第28話 新たな装い
俺はセリカとミレイユらと共にティリルで一番大きな武器屋である『ロマンガドーン』へと赴き、武器や装備品の新調に来ている。
合計で100万エドルほどだったが、ここ最近はDランクのクエストをいくつもこなしていたお陰で、思いのほかお金は貯まっていた。
店主さんの計らいでその場で着用させてもらえる事になり、早速着替えた。
「おーい、準備はできたか?」
「ハイ、バッチリです!」
「私もです。」
「まずはセリカから見せてもらおうか?」
「では、見せますねー」
俺達はギリギリまで見せないように、本来は雨具である黒い雨合羽で身を隠していた。
そしてセリカが隠していた衣装を披露する。
「「オオォーーーーー!」」
「これが私の新しい装備です!」
セリカは自分の装備を見せた。
上半身には左肩からへその上まで伸びた紺碧色に輝く胸当てと両腕には手首から肘辺りまで伸びた小手を身に付けており、その下には中指の付け根から上腕二頭筋まで伸びた黒いロンググローブをはめている。下半身には硬い革を表面にしなやかさを感じるスカートにこちらも同素材のブーツを着用し、下着として黒い二―ソックスも履いている。
全体的にフットワークの軽さが目立つような印象だ。
「可愛くて強そう~~!ですよね、トーマさん!!」
「え、あぁ、確かにな。良く似合うよ、セリカ!」
「ありがとうございます!」
余りに似合い過ぎて、余りに綺麗に見えるから見惚れてしまっていた。
グローブも二―ソックスも隠し切りそうで隠し切れていないくらいまでに肌を見せているから、更に俺の照れ隠しに拍車をかける。
「今回は剣の方も新調しました。」
「おー、新品の剣って感じがするなー!」
「凄そうー!」
セリカが新たに新調した剣も、以前よりも刃渡りが長くなっており、厚みも増したような片手剣だった。
少し振ってみたものの、丁度いい重さと感じ、今後攻撃力を上げていくには丁度いいと判断して選んだらしい。
セリカって心なしか、全体的に筋肉質なんだよなー。そしてスタイルもいい。
って何を考えているんだ俺はーーー!
「次は私の番よ!ご覧あれーー!」
「「オォォーーーーー!」」
そうこうしている内に、ミレイユもまた自分の装備を見せた。
魔術師らしく紺色の三角帽子に赤紫色のオフショルダーの法衣にフードが付いた薄紫のケープを身に纏っており、杖も彼女の腰辺りまで届きそうな長さでまん丸な魔石が添えられていた。
法衣の丈も膝くらいまであるが、ローブと同じ色のショートブーツを履いており、両腕には指先から二の腕までの長さのグローブもはめている。
魔術師ながら、動きやすさを考えた仕様になっており、本来活発な彼女のための作りになっているかもと見ている。
「可愛い魔術師みたいだねー!」
「初めて見た時よりも見違えるようだ!」
「えへへ、そうですか?」
店主から聞いたけど、セリカと違って鎧らしいものは装着していないが、着ている装備品には武器の生成によく使われる硬い鉱石の粉末を表面上に混ぜられており、余りに強い魔法じゃなければ自分の命を守れるほどの強度を持っているとの話だ。
店主さんがいつも作っているとの事だが、仕事ぶりや技量が凄いってまざまざと感じる。
「ではお待ちかねの~」
「トーマさんの~。」
「…?」
「「新調装備の公開でーーす!!」」
セリカとミレイユ、もうすっかりコンビにして親友だなと思いながら苦笑いを浮かべた。
そう言われて俺も披露する準備もできている。
「じゃあ、行くよ!!」
俺はバサッと雨合羽を脱ぎ捨てた。
「「オォォォーーー!」」
俺も新調した衣装を披露した。
黒いパーカーに焦げ茶色のカーゴパンツの上に、腰に厚めな茶色のベルトを巻いており、胸や両手両足は王国の騎士が鎧に使われるであろう素材の胸当てや手首から肘の付け根辺り及び足首から膝を覆っている甲冑を着用している。
