた。その隣の席でアルダーは腕組みをして、会場を見つめていた。
「……そう言えばさー。決闘で幻魔の『能力』使うのは有りなのか?」
「ああ。もちろん。問題は無い」
「じゃ、じゃあ、レオノのヤツが『
あの暗がりに放り込まれたら、イリスとてひとたまりも無いのでは?
「大丈夫だ。『夢幻収納』は『暴食公』より大きな物は放り込めない。そう言う縛りになっている、らしいからな」
「イリスはアイツより大きい、か?」
「……」
「……アルダーッ! そこで、黙るなよおー!!」
「……シーッ。ほら、イリスが出てきたぞ」
アルダーの言葉通りに、観客の前にイリスが姿を現した。イリスはゆっくりと会場の真ん中に進み、観客たちに手を振っている。観客席から、どよめきがあがった。
その歓声が鳴り止まぬうちに、反対の端からレオノが姿を現す。観客たちが雄叫びを上げる。レオノは相変わらず、デカい。威圧感がある。裸の上半身に短めのマントをはおって、その隙間から見える筋肉はムキムキだった。スゴいレスラーみてーだと、泰樹は息を飲んだ。獣人であるレオノは、全身が毛だらけだ。マントのすそから、ライオンっぽい尻尾ものぞいている。
イリスと比べると、横幅は完全にレオノが上だ。縦の方は角の分だけイリスが上か。
それでも体格差は明白で、ますますイリスが心配になる。
「……イリス様、大丈夫なのなかぁ……」
ぽつりとつぶやいたシャルに、泰樹は内心で同意した。
「お前たちは、イリスの本当の強さを知らない。……ほら、始まるぞ」
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