ホラー短編
斎藤 三津希
留守番
あれは確か、小学校高学年なりたての時期でした。
僕の親は共働きだったので、防犯上の理由から小学校低、中学年の間は学校が終わっても、すぐ家に帰るのではなく、学童と呼ばれる場所で親の迎えを待って帰るのが当たり前でした。
しかし、父と母の話し合いの末に「留守番の経験をさせるべき。」との結果に落ち着き、小学五年生になったのを皮切りに留守番を任せられるようになりました。最初こそ不安でしたが、僕を信頼して家の留守を任せてくれている事の嬉しさと両親不在の家を自由にできる事の楽しさからあっという間に慣れました。
そんなある日、いつものように留守番を行っていた時、『ドンッドンッドンッ』というガラスを拳で殴ったであろう独特で鈍い音が家中、少なくとも一階全体には響きました。僕はその時トイレに
「まさか、不審者?!」と思い、焦りましたが、一旦冷静になるべく心を落ち着かせた後、音の発生源へと足音を消して近づきました。
あの音の発生源はリビングと庭を繋いでいる当時の僕より遥かに大きいガラス窓で、そのガラス窓の奥に肩までかかる長髪の人型の影がいたんです。
当時の僕は両親がいないことを良いことにテレビにゲームの画面を表示させて大画面でゲームをプレイしていたのですが、ガラス窓からの光がゲームを妨害していたので、光を遮断するためにガラス窓の両端にあるカーテンを閉めていて窓の奥にいる人物については影しか、わかりませんでした。
トイレで落ち着かせた心も何故か叩かれている自宅のガラス窓を見た後では意味をなさずに思考を止めるだけで、その場に立ち尽くしていると影の主が喋りかけてくるんですよ。
ドンッドンッドンッ
「悠(仮名)?お母さん鍵忘れちゃって家入れないのよ。だから開けてー」
聞きあきる程に聞いた母の声でした。よく考えてみれば背丈も長髪も母そのものでした。
なんだ、お母さんか。と窓を開けようとした瞬間、テレビに映るゲーム画面が飛び込んできて思ったんです。「ヤバい、留守番してる間ゲーム
『カチャン』と鍵が開いた音に間髪いれず、「ただいまー。」という声が。
焦った僕はソファとクッションの間にゲームを隠して「おかえりー。鍵見つかったんだね。」とゲームが見つかるかもしれないという緊張感からの汗を流して対応したんです。しかし、母は「鍵?別に忘れてないけど?」
母の発言に緊張感からの汗が油汗に変わったのと同時に僕は隠してるゲームそっちのけで窓に目線を移しました。
その日から留守番中のリビングで行う大画面でのゲームをやめて、自分の部屋でゲームをするようになりました。
ですが、それ以降、母によそよそしくなるなんてことはなく、今年で成人を迎えました。成人を迎えた日には家族で僕を祝ってくれて家族仲も良好です。
父と母からは「大学がまだ二年あるけどあっという間」や「社会に出たら、わからないことだらけなんだから、わからない事があったら親に頼るなり、聞くなりしろよ」という言葉をもらいました。
ですが、あの時、母はリビングの窓を叩いて僕に開けるよう頼んだかについては、僕は聞きたくもなければ答えを知りたくもないです。
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