何でも屋として生きていくアラサーの異世界ライフ ~サブカルチャー大好きな高卒アラサーが異世界に召喚されて現実世界で得た知識と経験をフル活用したら多方面で無双しかけている件~
カワチャン
プロローグ
人生って本当に何が起きるか分からないもの。
時は夕方、場所は電気街の雑踏の中に一人の男がいた。
黒色のショートヘアをしており、髪で隠れているが左頭頂部に3cmの傷跡が付いていた。
灰色のパーカーを羽織り白色のTシャツに紺色のデニムジャケットを着用し、茶色のリュックサックを背負っており、顔立ちも俳優ほどカッコイイわけではないが、普通の人より社会人経験を重ねた自信を少し匂わせるような人相の人物…
俺—————
高卒になってから土木工事や営業マン等の職業を転々とした末に30歳になってやっと生活の地盤が固まりつつあった。
その人生の中で俺には欠かせなくなっている要素がある。
それはサブカル、略さず言えばサブカルチャーだ。
サブカルにはアニメや漫画、ゲームや同人誌等と世の中で言えばオタクと言う文化やコンテンツが社会的に知られている。
子供の頃に偶々目にしたアニメや漫画を最終回まで真剣に見るようになった事がきっかけでドンドン嵌り、ゲームや音楽にも興味と関心を大いに抱くようになった。
好きが高じて20代前半からサブカルチャー専門店でアルバイトを始めた。
アニメや漫画が大好きな俺にとっては天国同然で活き活きと勤めており、最近働きぶりを評価され、その店の店長にまで昇り詰めた。
それまでの俺はメーカーの営業マンを2年、土木作業員の仕事を2年していたが、いずれも会社の倒産や職場の人間関係がどうしても合わなくて辞めた。
サブカル好きな同僚がいないわけではなかったが、趣味の話を始めたら大なり小なり引かれてしまう事もあった。
もちろん社内で気の合う同僚もいたので、過ごしにくいと言う事は無かった。
今では恥ずかしい話だが、営業マン時代は入社してすぐビギナーズラックを一度取って以来営業成績がパッとせずギリギリノルマを達成するのが当たり前で職を失いたくない一心で仕事をしていた。
しかし、会社が粉飾決算に手を染めていたのが判明し、それが原因で倒産してしまった。
土木作業員時代は肉体労働故に月給が高いのをモチベーションにしていたが、現場の親方と揉めたのが原因で辞めている。
飲み会でもオタク趣味がある事を知られてからは当たり障りない会話を心得て話す事はできるが、トークセンスに自信があるわけではない。
転職活動で見つけた求人が電気街の中心にある比較的規模が大きいサブカル専門店でさっきまでの職場だ。
面接当時の店長もアニメやゲームが好きなオタク趣味を持っていて意気投合、あっさり採用された。
それからアルバイト店員として働いてからは好きなモノに囲まれる幸せもあってか、毎日活き活きと仕事ができていた。
一緒に働く人達もサブカル好きがいない人は記憶にないほど趣味が合っており、飲み会でも話題のアニメや漫画で盛り上がる事もあれば、一緒に作品の舞台を周る聖地巡礼のような事をした経験もあった。
いくらサブカル好きでも仕事と趣味は分けてやっており、むしろ見た事がある作品をスムーズに案内や説明できただけでなく、特に好きだった作品は在庫の有無や豆知識の披露も客にできたレベルだった。
そのお陰で2年仕事した頃にはアルバイトから正社員として採用され、部下を束ねてはPOP作成やイベントの企画なども積極的に行い売上アップにも貢献していた。
29歳には本部のマネージャーから店長への昇進を打診された。
俺は喜んで受け入れた。
努力が報われたのは言わずもがな、自分の好きな事で会社に貢献できた事実が何よりも嬉しくて堪らなかった。
部下達も祝福してくれた。
俺はもっと頑張ろうと心に決めていった。
はずだった…。
「来月を以てこちらの店舗は閉店となる事が決定しました」
本部との定期ミーティングでエリアマネージャーから言われた冷淡かつドライな一言。
それを聞いて俺は抜けたような声が出た。
「じょ…冗談ですよね?」
「冗談でこんなセリフを言うとお思いですか?決定事項です」
そして追い討ちで言われた突き刺すような言葉に俺は絶句した。
後日俺は店員達を集めて定期ミーティングでエリアマネージャーから通達された閉店の報せを共有する。
「店長、それ冗談キツイですよ!」
「突然それはないですよ!」
「売上悪くないはずなのにどうしてですか?」
皆の怒りと不安は最もだ。
しかし、一介の店長であるが本部の決定を覆すだけの権力を持ってるはずがない。
「昨今のスポーツやファッションのブームからか、本部がハイカルチャー部門など採算がとれる部門の全面的な拡大を推し進めていてな」
