第4話 冒険者生活スタート‼
——————豊穣王国ビュレガンセ
王都ファランテスを中心に活気が絶えない街を複数持っており、辺境の街であるティリルには各地方から作物や資材、武器だけじゃなく時にはモンスターから出るアイテムも扱うお店も多く構えており、冒険者ギルド【アテナズスピリッツ】もある。
そしてこの異世界に召喚されたこの俺、トーマ・クサナギこと草薙斗真は職業『何でも屋』の冒険者としてスタートする事になった……。
いざダンジョン攻略!
……のはずだった。
今俺がやっているのは何と。
「おーい兄ちゃん、次はこの木箱も運んでくれー!」
「はい、ただいま!」
何と錬成素材の資材搬入と言う名の力仕事だ。
ギルド受付のナミネさんに早速依頼を受けたいと申し出たものの、渡されたのはFランク向けの依頼書だが、中身は力仕事や街の清掃、戦闘を殆ど伴わない簡単な薬草や資材やアイテムの採取や調達などの簡単な仕事ばかりだ。
ナミネさん曰く、未開の地の調査や街外れのエリアでモンスター狩りを受けられるのはEランク以上の冒険者しか原則受けられないとの事だ。
当然、保有しているランクより上の依頼を受ける事は不可能であり、これも冒険者の身の安全を第一に考えての規定である。
また、Fランク向けの依頼を一定こなす必要があり、仕事を達成するのはもちろんだが、設けられた期限より早く終わらせるもしくは内容以上の満足度を与える事ができれば比較的早くEランクに上がる事も確認済みだ。
裏を返せば、仕事のできが悪ければランクアップも遅いと言う訳だ。
当然だ、どんな雑用でも積極的に引き受け真面目にやってくれる人間を評価したくなるのは現実世界で相当経験したからな。
俺はこの世界に来た時から持っているスキル【腕力強化】を要所で3回使い、中々ガタイのいい強面な依頼者の下で仕事をこなしていき……
「終わりました、これで問題ないでしょうか?」
「おぉ、お疲れさん、しっかり仕事してくれた事はギルドにも報告するからな」
「あ、ありがとうございます!」
「兄ちゃん、まだFランク何だろ?これから頑張んな!」
「はい!」
依頼者は強面からは想像できないような気さくな笑顔を向けて感謝してくれた。
本当にスタートであるが、冒険者になって初めての任務達成だ。
仕事を終えて俺はギルドに向かった。
用事を済ませたいと言っていたセリカと合流するためであり、室内に入ると……
「あ、トーマさん、こっちです!」
「セリカ、待っていてくれたんだね」
「5分前に来たからそんなに待っていませんよ」
そこには大き目な革袋を片手に俺に向かって手を振ってくれるセリカがいた。
その様子だと済ませたい用事は済んでいるようだ。
「まずは初任務達成、おめでとうございます!」
「ありがとう!」
俺が仕事を終えた旨を伝えると、セリカは笑顔を見せてそれを称えてくれた。
すぐに受付のナミネさんに報告した。
「まずはFランクになって初の任務達成おめでとうございます」
「依頼者より完了報告を受けていますので、こちらが報酬の銀貨三十枚です」
「ありがとうございます!」
俺は差し出された小さな革袋を受け取って確認すると、確かに銀貨三十枚が入っていた。
異世界に来て初めての報酬に俺は嬉しさを噛み締めた。
思い出せば、現実世界で高校卒業後に初めて勤めた会社から給料を貰った時も、こんな気持ちだったな。
セリカに前もって聞いておいたが、この世界ではエドルが通貨単位であり、青銅貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨がある。青銅貨が1枚1エドル。十枚で銅貨の10エドル、銅貨が十枚で銀貨になって100エドル、銀貨百枚で金貨一枚になって1万エドル、そして金貨百枚で大金貨になって100万エドルといった具合に換算される。
街でも格安な宿が一泊二日で3000エドル、つまり単純計算で考えると青銅貨3000枚必要と言う訳であり、今回達成した依頼で一日宿泊できると言う計算だ。
因みに金貨の上には白銀弊もあるといい、それは大金貨100枚分との事。
1枚で1億エドルであり、王族や貴族が冒険者ギルドに依頼をする時には当たり前の報酬額で達成した際に払い出されるか、大商人が大口の取引を行うとき位しか、目にする機会は無い貨幣との事だ。
俺はセリカの手に持っている革袋を見た。
「セリカ、大き目な革袋を手に持っているけど、なんだい?」
「あぁ、これはですね……」
俺がそう質問するとギルド内の談話テーブルに移動して腰を掛け、セリカは袋を開けて何かを取り出す。