セリカやミレイユに比べれば派手さこそないが、今の俺にはこれがしっくり来ていた。
胸当てや甲冑も、硬さはありつつもフィットしているのもあってか、重すぎる感覚は余りなく、革鎧以上の安心感も覚えつつあった。
「トーマさん、何か以前よりも逞しく強く見えます!」
「はい、ちょっと別人に見える気がします!」
「そうかな…?」
「「そうです!!」」
セリカもミレイユも俺の新調した装備品をこれでもかと誉めてくれた。
また、剣については鋼を中心に生成されたロングソードを購入した。
今まで使っていた短剣はサブウエポンと言う事で引き続き使用していく。
「にしても、俺からこうして見ると新たな門出って感じがするな!」
「そうですかね?」
「装備をこうして一新すると、気持ちも一新されたって感覚になりますね!」
「分かる、分かるわ!正に心機一転って感じだよね!」
こうしてそれぞれの新調した武器や装備品のちょっとした批評会は終わり、店を後にする事となった。
先日のミレイユの加入祝いで使った飲み代や今回の武具の新調で随分とお金は飛んだものの、これから受けていくDランククエストをしっかりこなせば回収できる事を計算してのアクションだから、高い店で飲み食いする贅沢をしなければ大きな問題はない。
むしろ、『ロマンガドーン』の店主の気前の良い計らいで少しだけ財布の余力ができたから、当面の生活そのものはまだまだ余力があるくらいだ。
もちろん、新品と言えども日々の手入れは怠らないようにして長く使う姿勢も忘れない。
「にしても、装備の新調って想像していた以上に気持ちが切り替わるって言うか、心が新鮮な思いになった気がするんだよなーって思う」
「そうですね、私も新しい装備や武器を手にした時も、大なり小なりそんな思いでしたよ!」
「それって……、分かるーーー!」
「やっぱり?新鮮で強くなりそうな武器や装備を身に付けたら心踊っちゃうようね!」
「うんうん!」
帰路に着いたものの、俺以上にセリカとミレイユは明らかに随分とテンションが高く、今の心境や今後の冒険者としての目標について語り合っていた。
新調したものの、見知っているけど新鮮な姿を感じた俺から見れば、気を新たにするには充分な様相であり、俺も同じ気持ちになった。
「まだ日も明るいって事はギルドの飲食スペースもまだ営業時間だからさ、帰る前に一杯引っ掛けるって思うんだよね。余り高い食事は奢れないけど……」
俺も凄く大きなと言わないが、大げさじゃない程度に宴席でパーッと数回ならばどうにかなるくらいの個人的な蓄えはある。
「それ……いいですね!全員揃って色々新調したから割り勘でいきましょうよ!!」
「でなきゃフェアじゃないですよね!賛成です!」
ノリか忖度かは知らないけど、俺達はギルド内の飲食スペースで飲み会を開いた。
これから先の生活や戦闘におけるフォーメーション、今日に至るまでで起きた世間話と酔いが回りつつも、様々な談議を交わしながら閉店時間まで飲み明かして帰った。
「どうします~?トーマさん、セリカ。飲み直す~?」
「ミレイユ、どう見ても飲み過ぎだ、帰って大人しく寝よ」
「それは本当に同感です。ミレイユ、ちゃんと寝よ。ほら、しっかり!」
(私も早く寝たいのよね~)
そうして俺達がセリカの家に着いた頃には、皆それぞれ軽くシャワーを浴びた後に眠って休息の準備をした後からすぐに寝床で眠りについた。
セリカとミレイユは一緒のベッドで眠った。
装備の新調と心機一転した気分を感じた今日の一日を思い返しながら、床に就く俺だった。
明日から楽しみだ……。
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