「それで会社全体では縮小傾向にあるサブカルチャー部門を廃止して、そこでハイカルチャー部門の大型アンテナショップをこの建物でやりたいって株主総会で決まったんだ」
「もういくら抗議しても覆らない状況なんだ、本当に申し訳ない」
俺は深く謝った。
株式会社の株主総会とは会社にお金を出してくれる株主つまり会社の発展に貢献してくれる出資者の存在を交えて会社に関する意思決定を行うための会議であり、最高の意思決定機関である。
店長になるに伴い経営や商売に関係する勉強をした際に知った事の一つだ。
その株主総会で「サブカルチャー部門を廃止して採算が取れやすい部門を伸ばしていく」議案が採決されてしまった事を定期ミーティングで知ったのだ。
「う…私達も大声出して申し訳ございません」
「本部が決めた事なら私らだけじゃねぇ…」
「本当に申し訳ない…でも閉店まで4週間ほどあるから、ギリギリまで商品やサービスを提供していこう」
「閉店告知のPOPは俺が作るから」
皆も俺の気持ちを汲んでくれたからか、それ以上詰めては来ず、決定にも納得してくれた。
それからは閉店の準備を整えながら通常通りの営業をしていったが、表向きに出さないようしているが、心なしか活気が感じられないように見えた。
閉店が決まるのを知る前と後ではモチベーションが下がるのは当然だ。
閉店が近づくに連れて在庫一掃セールと言う形で安売りセールを行い、その割引率もモノによっては半額にしている商品もあった。
そして閉店当日、奇跡的に在庫は全て捌く事ができた。
店舗営業の最後としては決して悪いモノではなく、むしろ処分してしまう手間やコストがかからないからベストと言ってもよかった。
同時にそれは、皆との別れを意味していた。
店のシャッターを閉めた後に俺はスタッフを集めた。
「皆、最後の営業日まで真剣に頑張ってくれて本当にありがとう」
「お店は今日で閉める事になるけど、皆と過ごした日々や思い出は今でも私や皆の中に残ると思ってる。」
「これから皆の歩んでいく道はどうなるかは俺もその人本人も分からないけど、ここで働いた経験は無駄じゃないと信じている。」
「今日を以て解散とする、今まで本当にありがとう」
「「「ありがとうございます!」」」
こうして俺は皆を送った後、不動産業者やビルのテナント業者に鍵の引き渡しなどの諸々の手続きを済ませて店を後にした。
店の閉店手続きを終えて、俺は帰路に着いた。
このままどこか居酒屋によって一杯引っ掛けるのも考えたが、正直今はそんな気が起きはしない。
本部からも閉店まで働いた従業員の分の給料は保証すると電子メールで約束はしてくれたので、稼ぎで残った分の貯金と合わせて新しい仕事を探す事にした。
だがそれ以上に虚しさが勝ってしまった。
初めてやりがいを見つけた仕事を積み重ねたモノを全て奪われたような気がしてならない気持ちを抱えて、思い出していた。
「草薙さんって本当にバトル系アニメや漫画に詳しいですよねー」
「俺こう見えてバトル要素強いコンテンツ好きだからさ」
「そうですか?でも確かにちょっとひいき目で見れば強そうに見えそう」
「なんじゃそりゃ?でもありがとう。」
「おーラブコメ系の展開か?ヒューヒュー」
「ベタな囃し立てはよしなさい!」
一緒に働き時にサブカル談義を交えて飲み交わした事、聖地巡礼した時の事、同僚の推しのライブに付き合いながらも熱く語り合った事、思い出が蘇る。
虚しさと楽しかった記憶の呼び起こしが交互に繰り返され、現実に引き戻された瞬間…
「一度でいいから異世界転生してやり直せたらな~」
ふと呟いたけど、そんな事敵う訳がないい、もし叶ってくれるならどれだけ楽なのやらって話を俺の胸の中で反芻していたら住んでいるアパートに帰ってきた。
俺が住んでいるアパートはワンルームの8畳一間の部屋だ。
スペースに反して意外と広さがあり日当たりも悪くない部屋だった事、職場から歩きで行ける距離である事もあって正社員になった頃から借りていた。
家電も仕事場にほど近い家電量販店でセール品を狙って買ったものばかりだ。
ちなみによく使う電子レンジや炊飯器と洗濯機は店長に出世した際の祝いで中古だが割と新しいのタイプを購入しており、閉店が決まる直前に完済したが、分割払いだ。
支払いが残っていたらどうしようと思っていたが、分割払いやリボ払いが残っていなければ借金があるわけでもない。
悪い意味で金銭的問題は何一つ抱えていないのは良しとしよう。
もしもあったら地獄の始まりだからな。
ご飯を食べる気にならずシャワーをサクッと浴びてパジャマに着替えてベッドで横になろうかと思ったが、一つのゲームが目に飛び込んだ。
「『destiny souls』…絵柄がやたら綺麗でたまたまセールで買ったゲームだな」
タイトルや絵柄の美麗さや王道な設定のアドベンチャーゲームって事で思わず近くのゲームショップで買ったっけな?
