第29話 最近の日常

装備を新調して気持ちを新たにした俺達……。


「うりゃ!」

「ハアァッ!」


武器を新調した翌日、俺はセリカと木剣で撃ち合う形で模擬戦闘をしていた。

剣術の特訓は異世界でセリカと知り合い、一緒に住んだ辺りから行ってきたものの、今では大分付いてこれるようになった。

技量においてはセリカに及ばないものの、トレーニングを重ねてきたお陰で動きは様になってきたと見ている。


「「行きますよ!トーマさん!」」

「二人共、頼む!」


俺はセリカとミレイユから魔法攻撃の対処について教わる事になった。

魔法攻撃に関するスキルは【剣戟】を始めとする物理攻撃系のスキルと違い、離れたところから攻められる反面、射出されるまで短かれ長かれタイムラグがある事を聞かされ、その対処を身体で学ぶ事になった。


「魔法を撃つまでにタイムラグはあるけど、相手のポジションや動きを見て……」

「それならそこは補助アイテムで上手くカバーして……」


セリカとミレイユの模擬戦は接近戦がメインと中遠距離攻撃がメインの二人は攻撃や立ち回りにおいて気付いた事は余すところなく伝え合っている。


親友同士の二人であっても、冒険者として高め合うべきところは高め合えるように努力しており、そこは忖度なしでやっている。


俺も見物しながら、学べるところは全て吸収するつもりで見守っていた。


「トーマさんも料理お上手なんですね!」

「うまうま、美味しいです!」

「あはは、お肉を焼いただけだよ」


トレーニングの後には食事を取った。

今日は俺が料理担当であるが、ティリルで買っておいたお肉や野菜でシンプルな焼き肉やサラダを作った。

とは言っても、サイコロステーキみたいに食べやすいサイズにしておいた。

身体を動かした後なのもあってか、セリカとミレイユは美味しそうに食べてくれた。

現実の世界でも自炊はしてきたからね。


「おー、トーマ。今日はどこかにクエストへ行く感じかい?」

「はい、明日はモンスターの討伐とかに出向こうかと思ってまして……」

「セリカちゃん、装備替えた?よく似合うよ!」

「ありがとうございます!」

「ミレイユちゃん!あの件は大変だったろうけど、応援してるからね!」

「はい!頑張ります!」


ギルドに顔を出したら、俺達に応援や激励の言葉をかけてもらう機会も増えてきた。


基本的に冒険者ギルドは内部の縦や横の繋がりはもちろんだが、別の冒険者ギルドとの繋がりを持っている事もある。


他所との関わりを好まないギルドもあれば、俺達が所属している【アテナズスピリッツ】は他のギルドとも友好的な関係を持とうと努めている。


冒険者が伸び伸びと冒険できるように環境を整えていけるようにしたい思いを抱くカルヴァリオさんの理念で今のギルドが運営されている。


【アテナズスピリッツ】は国内の冒険者ギルドの中では比較的規模は大きいため、沢山の冒険者が在籍しており、駆け出し冒険者から一騎当千の猛者が揃った冒険者とそのパーティーまである。


冒険者のランクも一番下はFランクで最高はSランクであり、うちのギルドではC・Dランクの冒険者やパーティーが一番多く、A・Bランクはその半分もいっていないものの、紛れもない実力者揃いだ。


Cランク以上になれば、ビュレガンセ以外の国から受けたクエストにも参加できるようになる、つまり、世界中を冒険できるようになるって意味であり、多くの者は上のランクを目指している。


まずはCランクを目指しているDランク以下の冒険者やそのパーティーが大半だけどね。


「俺もセリカやミレイユと同じランクにいかなければだな」

「焦る事はないですよ」

「トーマさんだったらもしかすると、近い内になりますよ」


現時点において、パーティー内で自分だけがEランクのままである負い目はあるが、セリカとミレイユは優しく励ましてくれた。

こんなに暖かい言葉をかけてくれたからには奮起できる。


「今は張り出されているクエストは多くないかな?」

「Dランク向けのクエストになると少し絞られちゃいますね」

「これとかどうですかね……」


異世界に転生や転移されてみたいなと思った当初は不安に駆られたけど、セリカとの出会いをきっかけに変わっていった。


できるかどうかのクエストを吟味しながらクエストを受ける形で冒険に出て、そして依頼者のために頑張ってお金をもらって生活して、時に大変だけど、時に楽しく笑い合える日々が当たり前になった。


順風満帆とはいかないが、この日常が続けばいいなと細やかに願う俺だった。




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