「昨日達成した依頼の報酬受け取りと魔石の換金をしてきたんですよ!」
「そして、冒険者としてスタートを切るトーマさん向けの武器と防具を買ってきました!」
「後、食材やポーションや生活用品……」
「ほ、本当に?」
セリカは俺が仕事に行っている間、昨日達成した討伐依頼の報告をした後に報酬を受け取ってすぐに、武器屋で冒険者になったばかりの俺に見繕った剣と革鎧を買ってきていた。
「でも、悪いよ……せっかくのお金を俺のために……」
「良いんです!私がやりたいと思ってやってるだけです!」
「それにあの時、トーマさんが助けてくれなかったら、無事に戻って来れた保証もありませんでした!」
「だからこれはトーマさんへのお礼と冒険者登録デビュー祝いです」
「どうか受け取って下さい!」
「セリカ……」
セリカも任務達成で得たお金を使って、もっといい武器を購入したりもできたはずなのに、俺のためにそこまでしてくれたのは、紛れもなく彼女からの思いの一つと悟った。
俺は一呼吸置いて……
「分かった、受け取るよ、俺のためにありがとう。」
「早速付けてみてもいいかな?」
「はい、どうぞ!付け方はですね……」
セリカの思いを汲んで、俺は受け取ることを決めて感謝の言葉を並べた。
お金を費やしてここまでしてくれたのに受け取らないのは却って失礼だから。
旅行に行った先でお土産を買ってきたのに受け取ってくれないなんて、本当にショックだから。
正直に言ってみると、武器や防具を身に付けるなんてゲームやアニメの世界だけと思っていたはずが目の前にそれがある。
好奇心でいっぱいの俺は付けてみる事にして、着用方法はセリカに手取り足取り教わる。
そして革鎧を付けて剣を握った。
俺はセリカさんがギルドのクエスト達成した報酬とモンスターの魔石を換金したお金で購入してくれた革鎧を身に付け短剣を握って立ち上がる。
「うん、思った通りです、よく似合いますよ!」
「本当?良かった」
俺が身に付けた革鎧は焦げ茶色をベースにしたカラーリングであり、両肩と上半身を覆い隠し、左胸の部分が厚めで丸みを帯びているデザインになっている。
剣は刃渡り70センチほどあり、片手で振るっても重さに振り回されないくらいだ。
何より、俺はRPGに出て来るような冒険者のような格好を今正にしているこの状況に感極まりそうになった。
「うお~本当にありがとう~セリカ――――!」
「そ、そんなに喜んでくれたのでしたら、私も嬉しいです」
興奮が収まった辺りでセリカは一つの話を切り出した。
「でしたら今度は、私とクエストに行きませんか?」
「え、一緒に?二人で?」
「さっきトーマさんを待っていた時にFランク向けのクエストで採取系の依頼を見つけたんですよ」
「せっかく装備も整えた事ですからこの機会に是非と思ったんです」
「なるほど」
セリカは俺と二人でクエストに行かないかと持ち掛けてくる様子に勢いを感じた。
確かに今のFランク向けクエストをこなす事が当面の俺の目標であり、こうしてセリカから装備品をもらったから、これもいい機会だと捉えている。
採取と言っても絶対に安全の保障はないからな。
「分かった、じゃあ行こう」
「よかった、ありがとうございます」
「依頼書によるとミハラ草原と言う場所に生えている『ヒールグラス』と言う回復効果のある薬草を40本採取するって内容で報酬も銀貨50枚出してくれるんですよ」
「それから採った本数が達成条件より多く取れば、いくらかボーナスも貰えるとの事で」
「なるほど」
依頼書を見れば規定本数以上を採れば、それに応じて報酬を増やす旨の文言が書かれているから、依頼者は『ヒールグラス』と言う薬草を随分欲しがっているのは察しが付いた。
セリカが手伝ってくれるのは心強いが…
「一緒にやるのはいいけどDランクのセリカから見ると割りに合わないんじゃないか?」
「大丈夫です、まだ手持ちのお金は持っていますし、蓄えは少なからずあるので」
「何よりトーマさんが冒険者としてクエストに慣れさせるのも目的の一つですから」
「そうか…」
セリカの意図や経済的な余力はまだ大丈夫である事を知って俺は納得した。
「でしたら、まずはアライアンス申請もして向かいましょう!」
「アライアンス?」
「アライアンスって言うのは、一つの冒険者パーティーが別の冒険者パーティーもしくはソロで活動している冒険者と挑もうとするクエストに協力するための一時的な同盟を結ぶって意味なんですよ!」