寝ようかなと思ったけど、手付かずのゲームをプレイしていれば何か気が紛れると思ってさわりだけいじっておこうと思ってゲーム機にセットしてプレイした。
起動してゲームのOP画面が流れそうになった時…
白くも神々しささえ感じる光が放たれた。
画面から放出するだけなんてものではない…一瞬で俺の周りを包み込むように広がるような光が数十秒続き…
「うわ——————————————ッ」
俺は自分の前進がテレビの画面に引き寄せられ、気が付けば飛行している感覚はあるが、空も地面も分からないような真っ白な空間に放り出された。
そして急に意識が消えていった。
「うーん、何だったんだ?って…え?」
しばらくして目が覚めて身体を横に向けると、思わず立ち上がった。
そこは海だった。
それもどこかの国みたいに広く引き込まれ美しさを感じずにいられないような淡い翡翠色を混ぜたような鮮やかな青々とした海が目の前に広がっていた。
海の美しさに圧倒されると同じようにいつの間に移動したのか思う疑念が俺の頭を駆け巡るのを他所にある生き物が浮かんだ。
俺が知っているような鳥や魚が現実離れしたような姿で跳び回り泳いでいたのだ。
ここはどこだ?私は誰だ?と記憶喪失をした人みたいな考えをしていた瞬間…
「うわ!何だ?…って」
一つの画面のようなモノが不意に現れ、凝視すると…。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
名前:トーマ・クサナギ
年齢:29
性別:男
種族:ヒューマン(異世界人)
属性:無
レベル:1
冒険者ランク:不明
パーティー:未所属
<ベーススキル>
【腕力強化】
腕力を上げる。
<ジョブスキル>
【簡易鑑定】
レア度D以下のモンスターやアイテムの特徴を一目で判別する。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
にわかに信じ難かったが、現実離れしたモンスターらしき異形の生き物やステータスに示された「異世界人」と言うワードで俺は確信した…いやしてしまったと言う方が正しい。
「俺・・・異世界に転生、いや召喚されてしまったのか~~~~!?」
トーマは異世界に転生すると言う何気なく口ずさんだセリフが現実のモノになった事に驚きの感情が沸き上がる。
現実の世界でもアニメや漫画やゲームの話題でも異世界、それも異世界に転生してしまうもしくは召喚される話もあった。
だが、まさか自分がそうなるなんてと思うと本当に複雑な気持ちである。
事実異世界転生した時は嬉しく思ったが、海辺付近に積まれた岩に溜まった水が鏡のように反射している水面を見て驚いた。
「異世界転生してるけど、俺外見も年齢もそのままじゃないか~!」
聞いた話では異世界に転生したら現実にいたころと違う人間になったり超人みたいな能力を授かるって聞いたが、さっき見たステータスを見ても鑑定できて身体能力を少し強化できる程度だった。
ケースバイケースなのか?
しかも現実世界のマストアイテムであるスマホもどこを探しても見つからなかった。
リサーチにしても動画や画像コンテンツを見るにしてもスマホがあれば大概解決できたのになければ通話の一つもできないから手詰まりの感覚に追い詰められた気分になった。
異世界転生したらいいなって頭の片隅に思っていた夢が叶ったものの、文字通り着の身着のままをほぼ体現した状況に焦りが勝ってしまった。
どうすればいいんだと思い困り果てそうになった瞬間…
「ゴオオオオオオオオッ!」
「うお!何だ?」
振り向いた森林に目をやると、人間のような形をしつつ緑色の肌に赤い眼、そして長めの鼻や前歯に鋭い牙を生やしたモンスターらしき生き物が3体同時に姿を現す。
中央にいる一体は左右にいる個体より体格や持っている棍棒は一回り大きい。
そのモンスター達が目をやる方角を見ると…
「はぁ…はぁ…」
そこには長い銀髪を靡かせ軽装に身を包み、剣を構えながら向き合う一人の女性がいた。
自分が今更って思ったが、俺は本能的に思った。
「あの女性を助けなければ…」
そして俺は真剣な表情をしながら女性の下へ走り出す。
だが俺はこの時知る由もなかった。
彼女との出会いをきっかけに自分の未来、そしてそれを取り巻く者達の未来さえも変えていく事に……。
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