「ソロで活躍している冒険者同士でやるケースもありまして、事前に相談し合って手続きをすれば、分け前も公正に配られるんですよ!」
「そ、そうなんだ……」
後に俺はセリカと一緒にアライアンスをしてクエストを受けると言う形でナミネさんに報告して、目的地であるミハラ草原に向かった。
のだが…
「ミハラ草原ってセリカの家の近くじゃないか!」
「はい、そうですけど、言うの忘れてましたね」
『ヒールグラス』が生えているのはミハラ草原と言う情報は知っているものの、その場所が今お世話になっているセリカの家の近くである事が目的地に向かう途中で判明したのだ。
セリカって冒険者としての心得がしっかりしているにもかかわらず、自宅での過ごし方と言い今回の事と言い、少し天然要素でもあるのかなと思う俺だった。
そうこうしてる内に俺達はミハラ草原に辿り着いた。
「おー、まっさらな緑が広がっていて風が気持ちいなー」
「気に入っていただけました?私も悩みを抱えている時はたまにここで寝転がって気晴らししたりするんですよ」
「そうなんだ、確かに見晴らしも結構良いって思っていたところだったから……」
「気に入ってくれたなら良かったです、では『ヒールグラス』の採取を始めましょう」
「そうだね」
気を取り直して、俺とセリカさんは『ヒールグラス』の採取を始めた。
「えーと、依頼書の特徴からすると『ヒールグラス』は確か花びらの色は…ん?」
「これかな?青緑色の花びらでこの形に薄い青色の茎だし。」
『ヒールグラス』は鮮やかな青緑の花びらが外側に広がっている形や茎は青色なのが特徴的な植物だ。
基本的に引っこ抜けばいいだけなのだが、根っこも能力の成分として持っており、苦みはあるが花びらや茎よりも効能が強いらしく、傷つけてしまえばノルマにカウントされないもしくは報酬の減額に繋がるとの事だ。
確かに納品は間に合えども蓋を開けてみれば中身は不良品でしたなんて、ギルドや依頼したお客様に激怒されるのは目に見えるから俺も慎重にやらなければって話だ。
別の植物だったらと思い俺は一つのスキルを使用した。
(スキル【簡易鑑定】!)
そう念じると目に見える植物の情報が流れ込んだ。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
名前:ヒールグラス
種類:植物
レア度:E
【概要】
鮮やかな青緑の花びらが外側に広がっている形や茎は青色なのが特徴的な植物。
磨り潰して煮詰めれば体力回復のポーションになるなど汎用性は高い。
繁殖性は比較的高く手に入れ易いため、ポーション職人の練習台にもうってつけである。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
おおー、これが『ヒールグラス』であるのが一発で分かっただけではなく、ポーションにする方法まで分かるなんて、鑑定って侮れないな。
冒険者として先輩であるセリカが持っていない【簡易鑑定】って「物事の目利き」と言われているけど、それを異世界に来た段階で使えているって、何か初心者ボーナスのような気がしてきた。
俺は『ヒールグラス』を丁寧に引っこ抜いた後にセリカを呼んで見せてその外観を共有した。
「ありがとうございます、これなら私も間違えることなく見つけられそうです!」
「そうか、じゃあドンドン採取しよう、もちろん……」
「はい、根っ子は傷つけないように、ですね!」
納得したセリカは水を得た魚のように活き活きと採取に乗り出し、俺も改めて行動を再開する。
それからスムーズに採取を続け、日が落ちそうになりかける時間には…。
「トーマさん、私達で集めたら50本も集められましたね」
「そうだね」
「トーマさんが教えてくれたから、選別に無駄な時間を省けたからここまでできたんです」
「そ、そうかな?」
「そうです!」
「だとしたら良かった」
夜になろうとする頃には依頼ノルマの40本より10本多く集める事ができた。
「じゃあ、ギルドに戻って報告と納品をしにいこう」
「はい、せっかくですからお食事とかどうですか?」
「いいね、俺も丁度得た報酬もあるし……」
「いえ、大丈夫です!私に奢らせて下さい!」
「え、でも……」
「これも助けてくれたお礼の一つですし、まだお金に余力はあるのでどうか……」
「わ、分かった、お言葉に甘えさせてもらうよ」
若干のやり取りをしながら、俺達は足軽にギルドへ向かう事になり、その足で一緒に食事をする事になった。
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